たぶん個人的な詩情

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映画:『地獄の黙示録 ファイナル・カット』――ここが終着点。

不要不急の外出は避けるように。そんなお達しが厚生労働省からあったわけですが、流石にこれを見逃したら悔いが残ると思い、先日映画館へ行ってまいりました。

場所はTOHOシネマズ新宿。平日の昼間とあって人は少なめかと思いきや、思いのほか人が多く、中でも暇を持て余したらしき高校生を多く見かけたのは印象的でした。暇つぶしの選択肢として映画が選ばれるのは、一映画好きとしては嬉しいですね。まあ、今回取り上げる映画にそう言った層はいなかったわけですが。

閑話休題

と言う訳で、今回は『地獄の黙示録 ファイナル・カット』の感想です。内容に関するネタバレが含まれるので、気になる方はご注意を。まあネタバレが問題となるほど軟な映画ではないんですが、念のため。

ちなみに、もし公開期間内にこれを読んでいて、少しでもこの作品に興味を持っているのなら、こんな駄文を読んでいないで、是非映画館に行って欲しい。そんな元も子もないことを思ってしまうほど、映画館で観る『地獄の黙示録』はすごかったです。


映画『地獄の黙示録 ファイナル・カット』予告編

言わずと知れた名作『地獄の黙示録』。1979年に公開され、2001年に特別完全版が制作された本作ですが、現在劇場で公開されているのは、特別完全版にコッポラ自らが手を加えた最終版となるファイナル・カット。

このファイナル・カットは、ネガや音声に手を加えて画質や音質が向上している他、200分を越えていた特別完全版から20分も短くなり、182分にまで短縮されています*1。カットしてなお三時間を越える長さではありますが、そのお蔭でだいぶすっきりしたと言うのが個人的な感想です。まさに終着点に相応しい出来栄えだと思います。

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ここが終着点。

さて、以下はただの感想の垂れ流しとなります。好きなシーンやポイントについて語っていくだけで、『闇の奥』がどうのとか『金枝篇』が云々、と言った考察は含まれていません。ご了承ください。

まず今回初めて劇場で観たわけですが、改めて『地獄の黙示録』が凄まじい映画だということを再確認させられました。圧と言いましょうか、兎にも角にも熱量がすごい。撮影における制作陣の苦労や努力を知らずとも、この映画に膨大なエネルギーが込められていることを感じずにはいられません。

そんな内容の重さとIMAXレーザーの素晴らしい環境も相まって、満足感と同時にかなりの疲労感を味合わされました。実は睡眠不足の中で観に行ったんですが、これが途轍もなく効きまして、帰宅後すぐにバタンキュー…とも行かず、体は疲れているのに脳は興奮して眠れないと言う有様。上映時間も長いですし、行くのならあらかじめ十分な睡眠を取って欲しいと思います。

さて、ここからは内容に即した感想を始めさせてもらうわけですが、もう初っ端のプロペラ音だけで大興奮。ドアーズの「ジ・エンド」をバックに燃やされるジャングル、これがめちゃくちゃ良いんですよね。

そしてブラインド越しにウィラードが呟く“Saigon, shit, I'm still only in Saigon.”がもうたまらない。これを聞くと体が勝手に『地獄の黙示録』にギアを合わせちゃうわけなんですが、ここのマーティン・シーンの声がめちゃくちゃ好きだったりします。なんでかは分からないんですが、好きなんですよね。

その後、シャワーを浴びて(髭を剃って?)雰囲気が一変するマーティン・シーンもいいですし、ブリーフィング時の不穏な空気も好きです。あとハリソン・フォードが若い。若いと言えば、ローレンス・フィッシュバーンも若い。

また、これに触れなければ嘘と言うもの、キルゴア中佐による爆撃は想像以上の迫力でした。IMAXの音響で鳴り響くワーグナーと騎兵隊による爆撃音は凄まじく、思わず感動してしまいましたね。言ってしまえば一方的な虐殺でしかないんですが、痺れる映像に仕上がっているのも流石だなあと。ここで描かれるキルゴアの爽やかで健全な狂気からは、カーツの淀んで不健全な狂気とはまた違った恐ろしさを感じさせられます。これを観るためだけにでも是非映画館へ行って欲しい。

