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【読書感想】瀬川ことび『お葬式』――恐怖と笑いは紙一重。可笑しみに溢れたホラー短編集。

笑いと恐怖の境界線は、思いのほか曖昧なものなのではないだろうか。そんな思い付きを裏付けるかのごとく、よくよく考えてみれば不思議で恐怖を伴う光景であるはずなのに、思わず笑みがこぼれてしまう、なんて状況はそう珍しいことではない。

もしかするとそれは、受け止めきれない恐怖を前にし、感覚が麻痺してしまった結果なのかも知れない。あるいはそもそも、恐怖を引き起こす状況なんてものは、個別の事象として切り取ってしまえば、意外とユーモラスな状況なのかも知れない。

瀬川ことび氏による『お葬式』は、そんな恐怖とも笑いとも付かない状況を見事に描き出した短編集だ。何気ない日常に潜む、不可思議で、ともすればユーモアさえ感じられるような出来事の数々。『世にも奇妙な物語』風と言えば、この不思議な作風のイメージが少しは共有できるだろうか。

さて、そんな本作に収録されているのは全5編。以下、軽くネタバレ込みで感想を書いていくので、気になる方はご注意いただきたい。まず表題作である「お葬式」は「第6回日本ホラー小説大賞短編賞」にて佳作を受賞した作品である。

女子高生の主人公は、父の死をきっかけに代々家に伝わる死者の弔い方を知ることとなる。詳しいネタバレは避けるが、この特別な弔い方に対する家族それぞれの向き合い方や受け入れ方が面白く、ともすれば恐怖を覚えてもおかしくない状況にありながら、彼らの視点や価値観のズレが、読者に奇妙な笑いを提供してくれる佳品だろう。

続く「ホテルエクセレントの怪談」は、新人ホテルマンの目を通して繰り広げられる怪談話と見せかけた、人間の可能性(?)に迫った作品で、序・中盤の展開からは想像もつかない着地点と、その結末には思わず笑ってしまった。状況を思い浮かべれば確かにホラーなのかも知れないが、これを笑わないのはむしろ失礼と言うものだ。

この辺りから、この本は笑いに特化したホラー短編集(?)なのだと思ってしまいそうになっていたのだが、予想に反して作者の引き出しは多く、続く「十二月のゾンビ」は先の作品とは打って変わって、青春小説もかくやと言った内容の短編であった。

舞台は冬。バイト帰りの主人公が夕飯の準備をしていると、同僚である女の子が家にやって来る。これだけならただの青春小説なのだが、女の子の様子がどうもおかしい。服は血にまみれ、片方の目玉は眼窩からズレ落ち、視神経でかろうじて繋がっているような有様なのだ。どうやら彼女は先ほど車に轢かれ、既に事切れてしまっているらしい。

生前から特に深い付き合いもなく、今やゾンビとなってしまった彼女と、主人公が一つ屋根の下で一夜をともにする。言ってしまえばただそれだけの話なのだが、これがまた面白かった。おかしな状況にありながら彼らの間に悲壮感はなく、いつもと変わらない様子で言葉を交わす二人。

死者と生者が織り成す雰囲気がたまらなく素敵で、個人的にこの短編集の中でも1、2を争う程に好みの作品だった。大槻ケンヂ氏による「ステーシー」に近しいものを感じるため、あの作品が好きな人ならばきっと楽しめるに違いない。

そんなホラーらしからぬ作風の短編に対し、続く「萩の寺」はマヨヒガをモチーフとした正統派のホラー小説で、尼寺へと迷い込んだ語り手が、寺の主人である尼僧の言動から徐々に違和感を覚え、それが恐怖に変わっていく様子が見事に描かれている。ちなみに、登場人物のどこかズレた言動は相変わらずで、ただの恐怖だけではない、独特の雰囲気を醸し出すのに一役買っているのは見逃せない。

そして最後の短編「心地よくざわめくところ」は、この短編集の魅力である笑いと恐怖と、それに伴う独特の浮遊感が凝縮された一作だと個人的には思っている。

内容はと言えば、ロシアの原発事故を新聞で知った大学生が、そのニュースを周囲に言いふらし、ありもしない(と彼は思っている)世界の終わりに思いを馳せ、ただただバカ騒ぎをすると言ったものである。

ちょっとした話題として提供したはずの原発事故の話に食いついた女学生から、炉心融解から始まる絶望的な未来予想図を聞かされた主人公は、そんな世界の滅亡に恐ろしさを感じつつも、それ以上に、非現実的な事態に楽しさを感じてしまう。

彼が、友人や後輩にその話を言いふらし不安を煽る中、漫研部員のカメラは故障し、空はおかしな雲行きを見せ始め、後輩の女子は鼻血をたらりと垂らす。彼と友人はそれらの現象を原発のせいにはするが、口調はおふざけの域を最後まで出ない。そして結局、これが終わりの始まりなのか明かされぬまま、余韻を残して物語は終わる。

世界の終わりに思いを馳せ、浮足立って馬鹿騒ぎしてしまう気持ちは分かるし、そんな楽しげな気分の底にある、直視し難い恐怖に怯える気持ちもまた想像が付く。幸いなことに筆者は世界の終わりを経験したことなどないし、今後もないと信じているが、もし同じ状況に置かれたならば、きっと同じ気分になってしまうに違いない。

浮かれた学生の雰囲気と、迫りつつある恐怖のコントラストが秀逸で、個人的には本短編集において「十二月のゾンビ」と双璧をなす作品だと思っている。

総じて好みは分かれそうだし、ホラーとして人に勧めるのは少々憚られるが、個人的には満足のいく、面白い短編集だった。作者が織り成す独特の雰囲気は癖になる味わいがあるので、その他の作品も手に取ってみたいと思う。

では、今回はこの辺で。

お葬式 (角川ホラー文庫)
 
お葬式

お葬式

 

▶お葬式

▶著者:瀬川ことび

▶カバー / 口絵:田島照久 (thesedays)

▶発行所:角川書店

▶発行日:1999年12月10日