たぶん個人的な詩情

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【読書感想】『フランケンシュタインの子供』――メアリー・シェリーの生み出した「神話」をテーマとしたアンソロジー。死体復活、自動人形、マッドサイエンティストなどなど。

はじめに

少し前になりますが、ブックオフでこちらの二冊の本を買いました。

呟いてもいる通り、普段は百円の本しか買わない縛りを己に課しているんですが、ふと普通の棚に立ち寄ってみたところ、前々から気になっていた角川ホラー文庫のアンソロジー二冊を発見。流石に見逃せず、手に取ってしまいました。

その二冊と言うのは、ラヴクラフトを中心としたアンソロジーである『ラブクラフト恐怖の宇宙史』と、今回感想を書いていく『フランケンシュタインの子供』。こちらはかの『フランケンシュタイン』をテーマに組まれたアンソロジーで、フランケンシュタインの様々な側面と繋がり合った作品が収録されています。

感想

怪奇幻想好きの人間の例に漏れず、人造人間や自動人形といったテーマは、字面を見るだけでテンションが上がるタイプの人間なので、このアンソロジーはかなり楽しめました。個人的な趣味を抜きにしても、本書はとても上質なアンソロジーだと思います。

収録作品が面白いのはもちろんのこと、ここでしか読めない短編も収録されていて年代も作風もバラバラ。バリエーションに富んだお得感のあるアンソロジーと言えるでしょう。メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』以外の作品やメルヴィルの短編、映画のノベライズが一緒に読めるのは恐らくこの本だけのはず。

以下、収録作品それぞれについて軽く感想を書いていきます。軽いネタバレにも触れていくので、気になる方はご注意ください。

「変身」メアリー・シェリ

ギリシア出身の放蕩息子が、自分の体を奪われて初めて、本当に大切なものを見つけるというお話。分かりやすい形で悪魔っぽいキャラクターが出てきたり、結末に道徳的な説明がなされているのは、自分が抱いていたメアリー・シェリーのイメージとはかけ離れていたので少し新鮮でした。フランケンシュタイン・テーマとしては、「分身」のモチーフが関係していると言えるのでしょうか。

ちなみに、なんとなくポリドリの『吸血鬼』を連想してしまったのは、ディオダディ荘のイメージが先行していたからなのか、はたまた勝手な思い違いか。自分のあずかり知らぬ間に、大切な女性が取られそうになるところとかは似ている気がします。そもそもよくよく考えてみれば、『吸血鬼』自体「分身」をテーマなのだから、似通ってくるのは当然なのかも知れません。

「よみがえった男」メアリー・シェリ

こちらもメアリー・シェリーの短編。雪崩で生き埋めになっていた男を蘇生してみたところ、その男が雪に埋もれてしまったのは百年以上前で……というお話。小説というよりかは、新聞のコラム風と言えば良いのか、実話テイストなのが本作の特徴です。

冷凍保存されていれば身体の分子は損なわれておらず、ゆえに科学的に蘇生は可能であるなど、作者の科学に関する考えが伺えるのは面白いです。また、世代を超えたことで価値観や趣味嗜好が大きく変化し、友人知人も突如として失ってしまった、ある種のタイムトラベラーの悲劇を描いた先駆的な作品とみることも可能かも知れません。

「鐘塔」ハーマン・メルヴィル

かつてイタリアのある土地に存在した鐘塔の制作秘話と、その顛末を描いた諸行無常観の漂うメルヴィルの短編。鐘塔の設計者が、鐘のギミックとして自ら作成した「自動人形」に身を滅ぼされるという点でフランケンシュタイン風と言えるでしょう。

物語の始まり方や結末の雰囲気などから、ラヴクラフトクラーク・アシュトン・スミスの作品を思い出してしまうのは、私の怪奇小説の引き出しの少なさか、あるいは実際に影響関係があったのかは気になるところ。土地の名前をそれっぽくすれば、途端にスミスのアヴェロワーニュものになる気がします。

「ダンシング・パートナー」ジェローム・K・ジェローム

オートマタ作りの得意な老人が作った機械仕掛けのダンスパートナー。女性にとって理想の相手となるはずのパートナーだったが、いざ踊り始めてみると……。

女性をダンスに誘う男の文句が定型化しているのなら、事前に定型句を準備して喋らせればよい、というのは現代のAIにも通ずるものがありますね。また、女性陣が男共を評する言葉が中々に辛辣で面白いです。

なお、著者のジェローム・K・ジェロームは『ボートの三人』などで知られる英国の作家で、この手の小説好きとしては、数年前に国書から発売された『骸骨』という作品集が記憶に新しいかも知れません。ちなみに偉そうに書いておきながら共に未読。

「新フランケンシュタイン」E・E・ケレット

発明家が機械仕掛けの女性を作り出し、その完成度を確かめるため社交界デビューを果たしたところ、彼女を巡って恋の鞘当てが行われ……。

リラダンの『未来のイブ』好きとしては好きにならざるを得ない雰囲気で、個人的に本書の中でも一、二を争うほどに好きな作品。フランケンシュタインというよりかは、ホフマンの「砂男」に連なる作品という印象ですね。特定の言葉に定型句を返せば会話が成り立ってしまうというのは、こちらも今のAIにも通ずるものがあり、そういった点でも興味深く読めました。オチは狙いすぎた感がありますが、嫌いじゃないです。

「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」H・P・ラヴクラフト

死体蘇生に人生を賭した医師、ハーバート・ウェストの顛末を友人目線で描いたラヴクラフトの中編。以前にも読んだことはあり、ラヴクラフトの中でもとりわけ面白い作品だと思っていたわけではなかったものの、いざ読んでみると普通に面白かったです。

