はじめに
先日、ダルデンヌ兄弟による『息子のまなざし』を観た。観たのは、北千住にある東京芸術センター内にある映画館、ブルースタジオ。北千住での用事を済ませ、ただ帰るのももったいないと思い周囲を散策していた時に、たまたま映画館の存在を知った。
東京芸術センターが何なのかも分からず、ブルースタジオのホームページから得られる情報もほとんどなかったのだが、恐る恐る入ってみた。エントランスにある堂々たる階段を登ると、映画のポスターが貼られた入り口があり、ほっと胸を撫で下ろす。
受付で料金を払い入場。長机に座ったスタッフの方に現金を渡す。懐かしい感覚。
価格は千円。期間中に一本、日に三度、名画の上映を行っているようだ。最新作『そして彼女たちは』の公開を記念して、3月4月はダルデンヌ兄弟特集とのことらしい。
ダルデンヌ兄弟は、ジャン=ピエール・ダルデンヌとリュック・ダルデンヌの二人からなるベルギーの映画監督。初監督が1978年と言うことなので、五十年近く映画を撮っていることになる。また、長い監督歴の中で二回もパルムドールを受賞している。
と、偉そうに語っているが、これは今ネットで調べた情報に過ぎない。白状すると、最新作の存在も、ダルデンヌ兄弟のことも知らずに、ただ面白そうだからと映画を観ることにした。
観たのは、2002年に公開(日本公開は翌年)された『息子のまなざし』。今はもうブルースタジオでは観れなくなってしまったが、アマプラでレンタルすることもできる。
気になっているのなら、まずは観て欲しい。調べると、ネタバレを食らうかもしれないので、調べずにもう観て欲しい。
この後の感想では、ネタバレも書いていくし、観たことを前提で書いていく。感情のまま書いていく言葉は、意味をなさないかもしれない。が、これが私の感想だ。
感想
良い映画だった。良い映画を観終わった後に特有の、ついつい人に語りたくなる気持ちと、良い映画だからこその、語ることの難しさを同時に感じながら、今この感想を書いている。
オリヴィエは当初、息子を殺した少年の出所に動揺を隠せない。一時は距離を置こうと自分が受け持つ木工クラスへの配属を拒むも、最終的に彼はフランシスを生徒として受け入れる。
目的は、分からない。これはこの場面だけではない。最後まで、彼の気持ちは言葉にされない。息子殺しのフランシスの内面も、元妻の心境も、語られることはない。
それはまるで、現実の世界のように。
この映画にはわざとらしい理由の説明が存在しないのだ。ただ淡々と、事実のみが描かれる。そして、過去の回想もなければ、状況や人物の心境を説明するための劇伴も存在しない。時おり挟まれるカメラの手振れが、これが現実であることを印象付ける。
なぜオリヴィエはフランシスを見張ろうと思ったのか。フランシスの部屋に忍び込んだ彼は、同じ視線で天井を見たことで、何を感じたのか。
戯れに、二人の距離を尋ねるフランシスに対して、ピタリと距離を言い当てるオリヴィエ。彼は一体、どんな気持ちで距離を答えたのだろうか。
過たずに答えた現実の距離に反して、オリヴィエとフランシスの心の距離は揺らぎに揺らぐ。フランシスは歩み寄るが、対するオリヴィエはその距離を決めかねている。離すこともできなければ、近づくこともしない。
名前を呼ぶことに抵抗を感じつつも、一人の生徒として無碍にはしない。「教えることが好き」との言葉通り、不愛想ではあるが生徒への情はある。それはフランシスに対しても発揮される。
それは、フランシスの真面目さによるものか。あるいは、生い立ちに同情すべき点を感じたからか。ただ、彼の真意を探るためだけなのか。
一方、目測で自身の身長を言い当てたオリヴィエに対して、フランシスは尊敬の念を抱く。その気持ちは、きっと彼の人生に存在しなかった父親への感情に近しいはずだ。
食事を誘うフランシス。後見人になってくれないかと頼むフランシス。他の生徒と同じように、名前で呼ぶことの許しを得るフランシス。
年齢に反していじらしい姿を見せる彼に、観客は感情移入しそうになるが、彼はオリヴィエの息子を殺しているのだ。
息子の死を挟んで対峙する二人。
父への感情を向けられたオリヴィエは、けじめを付けるかのように真実を告白し、曖昧な関係性を終わらせる。揺らぐ関係性。一時、二人の距離は物理的に再接近し、心理的に最も距離を離す。
しかし、オリヴィエは最後の最後に許しを与える。首を絞めることで、過去と決別したかのように。それに対して、フランシスは最終的に歩み寄る。
そこで映画は終わる。二人の関係が、この後どうなるのかは分からない。
過去の罪に対して、謝罪ではなく防衛反応が出てしまうフランシス。彼に真の意味での反省があるのか。そして、オリヴィエが許しきれているのかも、分からない。
だが、救いはあるのかも知れない。本当の意味で、二人の距離は近付いたのかも知れない。現実に幕引きという形の終わりがないように、この映画にも終わりはない。
ただ、続く。結末は、私たちに委ねられている。
おわりに
久しぶりに、感情のままに感想を書いてみた。多分きっと、読み返せば破綻もあることだろう。が、この映画の感想は、これで良いこととしたい。
この手の映画を観る度に、こういう映画をこそ人は観るべきだと言う気持ちになる。もっともっと、映画を観たい。限られた人生の中だからこそ、良い映画を摂取したいと強く感じる。
件のブルースタジオでは、今現在、ダルデンヌ兄弟監督作品『ある子ども』が上映されている。きっと、観に行くことになる。ただ、良い映画を浴びるために。
▶息子のまなざし / Le Fils (2002 / ベルギー、フランス)
▶監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
▶脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
▶撮影:アラン・マルクーン
▶編集:マリー・エレーヌ・ドゾ
▶出演者
オリヴィエ:オリヴィエ・グルメ
フランシス:モルガン・マリンヌ
マガリ:イザベラ・スパール
レミー・ルノー、ナッシム・ハッサイーニ 他
