たぶん個人的な詩情

本や映画の感想、TRPGとか。

映画:『わたしは、ダニエル・ブレイク』――人は死ぬ。ダニエルは人間である。人生とはそういうものだ。

良かった、としか形容しがたい作品がある。その理由についてこの場で考えを巡らせるつもりはないが、一つ言えることは、そうした作品について言葉を口にした途端、これまでその作品に抱いていた感情や思いが形を変え、何か言葉に出来損ねたものが零れ落ちてしまうのではないか、と言う不安に苛まれると言うことだ。

ぐだぐだと何を言いたいかと言えば、以下の感想はこの映画への思いを何とか掬い取って言葉に出来た部分に過ぎない。幸いにも、現在アマゾンプライムで無料で見ることが出来る。こんな感想の出来損ないは放っておいて、取り合えず見て欲しい。話はそれからだ。


「わたしは、ダニエル・ブレイク」予告編

わたしは、ダニエル・ブレイク [Blu-ray]
 
わたしは、ダニエル・ブレイク (字幕版)

わたしは、ダニエル・ブレイク (字幕版)

  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: Prime Video
 

本作のストーリーは単純だ。妻に先立たれ、心臓病のために長年勤めた大工の職をやめることとなった主人公・ダニエル。彼は日々、役所にて給付金についての押し問答を繰り広げるが、事態は一向に改善しない。

そんな中、彼はシングルマザーであるケイティと、その娘と息子と知り合いになる。些細なミスのために、彼女たちへの給付金を停止すると言う職員の仕打ちに対して、ダニエルが声を荒げたのがきっかけだ。

お互いにないものを埋めるかのように、さながら家族のように親睦を深める彼ら。だがしかし、困窮は彼らを掴んで離さない。終盤になり、ようやく光明が見え始めたと思った矢先、突如として本作は終わりを迎える。

すべての人は死ぬ。ダニエルは人間である。ゆえにダニエルは死ぬのだ。

そこに劇的なドラマもなければ、遺言もない。ただ、死ぬ。人生とはそういうものだ。

監督するのはケン・ローチ。名前は知っていたが、作品を見たのは今回が初めて。この手のヒューマン系の映画は、好きな割に見る頻度が少ない。見た後にどっと疲れてしまうため、余裕のある時にしか見たくないと言うのが理由だが、そんなベストコンディションはそうそう訪れないのである。

本作を見たきっかけにしても、知人から「見ろ」と言われたのがきっかけだ。結局その人と感想を語り合うことはなかったが、いい作品に出合わせてくれたことに感謝の意を伝えたい。

閑話休題

社会問題をありのままに扱った本作ではあるが、それについてはここでは触れないことにする。語るべき知識もなければ、自らが足を置く立場もない以上、とやかく言うのはフェアではないからだ。

だからこそ、貧困や格差、社会保障については語らないが、ダニエルが本作きっての“知識人”であることについては触れておきたい。つまりは、着の身着のままに無人島生活を余儀なくされた時、生き残るのは役所の役人でもなければ、イートン校出のエリートでもなく、ダニエルその人だろうと言うことだ。

これを直接資本主義の問題に還元するのは安易に過ぎるが、考えさせられるものがあるのは確かだ。

また、ダニエル達弱者に対して、世間が冷たいだけではないということも、より一層見るものを悲しくさせる。恐ろしいことに、劇的な不幸は本作において存在しない。ゆえにこれは悲劇ではなく、現実なのだ。

現実の人生に編集点はない。ハッピーエンドで終わった物語にしても、現実に落とし込んでしまえば、ありふれた人生の通過点に過ぎないのかも知れない。それにしても、ダニエルの死はあまりにも悲しい。

だがしかし、ダニエルの言葉や思い出は、彼が死んでなお人々の中に残り続ける。安っぽいかもしれないが、それぐらいの希望を抱くことは許して欲しい。姉弟の記憶が薄れようとも、壁の落書きが消されようとも、彼らの中に何か残せたのではないだろうか、と。

それはこの映画を見た私たちにしても、同じことが言える。この映画から何かを感じて憤ったところで、私たちが社会を変革することは難しい。それでも余韻が残り続けているのであれば、いずれどこかで何かに繋がるのではないだろうかと私は思う。

ダニエル・ブレイクがそこにいたこと、彼が国民保険番号ではなかったことを覚えている人がいる限り、何かが変わる、あるいは変えられるのかも知れない。我ながら歳を取ったと感じるのは、こうした理想をどこかで信じたいと本気で思い始めていると言うことだ。

わたしは、ダニエル・ブレイク (I, Daniel Blake) / イギリス・フランス・ベルギー (2016)

▶監督:ケン・ローチ

▶脚本:ポール・ラヴァーティ

▶制作:レベッカ・オブライエン

▶制作総指揮:パスカル・コシュトゥー、バンサン・マラバル、グレゴリー・ソーラ

▶撮影:ロビー・ライアン

▶編集:ジョナサン・モリス

▶音楽:ジョージ・フェントン

▶キャスト:

デイヴ・ジョーンズ:ダニエル・ブレイク

ヘイリー・スクワイアーズ:ケイティ・モーガン

ディラン・マキアナン:ディラン・モーガン

ブリアナ・シャン:デイジーモーガン