たぶん個人的な詩情

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【読書感想】『トウモロコシ畑の子供たち』――ホラーの帝王が送る笑いあり恐怖ありの短編集。

はじめに

先日『吸血鬼ハンター“D”』の感想にて、菊地秀行さんの本を初めて読んだことは書きました。さも色々と読んでいます風を装っている私ですが、恥ずかしながら菊地さんだけでなく、実は読んだことのない著者や作家というのは数多く存在していて、自分にとってスティーヴン・キングもその一人。

というわけではなく、キングについては小学生か中学生の頃に『ダーク・タワー』の一冊目だけを読んだことがあったりします。

ただ、当時はファンタジー小説の延長として手に取っており、後になってモダンホラーの帝王としてキングを認識したような有様だったりします。その後、怪奇・ホラー小説に興味を持つ中でキングの存在を意識するわけですが、結果的に読むことはなく、今に至っていました。

ちなみに、『ダーク・タワー』の内容はほとんど覚えていないものの、ベッドシーンがあったりして、当時の私にとっては刺激が強く、読んでいてドキマギしたことを何となく覚えています。

なお、キングを読んでこなかった理由は特に思い当たらないのですが、一つ挙げるとするならば、数ある作品の中から何を読もうか迷っていたらここまで来てしまった、という感じなのかもしれません。

そんな中、中でもこの『トウモロコシ畑の子供たち』には以前から興味があり、次にキングを読むならこれにしたいと思っていたところ、偶然ブックオフで出会い即購入。

理由は後述しますが、こちらの表題作を読んでみたかったんですよね。

なので、これが私にとってのキング新規まき直しと、よく分からない前置きをしたところで、以下感想を書いて行きたいと思います。ちなみに、自分が手に入れたのは下記の眼光鋭い表紙ではなく、シンプルにトウモロコシ畑が描かれたカバーのものでした。

感想

本作は米国で1978年に刊行された短編集、“Night Shift”の一部を翻訳したものとなっています。サブタイトルが「ナイトシフト2」となっているのはこのためで、「1」は同じく扶桑社ミステリーから出ている『深夜勤務』。

なお、このリンクを貼るためにアマゾンで「深夜勤務」と調べたところ、ナースものの官能小説やアダルトビデオが大量に検索に引っかかって笑ってしまったのは秘密。

話を戻すと、本短編集はホラー色は強いものの、ホラーに留まらず、バリエーション豊かな作品が収められております。「2」とはなっていますが、基本的に『トウモロコシ畑の子供たち』から読み始めても問題ありません。

唯一、訳者の解説が『深夜勤務』を含めてネタバレ交じりなのでその点はご注意を。ちなみに、本国でこの本が刊行されたのは1978年。『キャリー』の刊行が1974年なので、比較的初期のキングが楽しめる作品集なのではないかと思います。

では無駄話はこれくらいにして、以下感想。本書には10編短編が収録されており、すべての感想を書くのは精細さを欠くと思われるので、今回は半分の5編のみ感想を書いて行きます。

超高層ビルの恐怖

金持ちの若き妻を寝取ったテニス講師がその夫から理不尽な賭けを吹っ掛けられ、摩天楼の縁を歩かせられるというストーリー。全体的によくまとまっており、オチのスカッと具合も含めて楽しい作品です。

一作目からこれならこの本に期待が持てますし、理不尽な状況ながらユーモアも感じる作風のため、本短編集の雰囲気を味わうのには打って付けの短編だと言えるでしょう。

ちなみに、自分なんかはフィクションだと分かっていても、高い所を想像すると掌や足の裏に汗をかいてしまうタイプの人間なので、めちゃくちゃ汗が滲み緊張しました。

禁煙挫折者救済有限会社

知人に紹介された会社と契約したことで、法外の方法で禁煙を目指すことになってしまった男を主役にした短編。いやーな感じの苦さがありつつも、本短編集の中でも群を抜いてユーモアにあふれており、非常に大好きな作品です。

