たぶん個人的な詩情

本や映画の感想、TRPGとか。

たぶん個人的な詩情

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読書

【読書感想】ヘーシオドス『仕事と日』――人類よ、農業に励め。ニートに送る仕事のすゝめ。

ヘシオドスの『仕事と日』を読んだ。正直言って、この偉大なる古代ギリシアの詩人について知っていることはほとんどなかった。彼の手によるとされる二つの作品についても、受験で覚えた以上のことは何も知らない。 この詩を読もうと思ったきっかけにしても、…

【読書感想】『暗黒神話体系クトゥルー4』――初心者にもお勧めのバラエティに富んだクトゥルー神話譚。ラヴクラフト、スミス、ハワード、ダーレス、ブロック……。

はじめに クトゥルフ神話初心者にどの一冊を勧めるか。この問題については読者各人それぞれご意見をお持ちのことだと思います。私自身この問題については長年聞かれてもいないのに考えてきました。 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集』は初版の刊行から50…

【読書感想】鈴木光司『仄暗い水の底から』――仄暗さと温かさと人間の光と影。水にまつわるホラー短編集。

暦を見れば8月も既に半分が過ぎ、気付けばお盆も終わっていた。海外においてゴーストストーリーが冬の風物詩なのに対し、日本の怪談の季節と言えば夏をおいて他にはない。下記の記事によれば「涼み芝居」と称して幽霊の出る演目を歌舞伎で上演したのが夏に…

【読書感想】岡本綺堂「山椒魚」――女学生の死と山椒魚。木曾の旅籠屋、匂い香り立つ探偵小説。

はじめに 山椒魚を扱った小説と言うと、まず井伏鱒二の「山椒魚」が頭に浮かぶ。岩屋から出られなくなった山椒魚の悲嘆を描いた作品だが、実際本作の感想の中にも、井伏のものと勘違いして読んでしまったとの感想をよく見かける。 またこちらは未読だが、ア…

【読書】大阪圭吉「デパートの絞刑吏」――落下した絞殺死体の謎。作りは王道、真相は独特。

スマホに入れていたキンドルのアプリを数カ月ぶりに開いてみたところ、見慣れぬ作品がライブラリからこちらを見ていた。サムネを見る限り、どうやら青空文庫の一冊のようだが、ダウンロードした覚えはない。 いや、それはいささか誇張してしまった。記憶は不…

【ラノベ】『ロールプレイングワールド』――異世界で能力を授けられた高校生たち。果たして彼らは元の世界に帰ることが出来るのか。

はじめに 一昔前のライトノベルを読んでいると、続編や結末が描かれないままに終わりを迎えてしまった作品と出会うことがままあります。それが打ち切りに値する程度の作品だと断じてしまえるのなら話は簡単なんですが、打ち切られたことに一抹の寂しさを感じ…

【読書感想】『ハラサキ』――生まれ故郷へ失われた記憶を求めて。ゲーム的であることの功罪。

多種多様。角川ホラー文庫に対するイメージはまさにこの言葉に尽きます。ラノベ調の軽めのものから日本を代表する硬派なホラーまでより取り見取り。ホラー系の作品が読みたい時、取り合えず選択肢に挙がるレーベル。それが角川ホラー文庫だと思います。 で、…

【読書】『クリムゾン・リバー』大学町で起きた猟奇的な事件とその裏に隠された秘密。映画版好きにも是非読んでほしい傑作。

いつぞやの「午後のロードショー」にて、フランス制作のサスペンス映画、『クリムゾン・リバー』を見ました。舞台はアルプスの麓にある大学町ゲルノン。そこで発見された他殺遺体は拷問され、そのうえで目玉がくり抜かれていた。 場違いな猟奇殺人犯を捕まえ…

読書:『5000年前の男』――彼はどこから来たのか。彼は何者なのか。アイスマン発見にまつわる物語。

先日感想を書いた『神の起源』と言う小説では、南極での4万年前の死体の発見が、主人公たちを世界的陰謀に巻き込む切っ掛けとして描かれていました。このエピソードはもちろんフィクションですが、この話に説得力を持たせるため、作中ではアルプス山脈で発…

