たぶん個人的な詩情

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【映画感想】『ディアルガVSパルキアVSダークライ』――街を想うヒロインとダークライ。少女漫画的三角形。

劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド・パール ディアルガVSパルキアVSダークライ

はじめに

前回、前々回に引き続き、今回も25周年ポケモン映画祭より『ディアルガVSパルキアVSダークライ』の感想です。実は再上映後すぐ観に行ってはいたんですが、更新は伸びに伸び今に至る体たらく。

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言い訳をさせてもらうと、映画を観終わってすぐに体調を崩し、復調後も今は亡き祖父母の家を建て壊すための作業に追われたりと地味に忙しかったんですよね。まあ日替わりでの再上映は今日までですし、まだセーフだと自分に言い聞かせて感想を書いて行きたいと思います。

先の記事にも書いた通り、『水の都』と『七夜の願い星』は(ほとんど記憶になかったとはいえ)見たことがあったのに対し、『ダークライ』はまったくの未見。映画としての期待もさることながら、有名なスラングの元ネタに接することが出来るという邪なワクワク感も強かったです。かつて見ていなかったダイパをアマプラで齧るなどし、当日は万端の準備で劇場へ向かいました。

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池袋HUMAXシネマズ

観に行ったのは池袋のHUMAXシネマズ。ここの利用は初めてだったんですが、色々とノスタルジーを感じさせられる映画館でした。見た目に古さはないものの、建物の外にチケット売り場があることがまず懐かしく、他店の合間をエスカレーターで突き進んで劇場まで行く必要があるのもまた趣深い。

狭めの通路と申し訳程度の売店や、収容人数に対して小さめのスクリーン、前の人の頭が見え隠れする高低差の少ない傾斜、クッション性の失われた座席など、都心にありながら未だに古き良き映画館感が残されています。

ちなみに本作のエンドロールにはプロモーション協力として本作の上映館(当時)がクレジットされているのですが、そこに今はなき地元の映画館の名前があったことも、無性に懐かしさを感じた理由かも知れません。

感想

映画を観終わった直後に抱いた感想は「これが人気投票上位なの?」というもの。正直な話、前二つに比べてちょっと見劣りしてしまったわけです。ストーリーに大きな不満はないし、映画的なスペクタクルも十分にある。それなのにどうも腑に落ちない。モヤモヤ感が残ると言いますか、自分が今何を見ていたのかいまいち説明することができない。別の言い方をすれば、この映画のどこが印象に残ったか、あるいは好きなシーンはどこかと聞かれた際に、胸を張って「ここだ」と答えることが出来ないんですよね。

確かに本作には記憶に残るシーンが数多く存在します。ディアルガパルキアのド派手なバトルや時空の塔を中心としたアラモスタウンの美しさ、そしてオラシオンと共に描かれる荘厳なクライマックスは、従来のポケモン映画の追随を許さないクオリティだと言えるでしょう*1

ただし、これらのシーンが自分の中で面白さや感動といった心情の部分と有機的に結び付いてこず、そのためにどうも心から好きだと言えないんですよね。美しいアラモスタウンを気球で見下ろすシーンや、オープニングのバトルなどはワクワクさせられたんですが……。

サトシに注目し過ぎたが故の消化不良

ではなぜこのようなことになってしまったのか。そしてこの映画を観ていた際に感じた蚊帳の外に置かれたような感覚は何なのか。

自分でもいまいち自信はないのですが、熱にうなされベッドで寝込む中、うんうんと考えに考え至った一つの結論。それはこの映画がサトシの物語ではないのではないか。私はこの映画の見方を間違えていたがために、心の底から本作を楽しめなかったのではないか、と言うこと。

当然ながら、ポケモンアニメは主人公・サトシを中心とした物語です。そのため私たち観客は、サトシを手掛かりに物語に分け入ろうとするわけですが、本作はそれではいけなかった。私自身、サトシを通して物語を見ていたために、このような心情的な乖離が起こってしまったのではないかと思います。

では、もしサトシが主人公でないとするならば、この映画の主人公は誰なのか。それはすなわち、街のために孤軍奮闘したダークライ(あるいは、ヒーローに対するヒロインとしてのアリス)に他なりません。このダークライ-アリスラインが物語の中心である。そう考えると今までのモヤモヤ気分が霧払いされ、色々と腑に落ちました。

ルギア爆誕≒VSダークライ、ルギア≠ダークライ

一旦主人公の話は脇に置いて構造の話をすると、言うまでもなく本作のストーリーラインは『ルギア爆誕』を彷彿とさせます。天災を思わせるディアルガパルキアの戦いは三鳥の戦いと置き換え可能ですし、彼らの争いを鎮める手段が音楽だと言う点でも両作品は似ています。

そう言った構造を念頭に置いてこの映画を観てしまっていたために、私はダークライをルギア的な立ち位置のキャラとして見てしまったわけです。『爆誕』におけるルギアはサトシと心を交わし、協力して事態の解決に挑みます。ルギアと共に世界を救ったサトシはあの時、間違いなく主人公だったと言えるでしょう。

そのためダークライもルギアと同様、サトシ(=主人公=中心人物)と協力して事態に臨むキャラクターだと心のどこかで思いつつ映画を観てしまった。これが本作に対する消化不良に繋がったのではないかと思います。

見て貰えば分かる通り、この映画のサトシは事件解決のために行動を起こすものの、ダークライとは別行動をし続けます。むしろ彼と心を通わせるのはヒロインのアリスであり、サトシたちは終始ダークライの後を追うことしか出来ません*2

確かにサトシたちはアニポケの主人公ではありますが、当物語の「主人公」はあくまでダークライとアリスであり、それを支えるサトシたち、と言う構図の方がしっくりくるように思います。

