はじめに
8月に開催されていたブックオフの35周年祭にて、計51冊の本を買い込んだことは下記の記事にて書きました。気付けばあれから既に二カ月が経ち気付けばもうすぐ11月。bine-tsu.com
時間の流れが早く恐ろしさを感じるばかりですが、このシーズンならではの嬉しいイベントもあります。そう、神田の古本まつりです。週末は雨で中止だったようですが、来週の月曜日まで開催される一大イベント。また積み本が増える予感がするので、最近は意識的に件のブックオフの積みの山を切り崩している次第です。
【第65回 神田古本まつり】
— 東京神田古本まつり (@kanda_kosho) September 11, 2025
2025年秋の「古本まつり」のお知らせです。
📅 日時:10月24日(金)~11月3日(月・祝)
⏰ 時間:10時~18時
📍 会場:神田神保町古書店街
期間中はさまざまなイベントを予定しています。
詳細が決まり次第、このアカウントで随時お知らせしますのでお楽しみに!📚✨ pic.twitter.com/YAnNR9LNTr
で、今回感想を書いて行くのは、そんな積読51冊の内3冊を占めるフィリップ・K・ディックの『ウォー・ヴェテラン』。今はなき現代教養文庫からの一冊となります。
考えてみると、ウェルズなどの古典の域にある作家を含めてもなお、ディックほど幅広い出版社から出ているSF作家もいないのではないでしょうか。
最近では、土井宏明さんによる『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』などのカバーの影響から、ディック=ハヤカワという印象が強いものの、当然ながら東京創元社からも出ていますし、かつては新潮文庫やちくま文庫からも発売されていました。サンリオSF文庫は言わずもがな。
それは何故なのか。ディックの流行した時代と、彼が描いたディック感覚とも呼ばれるようなテーマとの親和性。時代性を超えた、彼の作品の魅力と普遍性…。
恐らくこれは、それこそブログの記事が一本書けそうなテーマであり、私自身詳しくはないためここで深く語ることは差し控えますが、あえて一つ書くとすれば、SFに慣れ親しんでおらずとも、SF的な予備知識がなくとも読める、一種の単純さが彼の作品にはあるからではないでしょうか。
特にこれは、長編ではなく短編において発揮される彼の魅力だと思います。では、以下そんな彼の中短編が楽しめる『ウォー・ヴェテラン』の感想です。
感想
本書には50年代に発表されたディックの短編が5本、中編が1本収録されています。傑作と呼べるような作品はないんですが、どの作品も方向性が違って飽きが来ません。一気に読み切ってしまいました。
この「飽きが来ない」と言うのは同一作家の短編集においては地味に大事だと思っていて、作家の強みが楽しめる分、似たような系統の作品ばかりが収められていると、結構飽きてしまったりするんですよね。
過去に読んだディックの短編集では、ディックらしい作品、つまりは現実や自分自身を疑いたくなるようなタイプの作品がこれでもかと収められており、少し食傷気味になってしまった覚えがあります。
強いて言うなら、本書には文学チックかも、と言った作品が多いくらいで、飽きが来るほどではありません。そもそも、6作品しかないので飽きが来ないのは当然と言えば当然かも知れませんが。
髑髏 The Skull (1952)
個人的に、本書の中でも一番すっきりしていて気持ちの良い作品。二世紀前の時代に送られたハンターが、遺骨を頼りにある宗教の教祖暗殺を依頼されて…と言うお話。
オチ自体は途中で察しが付くものの、主人公の決断が気持ち良いので無問題。伏線の回収も上手く、短編集の出だしとしては期待の持てる佳品です。
過去に刺客を送り込んでの暗殺と言うと『ターミネーター』的でもあり、過去とのギャップに戸惑う様子は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的でもあります。
生活必需品 Some Kind of Life (1953)
本書の中でも何だかんだ一番好きかもしれない作品。生活水準を日々更新し続ける地球において、生活必需品は増えていくばかり。けれど当然、そんな生活必需品を作るには必要となる素材があるわけで、地球は太陽系の惑星の原住民と戦いながら、それらを確保しています。
