はじめに
気付けば7月が始まり、今年も残すところあと半年。早いと感じる一方で、充実していたかはさておき、妥当だなと感じている自分もいます。
さて、今回はタイトル通り、上半期に読んだ本から十冊を選び、それぞれの本について軽くコメントをしていきたいと思います。なお、読書編と題してはいますが、今後映画編があるかは不明。映画については十選できるほど見れていないんですよね。
2024年上半期10選
今年の上半期に読めた本(漫画除く)は計46冊。今年の抱負として年百冊を掲げてた身としては、4冊ビハインドで折り返し地点と、若干焦りはあったりします。
なお、肝心の上半期の10選はTwitter(現X)でも呟いておりまして、ラインナップはこのような感じです。
#2024年上半期の本ベスト約10冊
— びねつ (@bine_tsu) June 30, 2024
上半期読めた46冊より順不同。
・七都市物語
・閨房の哲学
・創世の島
・近代文化史入門
・お前の彼女は二階で茹で死に
・不確定世界の探偵物語
・ミステリーの書き方
・フランケンシュタインの子供
・人間機械論
・超筋トレが最強のソリューションである pic.twitter.com/alLENqZZkI
ちなみに、並べた順番は読んだ順となっており、ランキング形式ではないので悪しからず。ネタバレなどはせず、軽くそれぞれの感想などを書いていきたいと思います。
『七都市物語』田中芳樹
こちらは『銀河英雄伝説』や『創竜伝』などでお馴染み、田中芳樹さんのSF小説『七都市物語』。銀英伝やアルスラーンなどのシリーズが長編なのに対して、こちらの本は一冊で完結しており取っつきやすくなっています。
舞台は近未来。月に移住した政府が壊滅し、地球では7つの都市が互いにけん制しながらも覇を競い合っていた、という設定で繰り広げられる群像劇。SFではありますが各都市の政治家や軍師の権謀術数などの架空戦記の色合いが濃く、傾向としては銀英伝(未読)に近いのではないかと思います。
『アルスラーン戦記』ぐらいしかまともに読んでいない身でも、田中芳樹さんの魅力が詰まった作品だということが分かる一冊。実は読んだのが新版ではなく、一部読めていないエピソードがあるため個別で感想を書くのを躊躇っていたのですが、読んだ暁には感想を記事として残したいので感想はこれぐらいに。
『閨房の哲学』マルキ・ド・サド
サディズムの語源となったことでも有名なマルキ・ド・サドの戯曲形式の作品。『閨房哲学』の名前での翻訳もありますが、私が読んだのは講談社学術文庫から出ている一番新しい翻訳です。
本書では、サン・タンジュ夫人とドルマンセという二人の「リベルタン」による、純粋無垢な処女・ウージェニーへの教育が描かれます。この教育を通して、サド自身の哲学を読者にお披露目しようというわけです。
哲学者ドルバックからの受け売りが多く、哲学的に感銘を受ける部分は少ないものの、サドの思想を垣間見ることができる他、個人的に笑える部分も多く楽しい一冊です。まだ読めていない私が言うのもなんですが、サドの入門書には打って付けだと思います。
また、当時の性知識や価値観、倒錯した性事情などを覗き見ることができるのも読んでいて面白かったです。ちなみにkindleではあと10日ほど半額セールが実施されているので、興味があれば是非とも読んで欲しいと思います。
『創世の島』バーナード・ベケット
こちらはニュージーランドの作家、バーナード・ベケットによるポスト・アポカリプスもののSF小説です。
少女と試験官の対話のみで進行する戯曲形式の作品で、主人公の少女が受けるアカデミーの口頭試問を通して、現在の世界の成り立ちと、少女の住む世界の状況が徐々に明らかになっていく、というストーリーとなっています。
面白い作品ではあるものの、多くを語るとネタバレになってしまうので、是非とも読んで欲しい一冊です。この本に関しては個別で感想を書いていますが、ネタバレ前提で感想を書いているので、ご覧になる場合はご注意ください。
『近代文化史入門』高山宏
こちらは英文学者の高山宏さんによる異色の英文学史。ニュートン光学やマニエリスム、造園、辞典などの切り口から英文学を紐解いてゆく内容は面白く、非常に興味深い一冊となっています。
実はこの本、図書館で借りて読んでいたのに面白過ぎた結果、仕事の休憩時間に書店へ買いに行ったというチラ裏エピソードもあったりします。
正直、私の力量では紹介できないので是非とも読んで欲しい作品です。
『お前の彼女は二階で茹で死に』白井智之
『人間の顔は食べづらい』など、インパクトのあるタイトルでお馴染みの白井智之さんのミステリ小説。実際に読むのは初めてで、表紙とタイトルに惹かれ手に取ってみたところ、その内容の突飛さと、何より作品の面白さに度肝を抜かれました。
ミミズと呼ばれる皮膚疾患など、特異な症状を発症する人々が生活する架空の日本が舞台の連作短編集。登場人物や地名など、リアリティが希薄で徹底的に戯画化されているのが特徴です。
面白いのは、一つひとつの事件の真相が最後まで絞られないこと。なんと、登場人物の一人がどちらの女性を過去に犯したのかによって、犯人が変わってくるという悪趣味な真相を、それぞれの短編で用意しているのです。このようにエログロナンセンスを地で行く作風のため、人を選ぶのは間違いないものの、好きな人は絶対楽しめる小説です。
