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【読書】松村一男『神話学入門』――マックス・ミュラーからキャンベルまで。神話学の手引きとして最良の書。

馴染みはあるようで、よくよく考えてみるとあまり聞き覚えのない学問、神話学。本書は著者の考える代表的な神話研究者の思想と業績を説明するとともに、神話が学問としてこれまでどのように扱われてきたかを明らかにした一冊である。

正直言って、この本は良い。めちゃくちゃ良い。この手の分野に関心があるのであれば手に取って後悔はしないと断言できるほど、この本は良い。

本書の文庫化前のタイトルは「神話学講義」と言うのだけれど、この本はまさしく「講義」の名がぴったりの内容となっている。神話学がどのような下地から生まれ、時代の移り変わりと共に如何様な変化をしていったのか。各時代を代表する6人の研究者を軸に、初学者にも分かりやすいように講義が開かれる。

その6人の研究者とは、マックス・ミュラーフレイザーデュメジルレヴィ=ストロースエリアーデ、キャンベルの6人。神話自体に興味はなくとも、今あげた研究者個人に関心がある人にとっては、彼らがそれぞれ神話研究の潮流においてどのような位置にいるか知ることが出来るのは大きいに違いない。

私自身、フレイザーエリアーデに関心を持ちつつも、あくまで個人の研究者としてしか見てこなかった。だからこそ、神話学史において彼らがどういった影響のもとに置かれ、自身の研究を進めて来たのかを知ることが出来たのはとても良かった。

そして何より、本書一番の読みどころは、著者の考えるところの神話研究における「パラダイムの変化」と言う視点であろう。

著者によれば、神話研究は大きく分けて19世紀型と20世紀型に分けられると言う。19世紀型の神話研究は、進化論と歴史主義をパラダイムとしていたのに対し、20世紀神話学のパラダイム構造主義と反歴史主義である。

端的に語るならば、前者が神話を原始的な遺物、現代においては克服された過去の代物とみなしたのに対し、後者では神話を無意識の産物とし、人類に普遍的なものとみなした。著者はここにパラダイムの変化を見る。

先に挙げた6人は、ミュラーフレイザーが典型的な19世紀型、レヴィ=ストロースエリアーデ、キャンベルは20世紀型に分類され、中間に位置するデュメジルは両者の移行期として著者は捉えている。

こうした枠組みが設けられることにより、各人の思想が分かりやすく把握できるようになっているのは初学者にとってありがたい。また、研究者の生い立ちや経歴と言った背景が、彼らの研究に及ぼした影響が見て取れるようになっているのも嬉しい。

各研究者の関心や業績等については実際に読んでみてもらうとして、先ほども書いた通り、学問として神話を取り扱うことに興味があるのであれば、本書は是非とも手に取って欲しい一冊である。

正直に言えば、後半に進むにつれて切れ味は落ち、精彩に欠けるのは否めない。これは本書が書かれた1996年当時では、未だ学問的にエリアーデやキャンベルの業績が定まっていなかったことも関係しているのかもしれない。

とは言え、それらを差し引いても神話学を学ぶための入門書としては最良の一冊であると思うし、巻末に参考文献が挙げられているのもこの手の本としては良心的だと思う。

欲を言えば巻末には索引が欲しかった気もするし、キャンベルへの私情を挟んだかのような記述はどうかと思ったりもするのだが、大学の講義が1000円ちょっとで聞けると思えば破格であろう。講談社学術文庫としてはそう高い値段でないのも地味に嬉しい。

これを機に積んでいるエリアーデの本に手を出そうかと思いつつ、今回はこの辺で。

神話学入門 (講談社学術文庫)

神話学入門 (講談社学術文庫)

  • 作者:松村 一男
  • 発売日: 2019/01/12
  • メディア: 文庫
 

▶神話学入門

▶著者:松村一男

▶発行所:講談社

▶発行日:2019年1月10日