たぶん個人的な詩情

本や映画の感想、TRPGとか。

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読書

【読書感想】南條範夫『からみ合い』――癌に侵された社長の遺産を巡るサスペンス。四人の隠し子探しを命じられた側近たちの思惑が絡み合い――。

はじめに たまたまKindle unlimitedで南條範夫氏の小説『からみ合い』に出会った。氏の名は知らずとも、漫画『シグルイ』の原作小説『駿河城御前試合』の作者だと言えば合点の行く人も多いのではなかろうか。 シグルイ 1 (チャンピオンREDコミックス) 作者:…

【読書感想】『吸血鬼ハンター"D"』――憎いほどに王道。弱きを助け強気を挫く"D"の物語開幕。

はじめに 映画館で『バンパイアハンターD』を観たことは先日ブログでも触れました。今回は原作を読んでみたので感想です。 bine-tsu.com 映画版は3作目である『吸血鬼ハンター D-妖殺行』を原作としているため、ストーリーはまったくの初見。多くは語らず、…

【読書感想】『ニワトリ 愛を独り占めにした鳥』――今や資本主義経済にもっとも合致した鳥は、いかに人類との関係を深めて来たのか。

はじめに 今年に入って20冊ほど本を読んでいるが、その半数以上がKindle Unlimitedで借りた本だったりする。このサービスの魅力は改めて語ってみたいが、自分にとっての一番の魅力は、普段手に取らない本や見逃していた本、読み逃していた本と出会えること…

【読書感想】『オロスの男』――探検隊司令に成り代わったゼラチン状生物は母星に帰ることを画策し…。『物体X』と人との交流を描いた佳作。

はじめに 野村宏平氏の『ミステリーファンのための古書店ガイド』の冒頭に、古本屋についてこんな言葉が書かれている。 そこで古本屋へとおもむく。最初は近所の古本屋から。そして、神田の古書店街へ。古本屋とは、本を安く売っているだけの店ではないこと…

【読書】2024年下半期10選。新書時々フィクション少なめ。意外にも小説少なめなラインナップ【振り返り】

はじめに 気付けば2月。昨年の振り返りと言うには時間が経ってしまった感もありますが、上半期の十選を選んでおきながら、下半期を選んでいないのはおさまりが悪いので、今回は恥を忍んで昨年の振り返り記事です。 下半期に読んだ本から十冊を選び、それぞ…

【読書感想】佐藤優『獄中記』――一級の知識人は獄中で何を考えたのか。知的活動のカンフル剤として摂取すべき一冊。

はじめに 先日、キンドルアンリミテッドに入っていた『女子刑務所へ入っていました』という漫画を読んだ。こちらは、かつて刑務所に二度入り、現在は主婦として暮らす著者の体験を漫画家の東條さち子氏が描いた漫画。 今後体験する機会はないだろう世界だけ…

【読書感想】『江戸文化から見る 男娼と男色の歴史』――春をひさぐ男娼「陰間」の栄光と衰退。時代劇に描かれなくとも、確かに存在した日本の歴史。

はじめに 目から鱗の落ちる音を聞いたことはないけれど、もしそんな音が聞けたとしたら、きっと小学校時代の社会の授業で私はその音を聞いただろう。 白河の清きに魚も棲みかねて もとの濁りの田沼恋しき 知っての通り、これは松平定信による寛政の改革の厳…

【読書感想】『ウロボロスの古写本』――母を誘拐されたミアは原因である謎の写本の秘密に近づいていき…。中東を舞台に繰り広げられるアクション小説。

はじめに 趣味を尋ねられた時の返答は決まっている。読書と映画感想だ。無趣味の代名詞のような二つだが、実際に趣味なのだから仕方がない。それに、最近知名度が上がってきているとは言え、TRPGを知らない人に、一からゲームについて説明をするのは面倒だ。…

【読書感想】雪富千晶紀『ブルシャーク』――富士山麓にシャーク鳴く。トライアスロン開催が迫る中、巨大ザメが湖に潜むとの情報が・・・。【サメ企画⑥】

はじめに 夏と言えばサメ。サメと言えば夏。サメは冬の季語のようですが、これは恐らく食材としてのサメ由来なのでしょう。やはり、サメが人を襲うフィクションにおいて、海水浴場とサメの組み合わせに勝るものはありません。 それもこれも、すべては『ジョ…

【読書感想】『恐怖の誕生パーティ』――偽りに彩られた夫の過去を知った時、幸せな結婚生活が崩れ始める。ヒトコワ系サスペンスホラー。

はじめに 先日のある日のこと、たまたま寄ったブックオフにて、以前より気になっていた小説を発見しました。しかも100円で。 どこでその存在を知ったのかは覚えていないものの、認知して以来、アマゾンの欲しいものリストに突っ込み、頭の片隅に残っていた本…