また今回改めて読んでみて、連載小説らしい工夫がなされている点に気づけたのも新しい発見でした。前回までのあらすじや状況説明、話の引きを作るための衝撃的な結末など、作者の苦心が見受けられます。蘇った死体が恨み言をぶつけるのは、結構怖いものがありますね。哲学が語られない分、ストレートに面白さが伝わる作品です。

フランケンシュタインの花嫁」
 ジョン・L・ボルダーストーン&ウィリアム・ハールバット

こちらは映画『フランケンシュタイン』(1931)の続編である同名映画のノベライズ。創造主に造られた怪物の女版を作るために、ある科学者がフランケンシュタインへと声をかけ……。

特筆すべきは本作のラスト。科学者二人が真理へ邁進し女版怪物を生み出すも、その女は怪物を拒絶し、最後は怪物が自らの意思で女もろとも「命」を捨てる。友達を欲し創り出したところで、相手がそれを望まないという現実は悲しいものがあります。

ちなみに、今なら両作品ともアマプラでも見られるようなので、ちょっと見ておきたいところ。本作を読む限り映画版『フランケンシュタイン』は原作と異なる内容っぽいんですよね。まあ、原作の内容も結構忘れてはいるんですが。

「愛しのヘレン」レスター・デル・リイ

こちらは近未来が舞台の電子的な自動人形(=ロボット)もの。科学者二人が感情を持つロボットの制作に取り組んだところ、彼女は科学者の一人に恋してしまい……。

恋愛ドラマと小説から感情をエミュレートしてしまい、恋人としての感情が醸成されてしまうというのは面白いですね。また、ロボットの感情を拒否しつつも惹かれてしまうアンビバレントな科学者の感情などは、現実問題有り得るのかなあと。あと、始めから勝ち目のない横恋慕というのは文学的と言うか、哀愁漂いますね。オタク的には、ヘレンの健気な様子に胸が打たれてしまいます。

「腹話術奇談」ジョン・コリア

売れない彫刻家が拙い人形で人気を得ている腹話術師を見て、自分ならもっと上手くできると一念発起し……というお話。本アンソロジーの中でもとりわけコミカルな作品で面白かったです。自分の作った人形に寝取られる、というのは親子関係にも似たものがあり、ある意味神話以来普遍のテーマなのかも知れません。

ちなみに、ジョン・コリアという名前には聞き覚えがあったものの、調べてみると同じ名前の画家もいるようで、私にとっての「ジョン・コリア」がどっちだったのか、真相は闇の中、というチラシの裏の書き込みを残しておくことにします。

「ついに明かされるフランケンシュタイン伝説の真相」
 ハリー・ハリスン

動く死体の見世物で興行に身をやつす男に、一人の記者が声をかける。記者は男がフランケンシュタイン男爵の血を引くものだと当たりを付け声をかけたのだが……。

フランケンシュタインの怪物の新解釈と、畳みかけるようなラストの展開は面白かったです。なお、インゴルシュタット大学があの時代には既に移転しているといった原作のミス(?)は知りませんでした。もしかすると有名なミスなのでしょうか?

「プロットが肝心」ロバート・ブロック

ホラー映画を食い入るように見続け日常が崩壊した女性をロボトミー手術で治したところ、フィクションのはずのホラー映画の世界が彼女の前に立ち現われ……。

ブロックの愛するホラー映画のネタがこれでもかと組み込まれた作品。正直、ネタのほとんどを理解できてはいないんですが、虚実入り混じった世界を、「プロット」だけを頼りに進んでいく様子はとてもユニーク。さながらジェットコースターのようで、分からないなりにとても楽しめました。オチには流石の私でも思わずにんまり。

「不屈の精神」カート・ヴォネガット・ジュニア

大富豪のシルヴィアは現在100歳。人体の大部分を機会に置換し、感情までも主治医にコントロールされながら「生きていた」。そこに外部から一人の医師が見学へやってきて……。ヴォネガットらしいユーモアに富んだ作品で、かなーりブラックで個人的にはかなり好きです。

戯曲形式なこともあり、面白さがストレートに伝わってくるのもポイント。流石にヴォネガット、面白いだけでなく、生きるとか幸せとか延命治療とか、様々な事柄について考えさせられる作品となっています。また、美容師の女性が語る「きらめき」こそ、人間の本質なんだろうなと思ったり。オチもユーモアと不気味さが同居した、いやーな感じでした。

「あとがき」風間賢二

編者である風間賢二さんによるあとがき。こちらは「フランケンシュタイン」に関する評論や作品などのガイドとなっていて一読の価値ありです。

私も、ここで触れられている作品はメモして欲しいものリストにまとめさせてもらいました。中でも、自動人形についてまとめられているという『独身者の機械』は特に読んでみたいと思っています。

おわりに

というわけで、今回は『フランケンシュタインの子供』の感想でした。個人的に、フランケンシュタインと吸血鬼は文学のテーマとしても大好きなので、今後もこの手の作品は読んでいきたいですね。

そもそも、原作も小学生の頃に青い鳥文庫で読んだきり。ギリギリ読んだレベルなのでまた読み直したいとは思っています。あと、実は勿体なくて『屍者の帝国』は積んだままですし、和月伸宏先生の漫画『エンバーミング』も勿体なさから最終巻付近を積んだままなんですよね。あとはもちろん、この本の後書きで触れられていた評論本とかも触れていきたいところです。

では、今回はこの辺で。今後ブログを続けていく中で、その辺りの感想も書いていければと思っています。……何とか6月中に書き終えられて良かったです。


フランケンシュタインの子供
▶作者:メアリー・シェリー、ラヴクラフトヴォネガット

▶編者:風間賢二
▶カバー:田島照久
▶発行所:角川書店
▶発行日:1995年1月10日初版発行