で、今回改めて劇場で観ていて印象に残ったのは、ド・ラン橋にてグレネードランチャーをぶっ放す一兵士、ローチの活躍でした。闇の中からベトコンが罵詈雑言を飛ばす中、ローチと呼ばれる兵士がグレランで彼らを黙らせる。ここでグレランを撃つ前にカセットの音楽を止め、照明弾の申し出を断るのが良いんですよね。

腕に自信があって撃っているのか、ある種の狂気による自信なのか、ローチの表情からは窺い知れない。とは言え、実際にベトコンの声は途絶えている。これがもの凄く不気味でして、映像の美麗さも相まって画面から目が離せませんでした。その後、指揮官を知っているかとのウィラードの問いに「ああ」とだけ答えて去っていくのも素晴らしい。まさに狂気を象徴するシーンなわけですが、暗闇の中での光の演出が綺麗で、ランスが見惚れてしまうのも頷けます。

そして今回改めて感じさせられたのは、マーティン・シーンが良い役者だと言うこと。主演らしいわざとらしさはないのに、しっかりとした存在感を放っている。彼の表情や立ち居振る舞いはもちろん、カーツについて語る独白も雰囲気があって好きです。カーツに惹かれて行く過程が感じられますし、彼の独特な声は聴く者を強く惹き付けます。

前半はまっとうな戦争映画のように話が進む本作、ボートを盗み出す際やトラから逃げ終えた後のシーンなどからは、戦争映画特有の青春感すら感じます。しかし、任務に関する機密や、深まっていく狂気のために不和が生じていく。観る者が抱いていた戦争映画と言う理解は徐々に通用しなくなり、我々はいったい何を見せられているんだろう、と言う境地へと至る。そんな理解を拒絶する複雑さが、衒学趣味によるものなのかはさておき、そこに人が惹き付けられるのもまた事実。

結局何が言いたいのかと言えば、よく分かっていないけど『地獄の黙示録』が好きだということです。この他、フランス人入植者のロクサーヌが美しいだとか、デニス・ホッパーの狂人具合、ウィラードがカーツを殺しに行くシークエンスの魅力など、語りたいことはまだまだありますが、逆に語りたくないところを探す方が難しいので、これぐらいにしておこうと思います。

最後に改めて『ファイナル・カット』について言わせてもらえば、先にも触れたようにまさに40年越しの終着点、特別完全版の上位互換だと思います。特別完全版を観ていた際にくどく感じていた部分がカットされていて、テンポがかなり良くなっています。中でもカーツの宮殿でのシーンは長かったですし、アメリカがベトコンを生み出したなどの説明は余計だと思っていたので、個人的には適切な編集だったかなと。

映像も綺麗になっていますし、見えやすくなったことによる新たな発見もあるはず。個人的には、先に触れたド・ラン橋の美しさがその最たる例ですね。

と、だらだら書いてきましたが、今回はこの辺で。このご時世で強くお勧めするのは心苦しいですが、行ける環境にあって興味があるのなら、是非劇場に行って観て欲しい作品です。

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▶Apocalypse Now:Final Cut / アメリカ (2019)

▶監督:フランシス・フォード・コッポラ

▶脚本:ジョン・ミリアスフランシス・フォード・コッポラマイケル・ハー(ナレーション)

▶制作:フランシス・フォード・コッポラ

▶撮影:ヴィットリオ・ストラーロ

▶編集:リチャード・マークス

▶音響デザイン:ウォルター・マーチ

▶音楽:カーマイン・コッポラ、フランシス・フォード・コッポラ

▶キャスト:

マーロン・ブランド:ウォルター・E・カーツ大佐

ロバート・デュヴァル:ビル・キルゴア中佐

マーティン・シーン:ベンジャミン・L・ウィラード大尉

ローレンス・フィッシュバーン:タイロン・“クリーン”・ミラー

ハリソン・フォード:ルーカス大佐

デニス・ホッパー:報道カメラマン 

*1:具体的には、燃料切れしたプレイメイト達との逢瀬が丸々、またフランス人入植者たちとの一部の会話、カーツによるタイム誌の読み聞かせなどがカット。他にも変更が加えられているとは思うが、これぐらいしか気付けなかった。