はじめに
以前書いた感想記事に、国内のホラーはあまり読まないと書きました。実際、海外の怪奇小説やホラーに比べて、国内のものはあまり読みません。
理由はこちらの記事にも書いた通り「怖い」から。作品自体が怖いなら全然良いんですが、そうした作品を読んでいると、良くないものが近寄って来そうな気がしてしまうんですよね。
特に、リアルテイストの作品、特に実話怪談系の作品が苦手でして。より寄って来そうと言うか、本当らしいことを娯楽として消化すると、罰が当たらないかと不安になってしまうわけです。
その点、海外のホラーはフィクション色が強いと言うか、少なくとも住んでいる世界が違うので、現実との一線を画してくれるんですよね。あと、日本のホラーの方が現実的で生々しい作品が多い気がしているのも、遠ざけている理由かもしれません。
ちなみに、私が怪奇小説の類を積極的に読むようになったきっかけがラヴクラフトであることも、翻訳物のホラーを読みがちな理由なのかも。そのために、私の好みが偏っている気もするんですが、それはまた最後に触れたいと思います。
そんな中、今回読んだのは『小説すばる』に掲載された短編が八篇収められたホラー・アンソロジー『奈落』。執筆陣は、加納朋子、山上龍彦、貫井徳郎、佐藤哲也、藤田宣永、桐野夏生、かんべむさし、佐々木譲。
ホラーのイメージがある作家も中にはいますが、多くはミステリを中心に他のジャンルのイメージが強い作家たちばかりだったので、私が苦手とするリアル系ではないだろうと踏んで読んでみることにしました。
結果、センサーの感度は良好。良い意味でフィクション感のある作品が多く、自分にとってはかなり楽しめる掘出し物のアンソロジーとなりました。
こちらのアンソロジー、ヒトコワ系もあればガチの怪奇モノもあったりとジャンルが多様な上に、雰囲気も様々。実際、この本の感想を漁ってみると、人によって好きな作品が分かれていたりして、この多様性こそがこの本の魅力なのだと思います。故に、ホラーが好きなら、きっと好みの作品が見つかるはずです。
今回は、収録されている作品の半分・四編を好みで選び、それぞれ感想を書いていきたいと思います。軽くネタバレはあるので、未読の方はご注意ください。
感想
「黒いベールの貴婦人」加納朋子
廃病院でたまたま出会った不思議な少年と少女のため、病院閉院の謎に大学生の主人公が挑むが…。
ミステリ風のジュブナイルホラーと言った趣の作品で、ホラーながら清涼感のある読後感が気持ちの良い作品。過程はもちろんだが、やはりラストが良い。冒頭の感じから普通にバッドエンドになるかと思っていたので、こういう着地は良い意味で予想外だった。
加納朋子作品は初読みながら、解説によればラストの転換は「この作家の持ち味」とのこと。これまで読んで来なかったが、加納作品に興味が沸いてきた。なお、解説を務める坂東齢人は作家・馳星周の本名らしい。知らなんだ。
「きりぎりす」佐藤哲也
ヴァイオリンを弾く巨大なキリギリスを見かけた少年。それはひと夏の思い出とはならなかった。夏が終わり、冬が来た頃、首を刎ねられた兎の死体がいくつも見つかり、犯人捜しに出た猟師は帰って来ない。少年たちは、死体の見つかった場所へ行ってみるのだが…。
このアンソロジーの中でも一番突拍子がなくナンセンスな作品。が、その不条理具合が非常に怖ろしくもあるのが面白い。想像に付随する恐怖が映像では表現しえないことがよく分かる。以前から気になっていた作家ではあったが、佐藤哲也氏の作品をより読んでみたくなった。
ちなみに、最近寝る前にちまちまと呼んでいるカポーティの初期短編集、『ここから世界が始まる』にもちょっと似た導入の話があったりして、偶然の一致に妙味を感じたりしている。
「特殊治療」藤田宣永
対向車と事故を起こした若き研修医。何とか一命を取り留めた彼は、意中の女性の父が経営する病院へ入院することとなる。しかし、医師の態度に不信感を抱き始め、病室を抜け出そうとするのだが…。
オーソドックスで地に足の着いたホラーのアウトラインに、ぶっ飛んだホラ話を織り交ぜたこのバランス感覚は見事という他なく、個人的に本アンソロジーの中でも一番好きな短編だったりする。自分も研修医と同じ選択をしそう。
なお、馬鹿馬鹿しい設定とは裏腹に、至極理性的に語られる本作の「解放」描写は哲学的とさえ言って良くて、この辺りも非常に好み。
「骨のモチーフ」佐々木譲
北海道の田舎に越してきた美人画家。彼女に見初められようと、地元の男たちはあの手この手で言い寄るが、すげなく断られる。そんな彼女には自身の芸術への興味しかないように見えたが、町を離れる間際、彼女は役場の男を夕食に招待し…。
個人的に、本作が一番ホラーらしいホラー、あるいは、海外の一昔前のホラーらしいホラー、と言ったテイストの作品のように感じる。これは、舞台が単なる日本の田舎ではなく、北海道の田舎と言う少し異国的な雰囲気がある場所だからかも知れない。
ちなみに、画家が活発なサバサバ系っぽい性格をしているのは、良い意味で型を破っている感じがして好き。また、真相に読者だけが気付くこの感じのオチも好み。
おわりに
こうして並べてみると、自分のことながらヒトコワ系の作品はあまり好きじゃないんだなあ、と言うことがよく分かりますね。
このアンソロジーに収められているその手の作品の出来云々ではなく、これはあくまで私の好み。やっぱり、私は非現実をホラーには求めているようです。もちろん、時にはその手のヒトコワ系作品を楽しむことがあるんですが、あくまで味変。
きっと、想像に過ぎない空想を、如何に現実の中でもっともらしく描くか、みたいな部分に関心が強く、怖さ以上に、そこに楽しさを見出しているのだと思います。
だからこそ、ラヴクラフトやコリン・ウィルソンの作品が好きなんだと思いますが、これについては長くなりそうですし、私にとってのホラー論、みたいなものはまた記事を改めて書いてみたいところです。
では、今回はこの辺で。
次もまた本の感想を書いていく予定です。
▶奈落 ホラー・アンソロジー
▶編者:集英社文庫編集部
▶解説:坂東齢人
▶装画:
▶発行所:集英社
▶発行日:1995年8月25日初版発行