【読書感想】『古代オリエントの宗教』――膨張する聖書ストーリーと土着の宗教の対抗。対立軸をもとに俯瞰する古代の宗教概説。

はじめに 本読みの特技の一つに、初めて見る本棚を前にしても、数あるタイトルの中から自分好みのキーワードを見逃さない、というものがあると思っています。 もちろん、人それぞれティンと来る言葉は異なるわけですが、私が目をやってしまうキーワードは「…

【読書】2024年上半期10選。SF、怪奇、推理、哲学。意外とバランスの良いラインナップ【振り返り】

はじめに 気付けば7月が始まり、今年も残すところあと半年。早いと感じる一方で、充実していたかはさておき、妥当だなと感じている自分もいます。 さて、今回はタイトル通り、上半期に読んだ本から十冊を選び、それぞれの本について軽くコメントをしていき…

【読書感想】『フランケンシュタインの子供』――メアリー・シェリーの生み出した「神話」をテーマとしたアンソロジー。死体復活、自動人形、マッドサイエンティストなどなど。

はじめに 少し前になりますが、ブックオフでこちらの二冊の本を買いました。 ふと立ち寄ったブックオフにて『ラヴクラフト恐怖の宇宙史』と『フランケンシュタインの子供』を収穫。普段は100円棚縛りを己に課しているのだが、これは流石に買ってしまった。……

【読書感想】リチャード・レイモン『殺戮の〈野獣館〉』――〈野獣館〉へと挑む男を待ち受ける野獣とは。人前で好きだとは言い辛い悪趣味で最高のホラー。

はじめに 扶桑社ミステリーのホラー、『殺戮の〈野獣館〉』(以下『野獣館』)を読んだ。これは勝手な印象だが、扶桑社のホラーは他の出版社のホラーと比べ、アクの強さに定評があると思っている。ケッチャムしかり『ブッカケゾンビ』(未読)しかり。 悪趣味…

【読書感想】西村京太郎『幻奇島』――独自の信仰が残る孤島、御神島。左遷された医師がそこで目にするものとは――。滅亡が約束された島を巡るサスペンス。

はじめに 名前は知っていても読んだことはない。今後いつ読むのかも分からない。もしかすると死ぬまで読まずに済ませてしまうのかも知れない、そんな作家。本読みであれば誰しもそんな作家はいると思う。私にとって、西村京太郎はそんな作家の一人だった。 …

【TRPG感想】『SW2.5ショートストーリーズ 冒険者ギルドへようこそ!』――舞台はウルシラ、冒険者ギルドをフィーチャーした短編集。

はじめに 実は先日、人生で初めてファンタジー系システムのゲームマスターをしました。これまで回したそれらしいものと言えば、以前ブログで紹介した『サンサーラ・バラッド』ぐらい。こちらは異世界転生をメインに据えた少し変則的なシステムでしたし、なに…

【読書感想】バーナード・ベケット『創世の島』――ポストアポカリプスの世で少女は挑む。口頭試問と、この世界の真実に。

はじめに 語りえぬものについては、沈黙せねばならない。今回取り上げる『創世の島』も、ネタバレをしないようにし過ぎれば、語りえぬものと言っても過言ではないかも知れない。 それと言うのも、本書について語ろうとすれば、ほんの少しの匂わせや書きぶり…

【読書感想】梅棹忠夫『知的生産の技術』――ご存知京大式カード紹介の書。実践的な技術から見えてくる普遍的な方法論は未だ現役。

はじめに 新年一発目の感想記事は、これからの一年を方向付けるものにしたいとの思いから、昨年読んでいた梅棹忠夫氏の『知的生産の技術』にしたいと思います。 こちらの本はこの手の新書の古典中の古典、岩波新書に『知的生産の技術』あり、と言っても過言…

【読書感想】『究極のライフル -ハイパーショット- 』――新型ライフル開発の利権に絡む陰謀と凶器不明の連続殺人を扱ったスリラーアクション小説。

はじめに 気付けば残すところあと僅かとなった2023年、今年一番耳にした楽曲を挙げるなら、私に限って言えばYOASOBIの「アイドル」になるのではないかと思う。朝の情報番組や通勤時の街頭ビジョン、立ち寄った店で流れる有線放送などなど、この曲を耳にする…

【読書感想】『読書脳 新版・読んだら忘れない読書術』――記憶に残っていない読書は意味がない。大切なのはアウトプットとスキマ時間。

はじめに 今週のお題は「最近読んでるもの」ということで、今回は最近読んだ本の中でも、特に感想を書いておきたいと思った本の感想を書いていきたいと思います。感想を書くのは自分としては珍しい選択であるビジネス書から一冊。 まず個人的な話で恐縮なん…

