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【読書感想】コリン・ウィルソン『ロイガーの復活』――コリン・ウィルソンなのに最後まで面白い怪奇小説。

TRPGのシナリオで「ロイガー」を使いたいと思い立ち、前々から気になっていた『ロイガーの復活』を読了。ラヴクラフト風の書きぶりながらコリン・ウィルソンの持ち味がしっかりと活かされた中編で、今まで読んで来た彼の小説の中でも一、二を争うほどに面白かったです。

内容は同作者による『賢者の石』の縮小版と言ってよいのですが、コリン・ウィルソンにしては珍しく、最後まで「小説」していると言うのがあちらとの大きな違いでしょうか。言い換えれば、彼の思想を表明する場として小説が使われていないんですよね。

史実と虚構を織り交ぜる彼の手腕、序盤から中盤にかけての「はったり」に常々魅せられてきた自分としては、このノリが最後まで徹底された本作の評価が高くなるのは当然と言えば当然でしょう。

本書にも併録されている「ネクロノミコンの歴史」において、リン・カーター*1ラヴクラフトについて「純粋な作り話で大部分を固めるなかに現実の歴史的事実を挿入するテクニックを、もっとも効果的に用いている。」と評していますが、これは言い得て妙で、確かにラヴクラフトが現実を扱う手法は「挿入」と呼ぶべきものだと思います。

それに対してコリン・ウィルソンは、同じく効果的に歴史的事実を創作の中で用いますが、こちらはむしろ「結合」のテクニック、一見無関係な点と点を繋ぎ合わせるテクニックだと言えるのではないでしょうか。

例えば、本作において中核となるアイデアヴォイニッチ手稿ネクロノミコンはもとより、ロイガー(Lloigor)のスペルに着目し、ウェールズの地と結び付ける*2発想は流石と言う他ありません。大筋はスタンダードなクトゥルフものながら、こうしたところでしっかりと差別化できていると読んでいて新鮮ですし面白いですね。

また彼の持ち味である多様な薀蓄も勿論完備されていて、特にアーサー・マッケンについては触れられている箇所が多く、こんなことならマッケンの作品をちゃんと読んでおけばと思わされるほどでした。人によっては好き嫌いが分かれそうですが、ウィルソンのペダンティックな語り口は個人的に好きだったりします。

内容については深く踏み込みませんが、ロイガーと言う存在については触れておきたいので最後にこれだけ。作中でロイガーを悲観主義者、地球及び人類を楽観主義的なプラスの存在として描くのは、ウィルソンの思想が見え隠れしていて面白かったです。人類の克服すべき問題を可視化し、創作の中でも啓蒙しようとするのはとても彼らしく、このような思想色を薄めた作品でもやるんだなあと。ロイガーが不可視の存在として描かれているのも意味深長でしょう。

本書には「ロイガーの復活」の他、先述したリン・カーターの「ネクロノミコンの歴史」に加え、コリン・ウィルソンによる「X機能と非合理的知識について」と言う小論が併載されています。前者は創作における『ネクロノミコン』の来歴がコンパクトにまとまっていて便利ですし、後者は短いながら、コリン・ウィルソンを考えるうえで重要な内容を含んでいるように思います。また団精二こと荒俣さんの解説も丁寧で読み応えがあり、ウィルソンについてまとまった知識を得ることの出来る内容です。

短い本ながら手堅くまとまっていて、個人的に大満足の一冊でした。結局ロイガーを使ったシナリオを使う機会は流れてしまったんですが、読んだ甲斐はあったのかなと。クトゥルフ熱が地味に高まっているので、今後は積極的に読んで行こうと思っています。

では今回はこの辺で。

ロイガーの復活 (1977年) (ハヤカワ文庫―NV)

ロイガーの復活 (1977年) (ハヤカワ文庫―NV)

 
ロイガーの復活 (ハヤカワ文庫 NV 140)

ロイガーの復活 (ハヤカワ文庫 NV 140)

 

▶ロイガーの復活 / THE RETURN OF THE LLOIGOR (1969)

▶著者:コリン・ウィルソン

▶訳者:団精二 (荒俣宏)

▶カバー:金森達

▶発行所:早川書房

▶発行日:1977年5月31日

*1:ファンタジー・SF作家兼評論家。本人もクトゥルフ神話に基づいた著作を残している。

*2:Lを重ねる表記はウェールズ語の特徴。