たぶん個人的な詩情

本や映画の感想、TRPGとか。

たぶん個人的な詩情

MENU

【読書感想】『他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え』――ためになるかはその人次第。酒場で語られるしくじり教訓集。

はじめに

最近は世情のこともあってかどうも外に出ることに慎重で、必要のない限りは外出をしないようになってしまいました。元々アウトドア志向の人間ではないため特段困ってはいないのですが、それでも影響がないわけではありません。

観たいと思った映画はディスク化や配信を待つようになりましたし、最終的に行かないのであればと、展覧会などの情報を集めることもやめてしまいました。数少ない友人からの誘いに対して、積極的に肯くことが出来ないのも心苦しいものがあります。

また本屋に立ち寄る頻度も明らかに減りまして、実際に本を書店で見る楽しみを奪われているのは本読みとしては地味に痛い。もちろん、ネットで新刊の情報は集められますし、購入自体もネットで簡単に済ますことが出来ます。

しかし、通販サイトで本を選ぶのと書店で本を選ぶのとでは役割がまったく違う、というのは同好の士に対しては言うまでもないことでしょう。元から興味のある分野やジャンルであればアンテナを張るのは容易であり、買い逃さないようにすることは難しくありません。

ただ、これでは読む本のジャンルは偏る一方ですし、本との新鮮かつ運命的な出会いは起こり得ません。何より、実際に書店で平積みされた新刊本を眺め、面陳された本の並びから書店側の意図を考える時間は何物にも代えがたいものがあります。

と、こんな前置きをしてしまったのは、今回感想を書いて行く本がたまたま立ち寄った本屋で偶然出会った本だからです。面陳されていた表紙のインパクトに押される形で手に取ったのですが、正直な話、本屋で見かけなければ出会うことはなかったでしょうし、買うこともなかったように思います。

というわけで、「鯨飲」がその由来なのか、堂々たる黄色い鯨とビールのイラスト、白をバックにデカデカとした黒の題字が目を引く、飲み屋のおっちゃんたちによる役に立つのか分からない教訓(?)集の感想です。

感想

本書は月刊誌『裏モノJAPAN』*1の「タイムマシンに乗って若かりし自分に教えてやりたい 人生の真実とは?」及び「長年生きてみてわかった 人生の教訓」という連載企画をまとめた一冊となっています。

飲み屋にいるそこら辺のおっちゃんに、彼らなりの「人生の真実」や「人生の教訓」を語ってもらうというこの企画、掲載紙が掲載紙だけあって語られる「真実」や「教訓」は決してお上品なものではありません。

しかも、集められた教訓は前述の通り、世に広く知られた偉人のものではなく、何を成し遂げたのかもわからない市井の人々(しかも酔っぱらいの)のもの。買って読んだ身で言うのも何ですが、正直言って万人受けする本ではないと思います。

しかし、この本には私たちが耳を傾けるべきはこうした人々の言葉なのかも、と思わせる何かがあるのもまた事実。本書の何が良いかと言えば、それは前述の通り発言者が私たちと同じ一般人であること、そして何より、彼らの語る人生訓の多くがいわゆる失敗から来る負の教訓であって、成功体験からくるものではないということでしょう。

世に蔓延る成功者による金言は、言ってしまえば結論からくる結果論、成功と言う結果から逆算してみた過程の正当化に過ぎません。こうした成功の要因は多岐に渡り基本的に再現性が低いのに対し、失敗の原因は往々にして収束します。

だからこそ、過去の自分への言葉からなる本書の教訓は下手な格言集よりも実践的で役に立つものがあるのかも知れません。扱われている教訓のジャンルは職場や学校でのあれこれや結婚生活の処世術、男女関係のテクニックなどなど。

下世話な内容やしょーもないものも結構ありますがそこはご愛敬。「他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え」とのアドバイスにティンと来たなら、騙されたと思って手に取ってみてはいかがでしょうか。ただし、女性の皆様は本企画の掲載紙が男性向け雑誌であったことをお忘れなきようお願いします。

最後に、本書の中で個人的に気に入った人生訓について一言。面白いものはいくつもありましたが、特に感銘を受けたのは以下の三つ。

「行動する予定と同じ時間帯に決意せよ」

「人前での言い合いは負けた方がポイントが上がる」

「「運が良かっただけ」を口癖にすれば尊敬を集められる」

後ろの二つは助言の内容としては似通ったものがありますね。なんでこれを選んだかと言えば、自分自身、これまでに下手なプライドと負けず嫌いのために失敗したことがあるからでして、今後はこれらの言葉はしっかりと肝に銘じたいと思います。

前者についてはこれだけだと意味が通じないので補足しますと、これはつまり「就業後ジムに通うとの決意を朝にしたところで意味はなく、夜、ジムに通う予定の時間に決意してこそ始めて達成される見込みがある」ということを意味します。

朝の晴れ渡った空を見て、決意を新たに何かしようとした経験は何度もありますが、実行に移せたことなどないに等しい身にとってこれはまさに青天の霹靂。「なるほど、問題は時間だったのか」と非常に納得してしまいました。

愚者は経験から学び賢者は歴史から学ぶ、と言いますが、人の失敗をこの値段で学べるのは地味に美味しいかも知れません。美味しいついでに最後の最後にしょーもなくとも思わず肯いてしまった教訓を一つ。

「高級食材を使ったB級グルメはマズい」

おわりに

最近は先日発売された『Pokémon LEGENDS アルセウス』にうつつを抜かしていたりと新年早々早速記事更新が疎かになっている中、今回は普段とは毛色の違った本の感想記事となりました。

読書関係の記事は今後も引き続き書いて行きたいと思うと同時に、どうもブログが本の感想に偏っているとの自覚もありまして、その辺りはこれからの課題ですね。この頃は映画なんかの感想も書けていませんし、書く書く詐欺になっているTRPG関連の記事もどうにか形にしていきたいと思っています。

ちなみに、ある程度遊び尽くしたら『アルセウス』の感想も今後書いてみる予定ですがいつになるかの予定は未定。気付けば新年あけてから一月経っていることに背筋を凍らせつつ今回はこの辺で。ではでは。

▶他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え
▶作者:裏モノJAPAN編集部
▶デザイン:鈴木恵(細工房)
▶発行所:鉄人社
▶発行日:2021年12月14日

*1:風俗や出会い系での体験ルポなどをメインに扱っている男性向け雑誌。