たぶん個人的な詩情

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映画:『ミッション:8ミニッツ』――8分間を繰り返せ。ヒューマンドラマが光る傑作SF。

昨日テレビ東京を点けていたら、我らが午後ローで本作が流れ始めたので視聴。劇場公開時に宣伝を見ていて、面白そうだなあと思っていた作品だけにちょっと得した気分です。何でもこれが地上波初放送なんだとか。

で、肝心の内容はと言えば、列車爆破事件の犯人を探し出すため、ジェイク・ギレンホール扮する主人公が意識だけを過去に飛ばし、爆発前の8分間を繰り返すと言うもの。

いわゆるループものなわけですが、まず面白いのは意識が過去の自分ではなく見ず知らずの赤の他人に宿ること。そのため彼は、杜撰な任務説明と言う事態も相まって、ミッションが開始すると同時に、自らの置かれた状況をまず把握する必要に迫られます。

そしてループものとしての何より面白い点は、本作におけるタイムリープの方法でしょうか。実は、彼の意識は過去へと実際に戻っているのではなく、事件で亡くなった人物の記憶を基にした、言わば仮想現実に飛ばされていたのです。

そのため、彼がいくら犯人を見つけ爆弾を無力化したところで、乗客が死んだと言う事実は変わりません。主人公はその事実にショックを受けつつも、犯人が予告する次の爆破を阻止するため、犯人の捕捉を目指します。

結末への興味と、テンポよく描かれる主人公の活躍から最後まで目が離せない本作、ループを軸としたSFではありますが、何よりの見所は主人公を中心としたヒューマンドラマにあると言っても過言ではないでしょう。

ループを繰り返す中で惹かれて行くヒロインとのメロドラマはもちろん、喧嘩別れした父親との会話は、短いシーンながら不覚にも感動してしまいました。ありがちと言えばその通りなんですが、こう言った親と子の関係性に弱い。

そして何と言っても、本作きっての感動ポイントは、やはり最後の8分間でしょう。詳細は避けますが、親子ネタと同じくらい、こうした名も知れぬ人々の命に触れ、思いやりを向ける描写に弱いんですよね。村上春樹の『風の歌を聴け』なんて、ラジオのシーンだけで星5をあげたくなります。もちろん、完璧な文章云々とかも好きですが。

SF的なギミックとスピーディな展開に加え、質の高いヒューマンドラマを描き切った本作は、個人的に傑作なので機会があれば是非見て欲しいと思います。お勧めです。午後ローでたまたま見られたのはラッキーでした。

では、今回はこの辺で。

 

 

……と、褒めて終わればいいものの、どうしても気になる点をば。若干ネタバレ気味なので読む際は注意してもらうとして、言いたいことはただ一つ。

最後は蛇足でしょうが! と言うこと。 

感動が冷めるのはもちろん、一人の犠牲が生まれてしまったために、何とも言えないモヤモヤ感を抱えて映画を見終わることになりました。あそこで終わっていたら綺麗だったのに、と思ってしまうのは仕方ないでしょう。まさしく蛇足も蛇足。

多数の命を救うために少数の犠牲が出ることを否定した主人公が、少数の犠牲を強いてしまうこの矛盾はちょっと受け入れがたいものがあります。その点を受け入れるならまだしも、お気楽に「生まれ変わった」と言うのは少し酷い。「成り代わった」と言うのが適切でしょう。

残された「彼」は再び任務に就くことになるでしょうし、そこで新たな「犠牲」が出るのは避け難く、ハッピーエンドに固執したあまり、余計に暗雲が立ち込めてしまったことは否めません。ああ言った展開は二次創作でこそ許されるもので、一次創作でやるのはくどい。

とか何とか思っていたら、こちらの町山智浩さんの動画でもその点については触れられていました。動画によれば、最後の展開は当初脚本に存在せず、監督が入れることにしたのだとか。


町山智浩の映画塾! 「ミッション:8ミニッツ 」<復習編> 【WOWOW】#64

脚本通りの結末も見てみたかったと愚痴を呟いたところで、今回は本当にこの辺で。批判めいたことをくどくどと書いてしまいましたが、作品の出来がいいだけに出てしまった愚痴だと思ってください。

ではでは。

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▶ミッション:8ミニッツ / Source Code (2011/アメリカ・フランス)

▶監督:ダンカン・ジョーンズ

▶脚本:ベン・リプリー

▶制作:マーク・ゴードン、フィリップ・ルースロ、ジョーダン・ウィン

▶制作総指揮:ホーク・コッチ、ジェブ・ブロディ、ファブリス・ジャンフェルミ

▶音楽:クリス・ベーコン

▶撮影:ドン・バージェス

▶編集:ポール・ハーシュ

▶キャスト:

コルター・スティーヴンス:ジェイク・ギレンホール

クリスティーナ・ウォーレン:ミシェル・モナハン

コリーン・グッドウィン:ヴェラ・ファーミガ

ラトリッジ博士:ジェフリー・ライト

デレク・フロスト:マイケル・アーデン