ダークライの物語。少女漫画的三角関係

改めてダークライに注目してこの映画を見てみると、今までの物足りなさが一転、心情的に受け入れることが出来るようになります。かつてアリシア(=アリスの祖母)に救われたことを忘れず、その恩に報いるために命を懸けて街を守る。その活躍は感動的であり、最後に街を見守るようにして佇む姿はまさしくアラモスタウンの護神。

恐らく最初からダークライに感情移入してこの映画を観ていた人は、私のような思いを抱かず、この映画を正当に評価できたのだと思います。だとすれば、人気投票の結果として選出されるのも納得です。

そしてダークライに着目してこの映画を見てみると、さらに見えてくるのはヒロインを中心とした少女漫画的な三角形です。

先ほど主人公について語る際、アリスについても主人公だと書きました。なぜならこれが少年漫画であるなら主人公はヒーロー(=ダークライ)ですが、本作を少女漫画や乙女ゲームとして見るならば、主人公は当然ヒロインであるアリスとなるからです。

祖母の面影を自分に見る人外系寡黙イケメンのダークライと、少し抜けているがやる時はやる優男系幼馴染のトニオ。つまりアリスはこの二人の間に挟まれるヒロインという美味しい立場にあるわけです。しかも過去に自分を助けてくれたのは幼馴染だと思っていたら実はイケメンの方だった、なんていうヒロインの心が揺れるきっかけとしてありがちなエピソードのおまけ付き。一応、自分に求婚をもちかけている金持ちイケメンのアルベルト男爵なんて言う面白枠もいます。

ヒロインへの想いを秘めたまま、トニオという幼馴染に対して一歩引き、見守る立場に身を置くという終わり方は、まさにルート分岐の結末としてはありがちでしょう。本作において私たちは、ディアルガパルキアダークライという三つ巴の戦いにばかり目が行っていましたが、真に目を向けるべき三角形は、アリスを中心とした三角関係だったのかも知れません。

その他触れておきたいあれこれ

エンドロールを見ていて驚いたのは、ダークライのCV。まさか石坂浩二さんだったとは露知らず、気付いた時は通りで良い声だと納得してしまいました。『ミュウツーの逆襲』ではミュウツー市村正親さんが、先に触れた『ルギア爆誕』では悪役のジラルダンを鹿賀丈史さんが演じていたわけですが、名優と呼ばれる方々は声においてもやはり味と凄みがありますね。

また触れておきたい部分としては、映画内で感じたダイパ的な要素について。「みかづきのはね」が悪夢対策のお守りとして定着していたり、街を囲む霧に対して「きりばらい」を試みるのはいかにもシンオウっぽいなあと懐かしさを感じました。

そしてシンオウらしさと言えば、シンオウ御三家最終進化の活躍も見応えがありましたね。三体並ぶとやはり迫力がありますし、特にドダイトスがどっしりとしていて良かったです。リアルタイムではポッチャマを選んだんですが、最近はドダイトスが気になっており、第四世代を遊び直すとしたらナエトルを選びたいなと思っています。

あとポケモンと言えば、作中何度も姿を見せることとなるラッキーは、頼もしさと可愛さが両立していてとても良かったです。特にサトシが悪夢から目覚めた後、トニオが通路を歩く際に体を縮めて彼の横を通るラッキーの仕草と表情は必見。

それと地味に気になったのは、シンオウ地方に貴族制度があるのか、あるいはあったのかということ。スペイン風の街の雰囲気からノリで出したのかも知れませんが、政治的な部分が描かれない世界観だけにとても気になりました。アルベルト男爵自体、重めなストーリーの箸休め的な役割を見事に果たしていて良かったと思います。それとここまで山ちゃんが喋っているのはちょっと新鮮でした。

おわりに

夏はポケモンと言うことでここ最近はポケモン映画の感想を書いてきました。久しぶりに触れるアニポケの世界は懐かしく、童心に帰ることが出来てとても良かったです。

ただ季節はもう秋。現在進行形で寒さも感じる中、いつまでも夏休み気分でいるわけにもいきません。次は読書の秋にかこつけて、読んだ本の感想でも書ければと思っています。最近映画の感想が続きましたし、更新頻度も高めていきたい所存。

では長くなりましたが今回はこの辺で。

劇場版ポケットモンスター アダイヤモンド&パール ディアルガVSパルキアVSダークライ (2007)
▶監督:湯山邦彦
▶脚本:園田英樹
▶原案:田尻智増田順一、杉森健
▶制作総指揮:久保雅一、伊藤憲二郎
▶製作:吉川兆二、松追由香子、盛武源、岡本順哉
▶撮影:水谷貴哉
▶音楽:宮崎慎二
▶アニメーション監修:小田部羊一
▶主題歌:「ビー・ウィズ・ユー〜いつもそばに〜」サラ・ブライトマン
▶キャスト:
サトシ:松本梨香
ピカチュウ大谷育江
タケシ:うえだゆうじ
ヒカリ:豊口めぐみ
ムサシ:林原めぐみ
コジロウ:三木眞一郎
ニャース犬山イヌコ
アリス:加藤ローサ
トニオ:山本耕史
アルベルト男爵:山寺宏一
ダイ:秋山竜次(ロバート)
カツミ:山本博(ロバート)
ドダイトス:馬場裕之(ロバート)
マキ:中川翔子
ダークライ石坂浩二

*1:ただし『波動の勇者ルカリオ』並びに『蒼海の王子マナフィ』は未見。

*2:一応、ダークライがサトシに街の危機を知らせようとしてはいますが、あまり掘り下げられず交流としてはちょっと弱い。