はじめに
趣味は読書だと公言していて、こんな感想ブログを長年書いてきているのに、実は人に本を勧めるのが得意ではなく、苦手意識を持っています。
その事実に何となく気付いてはいたものの、それを実感したのは今年に入ってからのことでした。きっかけは、人にお勧めの本を聞かれる機会があったため。しかも、今年に入ってから数回も。
本ではなく、映画なら人の好みに合ったものをある程度勧められると思っているんですが、これが本だとそうもいかないんですよね。
思い当たる理由は後々触れるとして、今日感想を書いていくのは、そんな選書が苦手な私には絶対にできない取り組みで人気を博した、書店の店主さんによる一冊です。
感想
一万円選書という取り組み
お店の名前は「いわた書店」。取り組みの名前は「一万円選書」。その名の通り、一万円の範囲内でその人に合わせた本を選んでもらうというサービスです。福袋のようなランダム型式ではなく、この「選んでもらう」というのがミソ。
店主の岩田さんは、希望者に書いてもらったアンケート(「選書カルテ」と呼んでいるそう)をもとに、本を選んでいきます。
アンケートの内容は、「印象に残っている本」という定番の質問から、「何歳のときの自分が好きですか?」や、「これだけはしないと心に決めていることはありますか?」といったプライベートに関するもの、などなど。
好評を博し、今では抽選を通った人のみがサービスを受けられるのだとか。中には何年も申し込み続けて、ようやく抽選が通った人もいるそうです。
この取り組みを始めた結果、二代目店主の岩田さんは、書店の経営を軌道に乗せることができました。そして、書店自体の経営回復はもちろん、一部の本などは、このサービスで選書されることをきっかけに、再版に至ったりすることもあるそうです。
つまり、この取り組みは書店経営の打開策であると同時に、出版社にとっては、出版不況への対策にも成り得る。この思いをもとに、著者は一万円選書について、その起こりから実際の取り組み、自分の生い立ちや選書でのエピソードなどを交えて、この本で紹介しています。
とは言え、この一万円選書も最初から上手くいっていたわけではなかったそうです。たまたま高校のOB会にて、先輩から「一万円で本を選んでほしい」と言われたことをきっかけに始めてみた一万円選書。
始めたのは2007年で、上記の動画のようにテレビで紹介されたことをきっかけに、ぽつぽつと応募はあったものの、ブレイクする2014年までの応募総数は、五十件ほどだったそうです。
これが、2014年に再度テレビで取り上げられたことを皮切りにバズり、その倍率はこの本の記載によれば7倍ほど。店主の岩田さん一人で対応しているため、多くても月に150人ほどしか対応できないそうです。
人気の理由はネットの力と人間の温かみ
この人気の要因を、著者はスマホの力だと書いています。テレビの話題がネットでバズり、それがまたネットの検索で上位になり、調べる人が増えて、また話題になる。
著者の言う通り、この好循環が功を奏して、一万円選書が人気となったのは間違いないでしょう。
とは言え、その背景には、人間同士のコミュニケーションが希薄になった現代社会、といった要因もあるのではないかと思います。実際、カルテと選書を通してのやり取りについて、岩田さんは「ひとつのコミュニケーションの形」を見て取ります。
カルテを書く時点で、応募者は自身の半生を振り返り、それを見ず知らずの相手に開示する。そのカルテを読みながら、顔も見えない相手のために本を選ぶ。下手なコミュニケーションよりも濃密なやり取りがここでは行われています。
あまりこうした表現は好きではありませんが、人間固有の温もりを感じたくて、人々は一万円選書に応募する。インターネットがあったからこそバズったサービスでありながら、インターネットにはない温もりを求めている、というのは興味深いですね。
読書文化が廃れた今だからこそ
そして、これは著者も書いていることですが、インターネットの広まりと反比例するように、読書について語る友人・知人といった存在が周りにいなくなっていることも、一万円選書がバズった要因ではないかと思っています。
昔であれば、教師や先輩、読書歴の長い友人など、自分より本を読んでいる先達が周りにいたはずです。彼らからお勧めの本を聞いたり、本について話したりする文化があった時代において、本を勧められる機会は求めずとも開かれていました。遠方の書店に頼まずとも、地域密着型の書店が、同じ役割を担っていたのかも知れません。
言うならば、一万円選書は、本を読む人が減り、書店のない自治体が増えた、読書文化が廃れた今だからこそ、逆説的にバズったサービスなのでしょう。
一万円選書をきっかけに、出版業界を元気に
もしかすると、出版文化全盛期であれば流行らなかったかもしれない一万円選書。けれど、これをきっかけに町の書店は元気を取り戻すかもしれない。
岩田さんが、この「看板メニュー」の具体例をこれでもかと本書で書いているのは、それもこれも、全国の書店に一万円選書を真似して欲しいと願っているからです。
