はじめに
一昔前のライトノベルを読んでいると、続編や結末が描かれないままに終わりを迎えてしまった作品と出会うことがままあります。それが打ち切りに値する程度の作品だと断じてしまえるのなら話は簡単なんですが、打ち切られたことに一抹の寂しさを感じてしまう。そんなことが時々あるんですよね。
主人公は世界を救えるのか。黒幕の正体は誰なのか。彼らの恋路の行方は如何に。世間には受けなかったとしても、作品の結末を見届けたかった。そう思わせてくれる、どこか魅力を持った作品たち。今回感想を書いていく『ロールプレイングワールド』もまた、そんな魅力を持った一冊です。
ここ数年、異世界転生*1ブームが留まることを知りません。自分がラノベ沼にハマっていた頃、バトルものの流行りは今や懐かしの「学園異能」でした。そんなこともあってか、これまで転生系の作品にはほとんど縁のないオタク生活を送ってきたのですが、以下の年表を見れば分かる通り、日本における異世界転生の歴史は思った以上に長いようです。
平田篤胤にまで遡る必要があるかはさておき、「学園異能」全盛期のゼロ年代以前にもその手の作品は存在していました。しかしこの記事にも書かれている通り、ネット小説の流行を機に、2011年前後から徐々に異世界転生のブームが広まっていったのはまず間違いありません。
実際、今回感想を書いていく『ロールプレイングワールド』が発売されたのも2011年のことです。レーベルは今や懐かしのスマッシュ文庫。尖った作品を世に送り出してきたレーベルだけあって休刊は残念でなりませんが、こればかりは仕方ないと諦めるしかないですね。ちなみに『うちのメイドは不定形』はどうなったんでしょうか。
あらすじ
修学旅行の最中、突如として異世界へと飛ばされてしまった主人公・西島勇司。新たに手に入れた能力を頼りに、細々と異世界での生活を送る彼だったが、クラスメイトの綾部恭介が彼の前に姿を現したことで、そんな仮初の日常は終わりを迎えることとなる。
恭介は告げる。この世界には勇司と恭介の他にもクラスメイトが飛ばされており、その中の誰かがこの世界に彼らを飛ばしたのだと。そして、元の世界へ帰るにはその張本人を探す必要があり、恭介は勇司を仲間に勧誘すべくここまで来たのだと。
半信半疑ながら、その後恭介とともにクラスメイト・橘楓を見つけることに成功した勇司一行。しかし再会の喜びも束の間、能力(「ロール」)持ち、通称「キャスト」を捕まえ処刑するべく、彼らの前に帝国の刺客が現れる。それは彼らと同じく異世界へと飛ばされたクラスメイト、居平莉那だった。
当初はかつてのクラスメイトから命を狙われることに動揺を隠せない勇司だったが、逡巡の末、彼は仲間を守るためにクラスメイトと戦うことを決意する。勇司たちの戦いの行く末は、一体誰が彼らを異世界へと飛ばしたのか、果たして彼らは元の世界へと帰ることが出来るのか……。
感想
見ての通り、外枠は異世界転生ものでありながら、本作の本質はいわゆるバトロワに近いものがあります。能力を与えられた生徒たちが、それぞれの思惑に従い我を通すために異世界で戦う。ただでさえクラスメイトの中に黒幕が、と言う推理小説的な展開だけでも面白いのに、時間を操る主人公の能力を筆頭に、鎧を操作する、手を銃火器にするなど能力も多種多様。能力バトロワとしての面白さも兼ね備えています。
著者の熊谷雅人さんの本は今回初めて読みましたが、長年ライトノベルを書かれているだけあって筆力は高く、シビアな戦闘描写や設定に文章が負けていません。好き嫌いは分かれそうですが、命の奪い合いに躊躇いつつも、英雄になることを夢見る真っ直ぐな主人公、勇司の心情も上手く描けているように思います。
また、登場するヒロインが幅広いのもラノベとしては嬉しいポイントです。異世界で出会い、勇司を助けてくれた活発な少女・ミリー、密かに主人公に憧れを抱いていた内気な少女・楓、そして才色兼備、品行方正を絵に描いたかのような幼馴染の紫穂。特に紫穂については、現在帝国と敵対する自治領の騎士団、その副団長の職についているんですが、どうも様子がおかしい。彼女に何があったのかは、色恋沙汰とはまた別の面で興味が湧いてきます。
そして、恭介の口から語られる仮説とそれに連なる先の展開、引いては物語の結末は本作きっての読みどころとなったはずです。この異世界はクラスメイトの誰かが作り出したものではないか、と言う仮説は先にも書きましたが、自分たち「キャスト」は世界の創造主であるゲームマスターによって「ロール(役割)」を全うするために呼ばれたのではないか、そもそも異世界の構成要素自体が彼の用意した存在なのではないか、と言う恭介の仮説は、ただの異世界転生とはまた違った面白さを感じさせます。
これが本作のタイトルにも繋がってくるわけですが、この世界の根本に関わる問題は異世界の住人であるミリーにも当然当てはまってくるわけです。黒幕の正体や世界の真実と並び、ミリーとの別れが如何に描かれるのか(あるいは描かれないのか)も当然本作の目玉となっていたことでしょう。
とは言え、残念ながら打ち切られた今となってはこれらの真実が明かされることはありませんし、勇司やミリーたちが迎える結末を読むことも出来ません。手堅くまとまり過ぎていてパンチが弱かったのは確かですし、主人公の優柔不断さに苛立ちが募る点も否めない。風呂敷を大きく広げた分、続編でボロが出ていた可能性も十分あるでしょう。
それでも私はこの作品の続編が読んでみたかったですし、著者の描く結末を見てみたかったと心の底から思ってしまいます。続きが読めないのなら、いっそのこと出会わなければ良かったのに、とさえ思ってしまいそうになりますが、出会えたことには感謝しかありません。
おわりに
ちなみに、本作のイラストを担当されているのは『ナイツ&マジック』などで知られる黒銀さん。本作でも美麗なイラストを数多く手がけられているわけですが、その中でも敵対することとなるクラスメイト、居平莉那のイラストがとても良かったです。黒のノースリーブにミニスカのデザインはめちゃくちゃ素敵で、左手にマスケット銃、右手に本を構えた姿はただただ格好良い。正直イラストのためだけでも買いだと思います。
思えば、黒銀さんの存在を始めて知ったのはファミ通文庫から刊行されていた『武装中学生2045』でした。確かあれも打ち切りを食らっていたように思いますが、機会があれば改めて読んでみたいですね。
と、最後は少し脱線してしまいましたが、今回はこの辺で。打ち切られてしまった作品の感想にどれほど需要があるかは分かりませんが、感想を共有したい人もいるでしょうし、積みに積んでいるラノベの感想なんかもちょくちょく書けたらと思います。では。