【読書】J・T・ブラナン『神の起源』――死体、南極、4万年前。世界規模の陰謀を巡るSF風スリラー小説。

南極で未知の繊維製の服を着た死体を発見したNASAの研究チーム。死体の眠っていた断層から、死体はおよそ4万年前のものだと判明。早速上司に報告するが、一方でそれを盗聴する謎の組織が存在した。 死体は軍によって回収され、急遽帰途に就くこととなったチ…

【読書感想】ダン・ブラウン『インフェルノ』ダンテに導かれ東奔西走。刻々と迫るタイムリミットにラングドンは間に合うのか――。著者の新境地を見る意欲作。

はじめに 久しぶりにダン・ブラウンを読んだ。彼の作品の面白さは、その息もつかせぬスピーディな展開と、読者の知的好奇心をくすぐる数々の蘊蓄、旅行欲を掻き立てる芸術や街並み、建造物の描写にあると思う。静と動、この二つを共存させるバランス感覚は素…

読書:アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』神への理性的アプローチ。知的興奮間違いなしの傑作。

先日、ユタ州の砂漠にて奇妙なものが発見されたと言うニュースが話題となった。それは何と、映画『2001年宇宙の旅』に登場する謎の石柱状の物体、モノリスを彷彿とさせるオブジェクトであったのだ。 公安局はこれについて「許可なしに連邦当局の管理する公有…

読書:リチャード・マシスン『奇術師の密室』――究極の傍観者は何を見たのか。

リチャード・マシスンと言うと、私にとっては『地球最後の男』や『縮みゆく男』を書いた小説家であり、例に漏れずどうしてもホラーやSFのイメージが強いんですよね。あの『ナイトランド』でも追悼企画が組まれていたことですし。 ナイトランド(vol.7)…

【読書感想】瀬川ことび『お葬式』――恐怖と笑いは紙一重。可笑しみに溢れたホラー短編集。

笑いと恐怖の境界線は、思いのほか曖昧なのではないだろうか。そんな思い付きを裏付けるかのように、よくよく考えてみれば不思議で恐怖を伴う光景であるはずなのに、思わず笑みがこぼれてしまう、なんて状況はそう珍しいことではない。 もしかするとそれは、…

読書:『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』――今の自分を認めてあげたくなる一冊。

この本のタイトルを始めて見かけた時のことを未だに覚えている。それは確か、本屋で平置きの本を眺めている時のことだった。 感じたのは、鈍器で頭を殴られたかのような衝撃と、ある種の嫉妬。誠におこがましいことだが、文章を生業にしたいと一度でも考えて…

読書:水生大海『少女たちの羅針盤』――演劇にかけた青春。そして少女の死。

青春の一ページが輝いて見えるのはどうしてだろうか。失われた過去として、未体験の憧れとして、手の届かなかった理想として。人それぞれ捉え方の違いはあれど、そこには今ここにないものとしての青春が反映されている。故に私たちの思い描く青春は、どうし…

【読書感想】菅谷明子『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―』――「知」のインフラとしての図書館。そのあるべき姿。

はじめに このご時世と言うこともあって、図書館に行く頻度がめっきり減った。自分事で恐縮ではあるが、ここ最近で言えば、必要に駆られて国会図書館並びに都立中央図書館に足を運んだくらいだと思う。 行くことになるまで知らなかったが、最近ではコロナ対…

読書:三谷宏治『戦略読書〔増補版〕』――読書には戦略が必要だ。なにを、いつ、どう読むかと言う問題。

なぜ本を読むのかと言う問いへの応えは十人十色。好きだから、学びたいから、何となく、惰性で、明日の課題のために……etc。 人それぞれに読む理由はあれど、その理由は大きく分けて二つ。それは目的意識の有無によって大別される。 楽しさを求めて本を読む場…

読書:クーンツ『ストーカー』――逃走の果てに、彼は何を得たのか。

クーンツ『ストーカー』を読了。誤解を恐れずに言えば、クーンツの魅力の一つは、最低限楽しませてくれることだと思っています。打率が安定していると言いますか、大きく外れることがないんですよね、これまでの経験上。 とは言え、そこまで彼の作品を読んで…