他方、岩田さんの一万円選書をきっかけに、増刷を重ねたり、版元を変えて復刊されている本もあるとのこと。「うちが責任を持って売るから!」。知られざる名作を選書に入れようとする試みは、この殺し文句を頼りに、書店だけでなく出版業界の活性化にも繋がっているのです。
そして、著者の岩田さんはこの本にて、書店が生き残るための方法についても持論を展開しています。
今の大型書店に見られるような、誰もが務められる書店員という形式を脱却し、本好きで優秀な人材を活用する。ただ売り上げ順に並べているだけの本屋から、店舗ごとの特色がはっきりした、個性的な本屋へと回帰するわけです。
こうした書店が狙うべきは、普段本を読まない人たち。彼らを本の世界に引き込むことで、本好きを増やしていく。それを担うのは、小さな個人書店。
これが、岩田さんの考える出版業界を活気付ける方法です。
もちろん、夢物語に過ぎないのかも知れません。実際、個人書店はどんどん数を減らしていっています。本を読む層が少ない中で、新しく店を出すことの難しさは相当なものでしょう。
ただ、そんな個人書店が全国に増えていく。そんな未来を想像するのは、ワクワクせざるを得ません。何かの足しになるかは分かりませんが、そんな未来を目指して、町の書店に出くわしたら、これまで通り本を買い続けたいと思います。
おわりに代えて 個人的に選書が苦手な訳
最後に、私が人に本を勧めるのが苦手な理由について書いて、今回のブログは終わりにすることとします。
①本のバリエーションを読めていない
まず思いつくのは、本のバリエーションを読めていないこと。本はそれなりに読んできている一方で、ジャンルやバリエーションという点では、かなり偏りのある自覚があります。
この本でも触れられていますが、岩田さんは、本を読み慣れていない人に向けた一万円選書の中には、詩集や絵本を入れたりしているそうです。
難易度の高くない、読みやすい本。こうした本を読まなくなった結果、本に触れていない人に向けて勧めるストックが私にはありません。子供の頃に読んだ児童書には、確かにお気に入りの作品もありますが、そのバリエーションも多くありません。
松原秀幸、はやみねかおる、ホームズものと言ったミステリ、ウェルズやヴェルヌと言ったSF、ハリポタやダレン・シャン、デルトラ・クエストと言ったファンタジー。
どの作品もお勧めできるのですが、どうにも偏りがありますし、思い出補正も確実にあるので、いまいち補正のない大人が読んでも楽しめるのか分からない節があります。
また、大人になった今はより一層偏りが激しく、数年前に書いた「名刺代わりの小説10選」なるハッシュタグのつぶやきも、このような有様。
#名刺代わりの小説10選
— びねつ (@bine_tsu) December 8, 2020
幼年期の終わり/クラーク
山椒魚戦争/チャペック
ハイ・ライズ/バラード
ファイト・クラブ/パラニューク
タバコ・ロード/コールドウェル
インスマスの影/ラヴクラフト
道化師の蝶/円城塔
すべてがFになる/森博嗣
されど罪人は竜と踊る/浅井ラボ
僕の学校の暗殺部/深見真
ラノベの二作品も取っ付きやすいわけではない気がしますし、翻訳物が多いのも気になるところ。意外とこの世の中、翻訳物に抵抗を持つ人が多いみたいです。
②映像媒体に対して、活字メディアを勧めることの難しさ
そう言う訳で、映画を人に勧めやすいのは、本のバリエーションに比べて、邦画・洋画を問わず、これまでに色々と観ているからだったりします。
最近の映画はあまり詳しくありませんが、子どもの頃から何だかんだ観ているので、相手に合わせて話せるストックはあるわけです。
けれど、映画を人に勧めやすいのは、それだけではありません。映画と言った映像メディアは、単純に勧めやすい。受動的に観れるため、軽い気持ちで人に勧められます。
ちょっとばかし難しく、飽きかねない場面があったとしても、映画であれば勝手に映像は進みますし、普通の映画であれば、ストーリー自体を理解するのは容易いです。
対して、本はそうもいかない。
例えば、先日読んだエーコの『薔薇の名前』は、個人的にマイベストに入ってもおかしくない作品なんですが、冒頭で躓いてしまう人は後を絶たないでしょう。
対して、映画版の『薔薇の名前』であれば、難しさは多少感じつつも、ラストまで観続けることは可能なはずです。
だからこそ、相手に合わせた本を考える必要があり、これが非常に困るわけです。私の勧めた本をきっかけに、本に対して忌避感を持ってしまうのではないか。大げさかもしれませんが、こうした難しさが人に本を勧める際に生じており、本を勧めることへの苦手意識に繋がっていたりします。
他にも理由はあったりするのですが、長くなりそうなので今回はこの辺で。
常日頃から誰かに本を勧めるわけでもなく、職業にしているわけでもないので、勧めるのが下手でも、好きなジャンルばかり読んでいても良い訳ですが、無駄に筆が乗ってしまいました。
▶「一万円選書」でつながる架け橋
▶著者:岩田徹
▶装画:浅生ハミルトン
▶発行所:竹書房
▶発行日:2022年2月18日初版発行


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