たぶん個人的な詩情

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【読書感想】『究極のライフル -ハイパーショット- 』――新型ライフル開発の利権に絡む陰謀と凶器不明の連続殺人を扱ったスリラーアクション小説。

はじめに

気付けば残すところあと僅かとなった2023年、今年一番耳にした楽曲を挙げるなら、私に限って言えばYOASOBIの「アイドル」になるのではないかと思う。朝の情報番組や通勤時の街頭ビジョン、立ち寄った店で流れる有線放送などなど、この曲を耳にする機会が何度もあった。


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日本はもちろん、世界的に見ても素晴らしい快挙を成し遂げたこの楽曲、異例のヒット曲だけあって始めから終わりまで癖になる仕上がりとなっているわけだが、印象に残るフレーズを一つ選ぶなら、やはり「究極のアイドル」に繋がる一連のフレーズとなるだろう。

誰もが目を奪われていく
君は完璧で究極のアイドル

流行に疎い私でも、流石にこの歌詞は頭に残っていて、今日取り扱う本と出会った時はついついこのフレーズが頭を過ぎってしまった。そう、今回感想を書いて行く本のタイトルは、「究極のアイドル」ならぬ『究極のライフル』。新型ライフルの利権を巡って繰り広げられる水面下の抗争と、並行して起こる凶器不明の連続殺人事件を描いたスリラーアクションだ。

あらすじ

ドイツの銃器メーカー・フォン・ヘルツ社が従来の銃器とは一線を画する新型ライフルを開発した。アメリカでの新型ライフル販売を独占したい銃器メーカーの社長は、かつてフォン・ヘルツ社で働いていた経験を持つチャド・ハンターに交渉を依頼する。

交渉材料はアメリカが誇る最高の光学技師・ボールドウィンの新型スコープ。この二つが合わされば鬼に金棒。両者にとって旨味のあるこの商談は、問題なく成立する、はずだった。ミュンヘンに降り立ったハンターとボールドウィンの行く手に立ちはだかる謎の刺客。凶器不明の連続殺人事件。果たして二人は無事交渉を成立させることができるのか。そして事件の結末は――。

感想

なんとなくその安っぽいタイトルに惹かれて手に取ったのだが、これが当たり。お世辞にも傑作の類ではないし、万人受けする面白さがあるわけでもない。ただ、面白いことには面白い。午後のロードショーでたまたま見始めたアクション映画が、思いのほか面白かった時の感覚、と言えば伝わるだろうか。

主人公のチャド・ハンターは、かつて軍や企業で銃器開発に従事していた銃器のスペシャリスト。組織を離れ、現在は個人の兵器コンサルとして働いているが、仕事の雲行きはお世辞にもよくない。そんな彼に、彼の経歴を見込んだ米国大手の銃器製造会社から声がかかる。内容は、フォン・ヘルツ社が開発した新型ライフルのライセンス契約を取って来て欲しいというもの。

交渉材料となるのは、米国が誇る光学技師・ボールドウィンの新型スコープ。ハンターがかつてフォン・ヘルツ社で仕事をした経歴と、最高のスコープを手土産に、商談を成立させようというのだ。ボールドウィンとともにミュンヘンへと飛んだハンターは、図らずも新型ライフルの利権に絡む陰謀に巻き込まれることとなる、というのが大まかなあらすじ。

アメリカとドイツの銃器会社。そして新型ライフルの契約独占を狙うチェコの兵器会社と、ボールドウィンがかつて勤めていた会社に加え、ミュンヘンで連続して起きている凶器不明の連続殺人と、それを追う刑事たちの思惑が幾重にも重なる。

読んでいるこちらが収集が付くのか心配してしまう程に状況は錯綜しており、実際すべてが十全に描き切れているとは思えない。ただ、この次に何が起こるのかと期待させる脚本作りは魅力的で、読み進める際の原動力になっていたのは確かだ。

そして本作の魅力はこれだけではない。訳者もあとがきで触れている通り、主人公を始めとする登場人物たちのキャラクターが良い。特に好きだったのは、破格の新型スコープを生み出した光学技士のボールドウィン。主人公のハンターに対してある種のバディ的なポジションにあり、ともすると暗く味気なくなりそうな本作の雰囲気に明るさをもたらしていると思う。ちなみに、彼のイメージは個人的にジーン・ハックマン

なお、本作で扱われる新型ライフルは小型化に成功したレールガンのことで、その威力と性能は従来のライフルとは一線を画するとされている。現在でも実用化はされていないわけだが、そんなファンタジーの武器を、警察が被害者の傷口から推定していく過程も中々に面白い。

全体的に傑作とは言わないまでも、読み物として面白い作品だったので、個人的には大満足。これだからよく分からない本を手に取ってみるのはやめられない。まあ、故に本が果てしなく積まれていくわけだが……。

おわりに

というわけで、久しぶりのブログ更新となりました。この1ヶ月ほどは仕事の忙しさにやられており、何かをアウトプットする余裕がありませんでしたね。インプットも出来たとは口が裂けても言えず、時間の使い方や疲れの取り方などは色々と考えていきたいなあ、とは思っています。

放置してしまっているサメ感想も進めたいとは思っていますし、書きたい映画や本も溜まってはいるので、徐々にペースを上げていきたいところです。毎回似たようなことを書いている気がするのは秘密。では、今回はこの辺で。


▶究極のライフル  ハイパーショット (HYPERSHOT / 2001) 
▶著者:トレヴァー・スコット
▶翻訳:棚橋志行
▶カバー・イラスト:久保周史
▶カバー・デザイン:岩崎重力+WONDER WORKZ。
▶発行所:扶桑社
▶発行日:2005年8月30日初版発行