もしかすると、後々改めて感想を書くことがあるかもしれません。
『不確定世界の探偵物語』鏡明
寡作で知られるSF作家、鏡明さんの完結している作品の一つ。こちらは近未来が舞台の探偵を主役としたSF連作短編です。
本作の特徴は、主人公の住む世界は、ある一人の富豪が持つタイムマシンによって、常に過去が変動し、現在まで影響を及ぼす世界になってしまっているということ。慣れ親しんだ家や道具、家族までもがいつのまにか違うものになってしまっているなどはざらで、時には自分自身の存在がなかったなんてことも。
つまり本作は、常に現在が不確定な世界で探偵業を営む主人公の物語となっています。雰囲気は翻訳物のハードボイルドで、非常に読みやすく面白い作品です。おすすめ。
『ミステリーの書き方』アメリカ探偵作家クラブ
こちらは講談社文庫から翻訳が出ているミステリ小説の指南書。アメリカ探偵作家クラブに属する作家が寄稿した文章や、彼らに書いてもらったテーマごとのアンケートが掲載されています。
寄稿している作家はフレドリック・ブラウン、ジョン・D・マクドナルド、レックス・スタウト、ヘレン・マクロイなど、にわかの私でも知っている錚々たるメンバー。
扱われているテーマは、「ワトスン役は必要か」といったミステリの指南書らしいものから、「アイディアの見つけ方」「プロットの組み立て方」といった、創作全般に通ずるものまで。
私を含め、創作を志す人であればきっと参考になるアドバイスがあるはず。特に印象に残っているのは、翌日の仕事がしやすいように、続きが書けるような形で文章を終わらせてからベッドに入るというもの。やっぱり職業作家でも、机に向かっているのに文字を書けない状況はメンタルにも来るようですね。
『フランケンシュタインの子供』風間賢二編
こちらは風間賢二さんによる、『フランケンシュタイン』をテーマとした角川ホラー文庫のアンソロジー。メアリー・シェリーの「神話」から、不死、分身、死体蘇生、自動人形、マッド・サイエンティストといったテーマを切り出し、それぞれに沿った多様な短編が収められています。
メアリー・シェリー、メルヴィル、ラヴクラフト、ヴォネガットといった作家が一冊に収められているバリエーションの豊かさと、それぞれの作品の質の高さは素晴らしいの一言。
各作品の感想も含め、詳しい感想は下記の記事に書いているので、そちらをお読みになっていただけると嬉しいです。
『人間機械論』ド・ラ・メトリ
こちらは岩波文庫の青帯から、18世紀のフランスの医師・ド・ラ・メトリの一冊。彼はデカルトが打ち出した身体=機械という考えをさらに押し進め、人間の精神すらも機械的な働きに過ぎず、現今の宗教的な神などは存在しないと書き切っています。
人間の生理的な働きや脳の機能が以前よりも明らかになった今となっては、当たり前と言う感覚もありはしますが、当時としてはかなり衝撃的だったろうことは想像に難くありません。
近代を把握するうえでも押さえておいて損はなく、面白い本ではあるんですが、惜しむらくは翻訳が古く、ただでさえ当時の目を気にして回りくどい文章が更に読み辛くなっていること。ただ、概略は掴めると思うので興味があればぜひぜひ。
『超筋トレが最強のソリューションである』Testterone
こちらは一時期、車内広告などでも見かけた『筋トレが最強のソリューションである』の続編で、自分にしては珍しい一冊。前作は読んでいないので比較はできないのですが、こちらの本では筋トレの重要性を精神論ではなく、科学的なエビデンスを通して説明しているようです。
ただ、「筋繊維を切れ」といった笑える精神論は健在。筋トレ至上主義な著者の言葉からはとても勇気づけられます。この手の本に苦手意識がある人も、騙されたと思って読んでみて欲しい一冊です。
実際、自分も普段はあまりこういう本は読まないんですが、この本を読んでから、実は食事や筋トレを意識するようになりました。効果はまだ実感できてはいないものの、続けてみることが大事だと思うので、続けていきたいと思います。
おわりに
というわけで、今回は2024年上半期の振り返り読書編でした。まず、最初にも書いたように目標の百冊にはビハインドがある状態での折り返しなので、ここからはなんとか巻き返していきたいところ。
で、改めて読んだ本を振り返って感じたことは、主に3つ。1つは、意外とジャンルを問わずに読めたな、というもの。自分の読書傾向は海外小説に偏ってはいるんですが、意外と日本の作品も読めていて、しかもそれが面白かったので良かったと思います。
2つ目は、あまり刺さらなかった本の続く時期が何度かあるな、ということ。この理由を考えてみると、目標の百冊を目指すあまり、とりあえず惰性で本を読んでおく、という時期が何度かあったからだと思います。意識はしていませんでしたが、アタリがないとモチベも下がるので、選書の段階からしっかりしていきたいですね。
そして3つ目は、単行本をほとんど読まなかったということ。単行本、さらに言えば難しめの歯応えのある本が少なかった、というかなかったわけです。これも冊数を意識するあまり、時間のかかる本を避けた結果だと思っています。
まあ、この自己分析が済んだところで、無理して何かを変えていくことはありませんが、流石にちょっと重めの本にもチャレンジしていきたいと思ったところで今回は終わりにしたいと思います。ではでは。