これは是非読んで欲しいので深くは語りませんが、欲望の際限のなさが導く資本主義の行く末はどうなってしまうのか、現代の大量消費社会に対して一抹の不安を感じさせられる内容でした
なお、このブラックユーモアな感じとオチの綺麗さは、アシモフの短編とかにあってもおかしくない雰囲気です。
造物主 The Ininites(1953)
惑星の探査を行っている調査員たちが、生物の生息条件を満たしているのに、生物の存在しない惑星に降り立って…と言うお話。
題材は嫌いではないものの、いまいち活かしきれていない感じがしてしまうのは私だけでしょうか。ただ、ディックの考える人類進化、あるいは当時の人々が考える人類の進化像を読めると言う点では、面白いと思います。
ちなみに、考えてみると、ゴジラに付いてたフナムシがでっかくなっちゃった系の作品と言えるかもしれません。
トニーとかぶと虫 Tony and The Beetles (1954)
パス=ウデチと呼ばれる人種(蔑称はかぶと虫)の住む星を植民地化した人類。現地の子どもたちと毎日仲良く遊んでいたトニーだったが、彼らとの戦争において人類の旗色が悪くなり…。
大人の起こした戦争に振り回されると言う、少し特殊なエピソードではあるものの、子どもが大人になる過程、と言う点では普遍的な内容だと思います。なお、途中に登場するパス=ウデチの若い女性がすごく良いんですよね。個人的に、本書の中で一番深みを感じた作品です。
ちなみに、かぶと虫と言うワードから連想したのは『ジョジョ』、『とある魔術の禁書目録』、『時間からの影』です。
火星人襲来 Martians Come In Clouds (1954)
火星より来る目的不明の来訪者に恐れを抱く人類。彼らを見つけてはリンチして殺すような日々を送る中、少年は偶然にも木の上に隠れる火星人と出会ってしまい…。
描かれるのは未知への恐怖と、それに過剰に反応してしまう人類の姿であり、火星人と言うフィクションのフィルターを外せば、そこには価値観の異なる移民の姿が浮かび上がってきます。最後の父親の叫びが脆さを露呈していて良いです。
なお、かの『トータルリコール』を始め、意外とディックの作品には火星が登場するように思います。これも時代なのでしょうが、現代だとテラフォーミング先としてリアルな火星を描けど、異星人の住む星として描かれるのは逆に新鮮です。奇しくも、現在販売されているSFマガジンは「火星SF特集」だったりします。
ウォー・ヴェテラン War Veteran (1955)
火星と金星との関係が悪化する地球において、一人の退役軍人が保護される。しかし老人の照会をしようとしたところ、彼は軍人として登録されていないことが判明。しかも彼の語る生年月日は、彼が十代の若者であることを示しており、彼の語る戦争は未だ起きていない、対火星・金星との戦争のことを指していた。彼の話によれば、地球は火星と金星に成す術なく敗北してしまうと言うが…。
表題作。アイデア自体はかなり魅力的で、その点で言えば本書の中でも一番面白い作品だと思います。ただ如何せん、色々と扱いきれていない部分は多く、あと一歩ないし二歩は及ばない出来栄えに感じます。アイデアが良いだけに、色々ともったいない。
おわりに
と言う訳で、フィリップ・K・ディック『ウォー・ヴェテラン』の感想でした。ブックオフの積読消化はこれで5冊目。ノルマとして考えるつもりはないんですが、読まないと本を片せないので、今後も少しずつ読み進めていく予定です。なお、昨年の古本まつりで買った本も絶賛積んでいるのは秘密。
ちなみに、気付けばブログの更新が止まって今日で一カ月が経ってしまっていたみたいです。このところは二週連続で映画を観に行ったり、珍しく漫画を一気に買い進めて読んだりしていたので、上手くまとめられればそちらの感想も書いて行きたい所存。
ただし、この前の日曜から遊び始めたポケモンの誘惑に勝てるかが勝負の分かれ目となります。週末には古本まつりには行く予定なのに、果たして。ではでは。
▶ウォー・ヴェテラン
▶作者:フィリップ・K・ディック
▶編訳:仁賀克雄
▶カバーデザイン:春井裕
▶発行所:社会思想社
▶発行日:1992年12月30日初版第1刷発行


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