はじめに
先日墨田区にある「たばこと塩の博物館」で開催中の「嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器」展に行ってきました。
Ⅹか、はたまたインターネットの広告か、どこでこちらの展覧会情報を仕入れたかは忘れたものの、「嗅ぎたばこ」の名に惹かれて以来、是非とも行ってみたいと思ってたんですよね。
にわか推理小説読みの自分が嗅ぎたばこを知ったのは、もちろん(?)ジョン・ディクソン・カーの『皇帝のかぎ煙草入れ』(未読)。何となく認知はしていても、いまいちよくは知らない代物。それが私にとっての嗅ぎたばこ入れでした。
開催前から行こうと思っていたのに、結局行けたのは12月に入ってから。開催が今月の22日までなのでギリギリの感想になってはしまうのですが、とても魅力的な展覧会だったので感想を書いていきたいと思います。
展示は1フロアだけと小振りな展示ながら、ぜひとも見に行って欲しい展覧会です。後ほど書きますが、常設展もかなり良かったので、展覧会が終わってからでも、足を運ぶのは全然ありだと思います。
感想
思い付きで押上へ
12月某日。午前中からあった外出の予定を終え、お昼でも食べて帰るかと思い立ったお昼過ぎのこと、ふと「嗅ぎたばこ入れ」展に行ってみようと思い立ちました。
展覧会の終了日は12月22日。気付けば残すところ数週間しかないことに気づき、急遽行ってみることに。東武伊勢崎線、もとい東部スカイツリーラインに乗って北千住から押上へ。
ソラマチで何か食べようかと思っていたのですが、その日は休日とあって人人人。クリスマスムードに染まる商業施設に、男一人の居場所はありません。道中で何か食べたいなあと思いつつ、目的の博物館へと向かいます。
ちなみに、公式HPには駅の出口ごとのGoogle Mapのルートのリンクが貼られているため、スマホさえあればどの駅からでも迷わず行けるはず。この辺りの配慮がしっかりしているのは、地味ながら好印象です。
スカイツリーを尻目に川沿いから通りへと向かうわけですが、思えば完成から十年以上の月日が経ち、ようやく間近でスカイツリーを拝むことになりました。
蕎麦屋で一休み
昼飯は最悪コンビニか?との不安がよぎる中、見つけたのは同じ並びにある中華料理屋と蕎麦屋。迷いはしたものの、その日の気分は和。蕎麦屋の暖簾をくぐります。
お店の名前は「かみむら」。扉の外から店の中の様子は伺いづらく、ちょっと躊躇いはあったんですが、入ってみると店員さんの気持ちの良い声掛けがあり当たりを核心。席へと着きます。
入るまで気付かなかったんですが、こちらのお店、一般的な蕎麦屋のメニューの他、タワー丼なるスカイツリーにあやかったデカ盛りを提供しているようです。何だか、テレビで見たような記憶も・・・。
ちなみに注文したのは上天ぷらそば。海老の本数が二本になるだけなので、正直天ぷらそばで良かったんですが、何となく高いものを注文したいと思ってしまいこちらに。
冬の寒さに、そばの暖かさが染み渡りました。次に行く時は、コンディション整えてタワー丼にチャレンジしてみたいなと思っています。
博物館へ
かみむらさんから横断歩道を渡り、しばらく進むと電柱に「たばこと塩の博物館」の文字を発見。
そこから道なりに進むと、道路を挟んで博物館が不意に現れます。
入館料はたったの100円。常設展だけでなく展覧会もこれで入れたりします。財布に優しい価格設定ですね。また、館内にはお金が返却されるタイプのロッカーもちゃんとあるので、荷物の多い日も安心です。大きめのサイズのロッカーも少ないながらちゃんとあります。
ちなみにその日は某書店で買い込み、重い紙袋を持ちながら見て回る覚悟すらしていたので助かりました。冬場だとアウターも邪魔になりやすいので、ロッカーがあるのは非常にありがたいです。
なお1階は受け付け、ロッカー、こじんまりとしたミュージアムショップ。2階が企画展を行う特別展示室と塩の常設展示。そして3階がたばこの常設展示となっています。
嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器
嗅ぎたばこ入れと言うとヨーロッパのイメージが強かったんですが、嗅ぎたばこ自体はたばこの原産地・南米から航海者たちが持ち帰ってきた文化とのこと。
ヨーロッパに嗅ぎたばこが伝わり普及し始めると、たばこを保管する入れ物も発展していきます。自分のイメージは嗅ぎたばこ入れと言えば箱型でしたが、瓶型もメジャーなものとしてあり、素材も多岐に渡ります。中には、巻貝や動物の角を用いたものも作られていました。
こちらの展覧会では、こうした多種多様な嗅ぎたばこ入れが展示されていて、非常に見応えがあります。大きさも様々で、持ち運び用のものもあれば、家に置いておくような保管用のサイズのものもあったりと、見ているだけで楽しいです。
