たぶん個人的な詩情

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【映画感想】『IMMACULATE 聖なる胎動』――閉ざされた修道院、処女懐胎を果たした修道女。以上の設定が好きなら絶対観るべきホラー。

はじめに

趣味を読書と映画鑑賞と言っておきながら、新作への感度はすこぶる低い私。気付けば読み逃している本、見逃してしまっている映画はたくさんあって、特に映画の情報収集は甘ちゃんも良いところ。

本なら発行されている以上後追いは簡単にできるものの、映画となると公開期間を逃すと観るのが難しくなる映画も多く、後になって悔やむこともしばしばだったりします。

そんな私ですが、今回感想を書いて行く『IMMACULATE 聖なる胎動』は、たまたまスマホのディスカヴァー機能で回って来て存在を知りました。

www.sankei.com

引用されているビジュアルの美しさ、題材の気味の悪さに惹かれ、仕事帰りに観に行ってみることに。上映館も減る中、観に行ったのは新宿武蔵野館。横を通りかかったことはあり存在自体は知っていたのですが、入ったのは今回が初。

どうも1920年から存在する老舗も老舗の映画館だそうですね。

shinjuku.musashino-k.jp

未だミニアシアター系の映画館に足を踏み入れるのに緊張してしまう小心者ではあるのですが、綺麗な感じの雰囲気のため、初めてでも居心地がよく良かったです。ロビーには座れる場所もあるため、早めに行っても安心でした。

ただ、自分の入ったシアターは客席の高低差がなく、前の人の頭で画面が隠れる可能性が十分あるので、座席選びの際はご注意いただければと思います。

では、前置きはこれくらいにして以下感想です。途中からネタバレを含んだ感想を書いて行くので、未見の方はご注意ください。

あらすじ

アメリカからイタリアの修道院へやって来た敬虔な修道女・セシリア。言語の壁や修道院の独特な雰囲気に戸惑いながら、修道院生活を謳歌するセシリアだったが、ある日自分が処女であるにも関わらず妊娠していることを知る。

戸惑いを隠せないセシリアを他所に、周囲は彼女を崇め始める。まるで、聖母マリアの再来を拝むかのように。

しかし、周囲の対応に不信感を抱き始めたセシリアは、ついに修道院からの脱出を画策し始める。それが、修道院のヴェールの裏側を見ることになるとも知らず。


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感想

ネタバレなし感想

この映画、個人的にはすごく楽しかったです。観ている最中ワクワクが止まらなかったですし、前半のホラーパートと後半のアクションパートの切り替えも、味変感覚で楽しめました。

脚本的に、本来ならB級感漂うものになる内容だとは思うんですが、映像の質感と役者の重厚感で高級なものに仕立て上げている感じが、高級素材を使ったハンバーガーみたいな趣きがあって良かったです。

高尚な映画ではもちろんなく、万人受けしないのは分かるんですが、公開期間も短く上映館が少ないのはもったいないなと感じます。それぐらい面白かったです。

魅力的な映像、ただし気になる点も

まず、映像の質感が良かったです。修道院という舞台を活かす落ち着いた色調は見応えがあり、最後まで画面から目が離せませんでした。これのお陰で、この映画はB級映画の域を超えてきているわけです。

ただ、いつまでも同じ物ばかり与えられていては、いくら美味しくても飽きてくるのは食べ物も映像も同じこと。何が言いたいかと言えば、暗さへのアクセントとして、もっと明るい映像を入れて欲しかったです。

この映画で目を惹かれ、印象に残っているシーンを挙げると、実は特徴的な暗い映像ではなく、タイトル通り「immaculate」な「白い」シーンになるんですよね。

例えば、先にも挙げた記事で引用されているセシリアのカット。彼女の処女懐胎が判明した後、聖母マリア風の服に身を包む際のシークエンスは、内容の不気味さだけでなくその色合いと質感のために、薄気味悪い聖性が感じられてとっても良いです。
※下記動画のサムネイルの服装


www.youtube.com

その他、修道女たちに干されるシーツの白さもやはり印象的で、やはり「白さ」がこの映画の鋭さを支えているように思います。

もちろん、多用することで印象が薄れる可能性はあるんですが、それでも、もうちょっとあの「白さ」を見たかったと言うのが正直なところです。

恐怖と気持ち悪さの混在

映像の話はこれくらいにして、ジャンル映画としての側面について語っていくと、この映画、普通に怖いんですよね。ホラー映画慣れしている人にとっては大したことないかも知れないんですが、少なくとも私にとってはすごく怖かったですし、恥ずかしながら目を薄めて観ていた場面もありました。

ホラー映画として、怖いと言われるのは最高の褒め言葉でしょう。まあ、怖がらせ方がジャンンプスケア一辺倒であることは否定ができず、この辺りは非常にもったいないと思ってしまったのも事実です。

なお、このように怖さの演出はあまり褒められたものではないのですが、この映画の気持ち悪さは一級品です。映倫の区分的には一般指定で間違いないんでしょうが、映像のグロさを超えた気持ち悪さがこの映画にはあります。

まず何と言っても「望まぬ妊娠をしてしまう」という設定がシンプルに気持ち悪い。男である私でさえこう思うのだから相当でしょう。出産間近の胎動も明らかに異物感を出してきていますし、超音波検査のゼリーの音すらも気持ちが悪い。

また、母親であるセシリアを除け者にして赤子の心配をする周囲の様子からは、ムラ社会的な構造上の気持ち悪さを感じてしまいます。ちなみに、本作から家父長制への反抗と言うか、女性解放的なニュアンスが含まれているのを感じますが、語れるほど知識もないので深入りはしません。