【読書感想】アシモフ『地球は空き地でいっぱい』――地球を舞台に描かれる短編17作。巨匠によるユーモアあふれた珠玉の短編集。

はじめに お恥ずかしい話、好きな本のジャンルをSFと言っておきながら、実はSFにおけるビッグ3こと、ハインライン、アシモフ、クラークの作品をほとんど読んだことがありません。 一番読んだことのあるハインラインでもせいぜい5作品ほど。アシモフに至っ…

【読書感想】『サメ映画大全』――これを読まずしてサメ映画は語れない。歴代サメ映画を網羅した評論本。カタログとしても重宝する素敵な一冊。【サメ企画④】

はじめに 現在当ブログでは「サメ企画」という企画を行っておりまして、こちらは月に一本、サメに関する映画や本などの感想を書いて行こう、というものになっています。 bine-tsu.com 詳しくは上記のブログを見ていただくとして、こちらの企画、実は7月分か…

【読書感想】スティーヴ・オルテン『メガロドン』――マリアナ海溝より蘇るは海洋史上最強の頂点捕食者。サメ小説界の『ジョーズ』(と言えるほどには面白い)。【サメ企画①】

はじめに いよいよ始まってしまったひと月一本感謝の「サメ」感想企画。詳細は下記の記事で確認いただくとして、言ってしまえば月一ペースで一年間、計十二本、サメにまつわる作品の感想を書いて行こうという企画になります。 bine-tsu.com そんな記念すべき…

【読書感想】いしかわゆき『書く習慣』――好きになれば書く習慣は身に付く。書くことの初心を思い出させてくれる一冊。

はじめに このブログを始めてから気付けば四年もの月日が経ちました。あと半月ほどすればめでたく五年。五歳が十歳、十五歳が二十歳、二十五歳が三十歳になってしまう年月と書けばこれが如何に重いものなのか実感できますね。 しかも私にとってはこれが初め…

【読書感想】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』――デジタル社会に取り残された脳髄。人類はスマホに適応できたのか。

はじめに スマホに人類の脳の進化は追いついているのか。本書が全編を通して投げかけている疑問はまさしくこれだ。「スマホ脳」と言うタイトルから、私はてっきりスマホを中心としたデジタル社会の誕生によって、使用者の脳はどのように変化してきたか、そし…

【読書感想】ラング・ルイス『友だち殺し』――犯人は友人グループの中に。ほろ苦い青春小説風味のホワイダニットの佳作。

あらすじ 大学の医学部長秘書の職に就いたケイトは、前任者のガーネットが突如職を辞し大学を後にしたことを知る。若く美人であった人気者のガーネット。彼女が一言もなく姿を消した事実は、友人たちに少なからぬ衝撃を与えていた。駆け落ちしたとの心無い噂…

【読書感想】『五つの星が列なる時』――儀式を思わせる連続殺人の目的とは。錬金術と占星術に基づく犯行とニュートンの過去が錯綜するサスペンスミステリ。

はじめに 本にしても映画にしても、まったく知らない作品と出会った時には取り合えずアマゾンで評価を覗いてしまうことがあります。レビューの星が多ければ腰を据えて挑むことができますし、少なければ肩の力を抜いて流せるわけです。 人によっては星の少な…

【読書感想】『黒いピラミッド』――呪いのアンクと黒い金字塔。呪いを解くべく赴くは始まりの地エジプト。

はじめに いつか「かつて存在した日本ホラー小説大賞」、などとわざわざ書かれてしまう時代が来るのかも知れない。既にこの賞がなくなって4年も経つことにふと思い至り、思わずそんなことを考えてしまった*1。 改めて歴代の受賞者を見てみると、まさに錚々…

【読書感想】『黄金の世界史』――金の移動と権力の移行についての見取り図。受験世界史の理解を深めるのにも役立つ一冊。

はじめに はてなブログの今週のお題は「最近おもしろかった本」とのこと。ちょうど最近読んだ本の感想を書こうと思っていた矢先に今週のお題がこれだったので、今回は便乗して今週のお題兼読書感想にしたいと思います。 感想を書いて行くのは講談社学術文庫…

【読書感想】『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』―― 指摘は納得。ただし本書の教えが活きる場所は教育現場に限られる気も。

はじめに 余程自分に自信があるか、他人に興味がないか、そもそも「正しさ」なんてものを信じていない人でもない限り、本読みと呼ばれる人は一度ならず自分自身の「読み」に不安を感じたことがあると思う。 それは小説しか読まない人であっても例外ではなく…