また、ヨーロッパから中国へと伝わった嗅ぎたばこ入れは、独自の発展を遂げます。中国では瓶型の鼻煙壺(びえんこ)と呼ばれるものが普及し、皇帝主導の宮廷工房で工芸品としての地位を高めていったのだとか。
中でも、鼻煙壺にも用いられた「内画」と呼ばれる技術はとても印象に残りました。こちらは瓶の口から筆を入れ、内側から外に向かって絵を描くと言うもので、曲がった筆で数ミリ単位の細かい絵を描く様子は驚きしかありません。
その他、モンゴルやチベット、カザフスタンといった地域の嗅ぎたばこ入れも展示されており、バリエーションに富んでいます。
工芸品などを眺めるのが好きなら楽しめること間違いなしですし、嗅ぎたばこに関する資料も数多く展示されているため、文化的な面からも非常に楽しめる展覧会でした。
常設展示『塩の世界』
たばこが工芸品を扱った文系の展示だったのに対し、塩の方は科学館を思わせる理系寄りの展示となっていて、良い意味で方向性が違って面白かったです。
塩と生物の関係や塩の製造方法、人体における塩の役割など、塩についての知識を映像やパネル、立体物の展示で学ぶことができます。
中でも個人的に印象に残っているのは、ヴィエリチカ岩塩坑の映像と聖キンガ像のレプリカ。ポーランドのヴィエリチカにあるこの採掘坑は、数百年単位で掘り進められ、その全長は百キロ以上。
いたるところにレリーフやシャンデリア、彫刻などが置かれているのですが、これらすべて塩で作られているのだから驚きです。そして、この岩塩坑を国営化した伝説的な人物、聖キンガの塩の彫刻がヴィエリチカにはあるんですが、なんとこちらの博物館に飾られているキンガ像のレプリカは、同じくヴィエリチカの塩で作られているのだとか。
こちらの展示は是非とも生で見ていただきたいです。
塩の常設展示室「世界の塩資源」コーナーから岩塩彫刻「聖キンガ」をご紹介。ヴィエリチカ岩塩坑で13世紀に本格的になった岩塩の採掘はポーランドに大きな富をもたらしました。当時、ポーランドに嫁いだハンガリー王女キンガは、この岩塩坑を発見したという伝説があり、カトリックの聖人でもあります。 pic.twitter.com/IRrKrqUOBI
— たばこと塩の博物館公式 (@tabashio_museum) May 17, 2020
常設展示・たばこの歴史と文化
こちらの展示で真っ先に来館者を迎えるのは、メキシコにあるマヤ文明の遺跡、パレンケ遺跡の十字の神殿の複製。その大きさには圧倒されること請け合いの展示資料、何でもこちらのレリーフに描かれたたばこを吸う神こそが、たばこに関する世界最古の資料なんだとか。
古今東西のたばこにまつわる品々が展示されており、どれも美しく、手の込んだ一品ばかりで、見ているだけで楽しい展示となっています。特別展で扱われていた嗅ぎたばこ関連の品々はもちろん、パイプやキセル、シガーカッターにシガーケースなど、素晴らしいコレクションには感動してしまいます。
また、江戸文化の紹介として当時のたばこ屋が実寸大で復元されていたり、世界の紙巻たばこのパッケージなどのコレクションがあったりと、展示のバリエーションは豊富です。海外だけでなく、昭和・平成の紙たばこのパッケージも展示されており、こちらは人によってはかなり懐かしさを感じる展示ではないでしょうか。
自分はたばこをやらないのですが、自分なんかでも、小説やドラマの中でしか見たことのないたばこの名前を見つけると、ちょっとした感動があったりました。
コレクションギャラリー
故・土屋陽三郎氏のコレクションなどが展示されたギャラリー。スペース自体は広くないものの、印象に残っているのはティファニー製のシガーボックス。
ちなみに、今では直接口に咥える紙巻きたばこ用にシガレットホルダー(『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘップバーンが吸っているやつ)なるものが生まれた一説として、当時のシガレットは両切であったために、口に含むとたばこや紙の味がしたりしたからというのがあるそうです。面白い。
おわりに
気付けば2時間以上博物館で過ごしてしまい、出る頃には日も暮れ始めていました。正直途中からは疲れていたこともあり、十全に回れたとは言い難いので、また次の機会に取っておこうと思います。
なお、衝動のままに常設展のガイドブックと嗅ぎたばこ入れの図録(過去に発売されていたもの)を購入。この他、絵に惹かれて内画鼻煙壺も一つ購入。100円の入場料で安いと思いきや、思わぬ散財となってしまいました。
次回の特別展は、1月から始まる「日常をつくる!企業博物館からみた昭和30年代」とのこと。昭和三十年代の商品パッケージや広告を展示するそうで、こちらもかなり楽しそうで、きっと行くことになると思っています。
では、夕暮れ時の写真を添えて今回はここまで。
嗅ぎたばこ入れの特別展は22日までなので、興味のある方は是非お早めに!