シドニー・スウィーニーの存在感

そして、この映画を確かなものにしているもう一つの要素は、役者の存在感。中でもシスター・セシリアを演じるシドニー・スウィーニーの演技は良かったです。

序盤・中盤・終盤と、映画全体に渡って求められる演技の変化するセシリアと言う役を演じきっているのは流石。中でも、序盤の透明感と終盤の演技を観て、この人のことが好きになってしまいました。

ドラマなども観ないので彼女のことは知らなかったんですが、アマプラでも配信されている『恋するプリテンダー』にも出演されているみたいなので、こちらも折をみて観てみたいと思っています。

あと、シドニー・スウィーニーがこの歳で出演作品の制作に関わっていると言うのも個人的には触れておきたいポイント。何でも、十代の頃にオーディションを受けていたのに企画倒れした本作の権利を買い取り、スタッフを集めて制作したのがこの映画なのだとか。

この行動力の高さや作品への思い入れは好感が持てます。若いのにすごいですよね。ただ、監督を始め制作陣にあまり有名どころがいないことは、この映画の詰めの甘さに繋がっているような気もしてしまいます。

大枠はとても良いのに、神が宿るべき細部が杜撰と言うか。なお、このコメントはお気付きの通り、人口に膾炙した言葉をモジりたかっただけです。

以下、ネタバレありの感想です。

ネタバレあり感想

ネタバレをする以上、触れておかなければいけないのはこの映画のトンデモ設定。21世紀も四半世紀が過ぎようとする中で、まさか聖遺物からDNAを採取するなどと言う設定を大真面目にやってしまうとは。

これ、たぶん人によってはマイナスに繋がりかねない設定だと思うんですが、個人的にはむしろこのB級感や外連味こそが、本作の面白さだとさえ思っています。

なんせ自分は、セシリアが神父に聖釘の前に連れられてくる場面で、この後もし神父がDNAの話を語り出したらこの映画の感想を書こう、と決意していたくらいなのですから、嫌いな訳がないです。そこまで振り切ってくれるならOK、みたいな。

とは言え、あそこまで壮大で迂遠な計画を立てるのであれば、もう少し踏み込んで野望や計画の詳細を語って欲しかったです。これはあくまで個人的な好みの話ですが。

また、ネタバレするからには最後に生まれた「何か」についても書いておきたいのですが、真っ当に考えるならラストの赤子はアンチキリストなのだと思います。

ただ、個人的な解釈で言えば、あれこそがイエス・キリストだったと言うのがグロテスクだと思うので、私はその説を採りたかったりします。つまり、イエス・キリストその人がそもそも人ならざる「何か」だった、と言う。

なお、妊娠がオカルト由来か人為的なものなのか、結構早い段階で勘付けるようになっているのは少し肩透かし気味ではありました。

その他、映画の終盤で復讐の天使と化すセシリアにも、ネタバレするなら触れておきたいところ。流石に周りの油断が過ぎるとの突っ込みはさておき、神聖な聖具の数々で強行突破していくセシリアの姿は拍手喝采ものです。

間違いなく最悪の胎教だし、何よりもまず罪の観点から言って、殺人を犯したセシリアから産まれた子は不味いと思うのですが、まあそこはご愛敬。

映画序盤、脱走を試みたシスターが生き埋めにされるシーンから、あまり期待できないかもなあ、と思いもしたんですが、しっかり持ち直してくれて良かったです。

おわりに

と言う訳で『IMMACULATE 聖なる胎動』の感想でした。久しぶりに長々と感想を書いてしまったのですが、それだけ語りたくなる映画だったのだと思います。

素材が良かっただけに、もっと細部にも目をかけて欲しかった気持ちは確かにあるんですが、それ込みでも好きな映画でした。

あと、学生時代に聖歌を聞く機会が少しあったため、作中で流れるラテン語の歌詞には懐かしさを感じました。ホラーと聖歌の相性はとても良かったです。それと良かったと言えば、その賢しさ故に破滅する友人のシスター・グウェンも良かったですよね。

ちなみに、この映画のパンフレットには高橋ヨシキさんと伊東美和さんの二人が寄稿されているんですが、それぞれ今後観る映画選びの資料として参考になる内容なので、機会があれば読んでみて欲しいと思います。

では、今回はこの辺で。


▶IMMACULATE 聖なる胎動 / IMMACULATE(2024 / アメリカ、イタリア)
▶監督:マイケル・モーハン
▶脚本:アンドリュー・ローベル
▶製作:デビッド・ベルナド、シドニー・スウィーニー、ジョナサン・ダヴィーノ、
    テディ・シュワルツマン、マイケル・ハイムラー

▶製作総指揮:クリストファー・カサノバ、ジョン・フリードバーグ、ウィル・グリーンフィールド
▶音楽:ウィル・ベイツ
▶撮影:エリーシャ・クリスチャン
▶編集:クリスチャン・マシーニ
▶出演者
シスター・セシリア:シドニー・スウィーニー
テデスキ神父:アルバロ・モルテ
修道院長:ドーラ・ロマーノ
シスター・グウェン:ベネデッタ・ポルカロリ
メローラ枢機卿:ジョルジオ・コランジェリ
シスター・メアリー:シモナ・タバスコ
シスター・イザベル:ジュリア・ヒースフィールド・ディ・レンツィ
エンツォ助祭:ジュゼッペ・ロ・ピッコ