たぶん個人的な詩情

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【映画感想】『大蜥蜴の怪』――進撃のドクトカゲ。お粗末な撮影技術と意外と見れるドラマパートが魅力(?)な謎映画。

大蜥蜴の怪(字幕版)

はじめに

小学校低学年の頃、学校の図書室でよく読んでいた漫画のシリーズがありました。その名も「学研まんがひみつシリーズ」。小学生向け学習漫画のシリーズで、恐竜や自動車といったメジャーどころだけでなく、『チューインガムのひみつ』なんていう珍しいタイトルもあったような覚えがあります。

そんな「ひみつシリーズ」の中でも、私が一番読んでいたのが『有毒動物のひみつ』という一冊。立体物らしきサソリとヘビの描かれた表紙が印象的なこの本、図書室で過ごす授業で読むのみならず、何度も借りては貸出カードに名を刻み、一時は私の名前で埋め尽くしてしまったなんてことも。

当時からこの手の生物に興味があった自分にはドンピシャの一冊だったわけですが、突然なんでこんな昔話をし始めたかといえば、今回感想を書いていく映画にドクトカゲが登場したからに他なりません。

ドクトカゲ科ドクトカゲ属。その名の通り毒を持つトカゲの分類で、こちらはメキシコドクトカゲとアメリカドクトカゲの2種類のみで構成されています。

このドクトカゲ、恐ろしい名前に反して中々に可愛らしい外見をしており、とってもキュートなのが特徴。調べていただければ分かる通り、このずんぐりむっくり加減がたまりません。

そして個人的にドクトカゲについて大好きなトリビアは、この毒に対して血清が作られていないということ。作れないというわけではなく、人への被害が極端に少ないため作っていないというのが理由なんだとか。人間の死亡例もほとんどありません。

そんな知識を知ったのは上記の『有毒動物のひみつ』のお陰。『大蜥蜴の怪』に出演するドクトカゲの雄姿を見て、そんな懐かしい知識の数々を思い出してしまいました。

この時代のモンスターパニックによくあるように、本作もまた実際の生物・ドクトカゲの映像を別撮りし、あたかも車より大きな蜥蜴に見えるよう撮影して使っているわけです。……実際にそう見えるかはさておき。

と、前置きが長くなりました。以下B級通り越した珍映画、『大蜥蜴の怪』の感想です。雑にネタバレ書いていくので気になる方はご注意ください。

感想

看板に偽りあり。本作はモンスター映画にあらず

オブラートに包まず、嘘偽りない気持ちを述べれば、この映画はモンスター映画や特撮の技術を期待して見るべき映画ではありません。モンスター映画、特撮、SF。これらのジャンルを観たいのであれば、もっと適した作品がたくさんあるでしょう。

肝心のモンスターである大蜥蜴は別撮りされたドクトカゲ。当時の技術を鑑みても、襲われる人々とのカット割りはテキトーの極み。サイズ感も躍動感も迫力もなく、正直言ってお粗末としか言いようがありません。

ドクトカゲが巨大化した原因についても、ミネラルを多大に含んだ土地故と、それらしい理由が語られていますが、食料のない荒野であのサイズの生物が生きられるとは到底思えません。車が襲われ、乗っていた人が痕跡もなく消えてしまうというのも謎で、血痕や肉片ぐらい残っていてしかるべきでしょう。

青春映画としての魅力。

ここまで批判めいた感想を並べ立ててしまいましたが、ではこの映画に見どころがないのかと言えばそうではありません。本作の魅力は、ネタ的な意味での大蜥蜴の描写を抜きにすれば、主人公を中心とした青春映画としての側面にあると思います。

主人公のチェイスは片田舎に住む自動車整備工。若者たちの中心人物である彼は、父を早くに失い、未亡人の母と足に障害のある妹を一人で養っています。そんな家族思いの彼ではありますが、恋人の保護者からはよくは思われていません。

保安官をはじめ、主人公の理解者はいるものの、町の大人たちからすれば、主人公を中心とした若者たちは不良のように映ってしまっているようです。無軌道な若者と保守的な大人、というのは大げさですが、戦前・戦後の世代差のようなものを感じます。

この辺りのドラマパートの撮り方は個人的に好みで、結構良いんですよね。普通に見れるというか、質感があるというか。トカゲパートがあってないようなオマケレベルなのを見ると、制作陣も怪獣映画ではなくドラマパートを撮りたかったのでは、と思わず勘繰ってしまいます。

まあ、青春映画として観ると良い出来ってわけでもないんですが、撮影が良いのかはたまた役者の演技の賜物か、それらしい雰囲気は確かにあるんですよね。この制作陣とキャストで、音楽を愛する主人公を軸とした上京もの、あるいは郷土愛、みたいな感じの作品は観てみたかったかもしれません。

ちなみに、ちょっとホラー味のあるテーマ曲や作中で使われるジャズの数々、そして謎の魅力を持つ主人公の持ち歌など、音楽方面でも結構面白い映画のように感じました。

おわりに

あっさりとではありますが、今回は謎映画『大蜥蜴の怪』の感想でした。自分はたまたまアマプラにあるのを発見して観てみたんですが、一部の界隈ではちょっと知られた作品のようですね。……もちろんネタとして。

お勧めなどどは口が裂けても言えないものの、もし興味があったり興味が沸いたら見てみても良い、かも知れません。

ちなみにどうでもいいことですが、作中でトカゲにはピンクの縞があると言われていることから、この大蜥蜴はメキシコドクトカゲではなくアメリカドクトカゲが巨大化した生物のようです。

写真で見たことはあるものの、ちょっと実物も見てみたいなあと思ったところで今回はこの辺で。では。


▶大蜥蜴の怪 / THE GIANT GILA MONSTER (1959 / アメリカ)
▶監督:レイ・ケロッグ
▶脚本:ジェイ・シムズ、レイ・ケロッグ
▶製作:ケン・カーティス、B・R・マクレンドン
▶製作総指揮:ゴードン・マクレンドン
▶音楽:ジャック・マーシャル
▶撮影:ウィルフリッド・M・クライン
▶編集:アーロン・ステル
▶出演者
チェイス:ドン・サリヴァン
リザ・リモーヌ
シャグ・フィッシャー
ジェリー・コートライト
ビヴァリー・サーマン
パット・シモンズ
ドン・フラウニ