たぶん個人的な詩情

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読書:ニコラス・コンデ『サンテリア』――現代に甦った正統派怪奇小説。

ニコラス・コンデ『サンテリア』を読了。ずいぶんと前から本棚の肥やしになっていたんですが、これがよかった。とてもよかった。久しぶりに骨太の怪奇・恐怖小説を読めて新年早々幸先がいいなと思っています。

サンテリア (創元推理文庫)

サンテリア (創元推理文庫)

 

最愛の妻を事故で失い、人類学者のキャルは六歳の一人息子とともにニューヨークへ引っ越してきた。だが街はいま、奇怪な幼児連続殺害事件に震撼していた。死体はどれも内臓を抜きとられ、まるでなにか宗教的儀式の生贅に捧げられたかのよう。やがて事件はキャル父子をも呑みこんで……。大都会に蠢くヴードゥ=サンテリア教の恐怖を、あますことなく描ききった本格オカルト小説。

本作は主人公の人類学者が、儀式によると思しき殺人事件に興味を持ったことから徐々にヴードゥの深みへと嵌まっていき、当初の懐疑主義的スタンスもどこへやら、偏執病的な状況へ追い詰められていくという典型的な怪奇小説

終盤まで大きな動きはないものの、そこまで読者を引っ張る筆力は確かで、600ページを超える分厚さながら、最後まで読み手を飽きさせません。娯楽性の高いコリン・ウィルソンとでも言いましょうか、虚実入り混じった世界をもっともらしく物語る手腕は流石というほかなく、これがデビュー作とはとても思えない出来栄えです。

何より、そうした読者を引き込むための世界の構築、描写において、余計なものを削ぎ落としているというのがすごい。こうした作品では大抵、筆が滑るのか、説得力を持たせるそうした工夫において、蛇足で助長な文章、展開が見受けられる傾向にあります。もちろんそれも怪奇小説を読む醍醐味ではあるんですが、エンタメという観点からみるとそれらは正しいとは言えず、そうした欲を抑えていることがこの小説の完成度の高さに繋がっているように思います。

実在の宗教であるヴードゥと、「人種のるつぼ」としてのニューヨーク。それらを巧みに用いて独自の世界を作りあげた本書『サンテリア』は、帯に書かれた「本格オカルト小説の金字塔」の言葉に恥じぬ作品と言えるでしょう。

序盤から積み上げられてきた伏線、張り詰めた緊張が、最終的に実を結びカタルシスへと至る、この気持ちよさは格別というほかありません。古き良き怪奇・恐怖小説の衣鉢を継ぎつつ、モダンホラー的な現代的不安を見事に結び合わせた本作、機会があれば是非読んでほしい一冊です。

では以下ネタバレありで感想。

なんだか絶賛ばかりしてしまいましたが、それほどまでに面白かったです。当初はもう少しアクション――例えば刑事と連携しつつの捜査――なんかがあるのかと思いきや、そんなものなくても十分面白い。

最後まで超常的な現象、つまりヴードゥの神々や魔術が真実なのかわからない、真相は闇の中、というのはネタバレするからには触れざるを得ない点でしょう。もちろんほぼ存在するものとして描かれてはいますが、トーリイの顔の腫れにしても蜘蛛の卵が原因と、具体的な証拠はありません。この呪いは存在するのか、という疑念を読者は拭い切れないだけに、最後の緊急放送が引き立ちます。その際の緊張感・絶望感と、壁当てをする息子という対比も見事。

そのほかネタバレをしつつ触れたかったのは、蜘蛛が顔から溢れだすというトーリイへの呪い関連。よくないことが起こるとは読み手としてわかっていても、その上を行く気味の悪さと生々しい描写にはある種の感動を覚えてしまいました。

主人公の宗教への不寛容、オカルトを確信する際の飛躍が若干気になりはしましたが、総じて面白い作品だったと思います。映画も機会があれば観てみたいところです。

では今回はこの辺で。