【読書感想】秋吉理香子『暗黒女子』――ある少女の死にまつわる六つの物語。多角的な視点から見えてくる少女の姿とは。

暗黒女子 (双葉文庫) 作者:秋吉 理香子 出版社/メーカー: 双葉社 発売日: 2016/06/16 メディア: 文庫 名門女子高で、最も美しくカリスマ性のある女生徒・いつみが死んだ。一週間後に集められたのは、いつみと親しかったはずの文学サークルのメンバー。ところ…

読書:王銘琬『棋士とAI――アルファ碁から始まった未来』――プロ棋士によるAI時代の人間像。

昨年末に発表されたイ・セドル氏の引退は、末端の囲碁ファンである私*1にとっても一つの時代の終わりを感じさせられる出来事でした。彼は辞表を提出した際のインタビューにおいて、越えられない壁として立ちはだかるAIの存在について触れたようです。 Google…

【読書感想】加門七海『祝山』――もう肝試しなんてしない。思わずそう決意を固めたくなる実話怪談風ホラー。

はじめに 海外の怪奇小説は好んで読むのに対し、国内のホラー作品はあまり読んだことがありません。食わず嫌いと言うのもありますが、それ以上に読むのが怖いと言うのが大きな理由として挙げられます。何を馬鹿なと思われるかもしれませんが、海外ものはあく…

読書:D・プレストン&L・チャイルド『レリック』――質の高いB級作品はB級なのだろうか。

たまたま手に取った本が予想以上に面白いと何だか幸せな気分になってしまう。そんなちょろさを久々に発揮させられたのが、今回感想を書いて行く『レリック』です。落差が恐いため、普段はあまり期待せず作品に臨むことにしているんですが、本作はそんな保険…

読書:エレン・ダトロウ編『ラヴクラフトの怪物たち 上』――現代作家による粒揃いのクトゥルフアンソロジー。

クトゥルフ熱の高まりにより、ちょっと前に買っていた『ラヴクラフトの怪物たち』の上巻を読了。ここ最近*1は新潮文庫でラヴクラフトが出たり、青心社からもアンソロジー*2が出たりと、この界隈が活発なようで嬉しい限りです。新紀元社はこれまでクトゥルフ…

【読書感想】コリン・ウィルソン『ロイガーの復活』――コリン・ウィルソンなのに最後まで面白い怪奇小説。

TRPGのシナリオで「ロイガー」を使いたいと思い立ち、前々から気になっていた『ロイガーの復活』を読了。ラヴクラフト風の書きぶりながらコリン・ウィルソンの持ち味がしっかりと活かされた中編で、今まで読んで来た彼の小説の中でも一、二を争うほどに面白…

読書:タニア・ハフ『ブラッド・プライス―血の召喚―』――都会の闇と女探偵とファンタジー

タニア・ハフ『ブラッド・プライス』を読了。手軽に読める本をと思い手に取った本作ですが、その予想に違わず読みやすく、気付けば一気に読んでしまいました。 ブラッド・プライス―血の召喚 (ハヤカワ文庫FT) 作者: タニアハフ,Tanya Huff,和爾桃子 出版社/…

【読書感想】エリック・ジッリ『洞窟探検入門』――洞窟の種類からアタック方法、果ては生存戦略までお手の物な入門書(?)。洞窟に挑む際は是非。

〇〇入門的な本はそれこそ星の数ほどありますが、それらを大別するならば、入門書は教養系とハウツー系の二つの系統に分けることができると思います。ざっとAmazonの書籍ジャンルで「入門」と調べてみた限りでは、教養系では哲学を中心とした思想系が強く、…

読書:ニコラス・コンデ『サンテリア』――現代に甦った正統派怪奇小説。

ニコラス・コンデ『サンテリア』を読了。ずいぶんと前から本棚の肥やしになっていたんですが、これがよかった。とてもよかった。久しぶりに骨太の怪奇・恐怖小説を読めて新年早々幸先がいいなと思っています。 サンテリア (創元推理文庫) 作者: ニコラスコン…