恐怖とユーモアと優しさの塩梅が絶妙で完成度が高く、取り合えずこの作品だけでも読んで欲しい、と思えるぐらいの作品だと思っています。また、喫煙者であるキング自身がこの小説を書いているということ自体が、自虐的なものを感じられて良いですね。

バネ足ジャック

エンドウ豆のスープを思わせる霧と共に、語り手の通う大学で連続殺人事件が起こるという、少し幻想的な雰囲気を持ったホラー小説。

題材、語り口、結末。

すべての調和が取れていて、独特の読後感を与えてくれる佳品だと思います。多くを語るのは違うタイプの作品だと思うので、短いですがここまで。

トウモロコシ畑の子供たち

夫婦が車で田舎道を進んでいると、人気のない町へと辿り着き……。と言った典型的なホラー小説。個人的に好きなタイプのホラー小説なんですが、ネタバレ的な意味で多くは語れないので、これを読もうと思ったきっかけを感想代わりに書いておきます。

先にも書いた通り、本作が読みたくてこの本は読んだんですが、理由は『クトゥルフ神話TRPG』のソースブック『マレウス・モンストロルム』。こちらの本には、クトゥルフ神話に関連したクリーチャーが多数掲載されており、その数なんと380種。

以前ジョン・ウィンダムの『トリフィドの日』を原作とした『人類SOS!』という映画の感想にも書いたんですが、こちらのソースブックはクトゥルフ神話とまったく関係のないクリーチャーをクトゥルフ神話に取り込んでいるのが特徴の一つ。bine-tsu.com

この特徴に賛否両論はあれど、何はともあれ、この本には本短編「トウモロコシ畑の子供たち」に登場する「存在」が掲載されています。ただ複雑なことに『マレウス・モンストロルム』にこちらの存在の出典として書かれているのは、キングの短編ではなくクトゥルフ神話TRPGに携わっている人物によるシナリオ(?)だったりするのです。

ただ元ネタはこの短編で間違いないと思いますし、少なくとも日本のネット界隈ではそう捉えられている様子です。

ちなみに、この短編を原作とした映画『チルドレン・オブ・ザ・コーン』の三作が収められたブルーレイボックスが今年の1月に発売されています。

この映画のDVDは結構なプレ値が付いていたので、興味がある方は手に取ってみてください。かく言う私は買いました。前から観たいと思っていた上に、解説を書いている新井素子さんによれば、映画の方が面白いとのことなので、観るのが今から楽しみです。

312号室の女

ホラー色の強い作品が多く収められる中、本作はとりわけ毛色の違う短編となっています。延命治療に苦しむ母を見守る息子の一人称で語られる短編で、現実味のある差し迫った恐怖が描かれていると言えるかもしれません。

恥ずかしい話、まだ母親が元気であるにも関わらず、読んでいると作中の姿に色々と重ね合わせてしまい、自然と涙が出てきてしまいました。

個人的に、出来という点ではこの短編集でも一、二を争う作品だと思うのですが、あまり読み返したくはない作品です。

おわりに

という訳で、スティーヴン・キングの『トウモロコシ畑の子供たち』の感想でした。実は読んでから結構経った後に感想を書き始め、継ぎ足し継ぎ足し書き足してきたのでまとまりが悪いかも知れませんが、その辺はご了承を。

感想は書かなかったんですが、思い返すと「芝刈り機の男」なんかも笑ってしまう短編で、あの神様の名前が出てくることからも意外と好きだったなと、これを書いている間に思ったりもしたんですが、まあ切りよく半分の5編の感想に収めておきます。

実はキングの本は結構積んでいるので、今年中にあと何冊かは読んでみたいところ。また、今年も後半が既にひと月過ぎようとしているので、キングに限らず読書のペースは高めていきたいと決意を新たに今回はこの辺で。

ではでは。


▶トウモロコシ畑の子供たち(Night Shift(Vol.2)
▶作者:スティーヴン・キング
▶訳者:高畠文夫
▶カバーデザイン:小栗山雄司
▶イラストレーション:藤田新策

▶発行所:扶桑社
▶発行日:1988年7月21日第1刷