たぶん個人的な詩情

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読書:D・プレストン&L・チャイルド『レリック』――質の高いB級作品はB級なのだろうか。

たまたま手に取った本が予想以上に面白いと何だか幸せな気分になってしまう。そんなちょろさを久々に発揮させられたのが、今回感想を書いて行く『レリック』です。落差が恐いため、普段はあまり期待せず作品に臨むことにしているんですが、本作はそんな保険をかけていようとも、読む者の期待感を否応なく高めてくる。そのうえでその期待を裏切らないのだから有り難い限りです。

レリック〈上〉 (扶桑社ミステリー)

レリック〈上〉 (扶桑社ミステリー)

 
レリック〈下〉 (扶桑社ミステリー)

レリック〈下〉 (扶桑社ミステリー)

 

膨大なコレクションと優秀な研究スタッフを世界に誇るニューヨーク自然史博物館――その地下で二人の少年が惨殺された。遺体はずたずたに切り裂かれ、しかも脳の視床下部が消えていた。謎の殺人鬼の正体はつかめぬまま、『迷信展覧会』の開会を目前に控えた博物館側は、強引にその準備を進めていく。この画期的な展覧会の目玉の一つが、アマゾンの謎の種族コソガにまつわる伝説の悪魔「ンブーン」を模した立像だった。だが立像を発見した博物館遠征隊は、全員が死亡するという悲劇的な末路を迎えていたのだった…。

本作はサイエンスライターでもあるダグラス・プレストンと、彼の編集者であったリンカーン・チャイルドによるSFパニック小説。プレストンはこの小説以前にアメリカ自然史博物館を題材としたノンフィクション『屋根裏の恐竜たち』*1を書き上げており、博物館を舞台とした本作ではその経験が存分に生かされているようです。

曰く付きの立像に凄惨な殺人事件と、あらすじから漂うB級臭に嘘偽りはなく、あらすじにピンと来たら是非読んで欲しい作品です。安請け合いは恐いですが、B級感ましましのエンタメが好きならば間違いないと思います。

もちろんただのB級パニックではなく、サイエンスライターらしい科学ネタも随所に散りばめられており、その辺りも含めて読み応えのある作品となっています。日進月歩で進む領域だけに、どうしてもネタが古びている感は否めませんが、B級テイストの強い本作においてはそれも外連味に繋がっているので個人的にはありかと。

博士論文を進める若手女性研究者を主人公に、彼女の指導教官である老学者や、抜群の冴えと教養の高さを見せるFBI捜査官などなど、魅力的な登場人物が事件の謎に迫っていく展開はワクワクさせられます。惜しむらくは、彼らの協力体制が築かれるのがいささか遅く、真相に至る描写が早足で済んでしまうこと。これは好みの問題だと思いますが、もう少しじっくりと調査パートが描かれる方が個人的には好みだったりします。

とは言え、それらを考慮しても面白い作品であることに変わりはないですし、十分満足の行く出来栄えの作品でした。これだから前情報なしに古本を漁るのは止められませんね。ちなみに本国アメリカでは『ジョーズ』『エイリアン』『ジュラシック・パーク』と言った作品を引き合いに出しつつ本作を評しているようですが、流石にそれらと肩を並べるには力不足は否めないものの、言いたいことは分かります。

これは内容とは関係ありませんが、扶桑社ミステリーは背表紙に原書のカバーが載せられているのが良いですよね。

以下、ネタバレしつつ感想を書いて行くので気になる方はご注意を。

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早速ですが、ネタバレをするからには事件後のカワキタの姿を描いたエピローグと、その中で語られたンブーンの正体について触れておかなくては嘘と言うものでしょう。まずンブーンの正体についてですが、妙にあっさりと退治されるなあと思いきや、エピローグでずしりと重い真相が明かされ、なるほどなと唸らされてしまいました。ンブーンについては、フロック博士のカリスト効果を証明する異常種として端から受け入れていたため、疑いすらしていなかったんですよね。

ありがちな展開ではありますが、伏線は十分に張られていましたし、ンブーン=フィットルシーは良いオチだったと思います。読んでいる最中、彼の日誌において、老婆が植物を指して悪魔と呼んでいたことに引っかかってはいたんですが、なるほどなあと。思い返せば、カスバートの懇願に対してンブーンが示した反応も、正体がフィットルシーであればこそのものだったんですね。

またカワキタによる意味深なラストについても、ありがちとは言え、ホラーのオチとしては個人的に好きだったりします。ただハッピーエンドで終わってしまうのは、ホラーとしての情緒に欠けますよね。

と、最後まで面白い作品ではあったんですが、上でも書いた通り、登場人物間の連携が取れていなかったのは少し勿体なかったかなと。博物館組と警察組が最後まで情報を共有せずに進んで行くのは、情報が揃っている読者としては歯がゆいものがあります。またこの手の作品において、情報を統合して真相に迫っていくことに魅力を感じる身としては、その辺りが弱いのも残念でなりません。何と言いますか、マーゴとスミスバックが情報を占有し過ぎているんですよね。味方のフロック博士にすら情報を明かさない上に、それらを活かして事件の解決に寄与するわけでもないと言う……。そもそも主人公であるマーゴのキャラクターが弱く、その辺りもこれらの不満に繋がっている要因なのかも知れません。

最後はちょっと愚痴っぽくなってしまいましたが、面白い作品だからこそ出る不満であって、これらに作品を貶す意図はないのだと、念のため断っておきます。ちなみに本作、あとがきにもある通り映画化もしているようなので、機会があれば観てみようかと。

では今回はこの辺で。

▶レリック / THE RELIC (1995)

▶著者:ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルド

▶訳者:尾之上浩司

▶カバー・デザイン:小栗山雄司

▶発行所:扶桑社

▶発行日:1997年5月30日

*1:訳者あとがきによれば未訳となっているが、邦訳は1991年に心交社より出版されている。