はじめに
新年一発目の感想記事は、これからの一年を方向付けるものにしたいとの思いから、昨年読んでいた梅棹忠夫氏の『知的生産の技術』にしたいと思います。
こちらの本はこの手の新書の古典中の古典、岩波新書に『知的生産の技術』あり、と言っても過言ではない一冊でしょう。
Kindle Unlimitedに入っているのを見かけてから幾星霜、年末試しに読み始めて見たら流石に面白く、思わず一気に読んでしまいました。
今回は本書についての私の感想を書いて行くと共に、自分のための整理も兼ねて記事を書いて行きたいと思います。
感想
本書における著者の目論見は、著者が言うところの「知的生産」を行う上で、最低限抑えておくべき技術を広めること。あるいは、知的生産の技術についての提言となることを目指して書かれています。なおここで言う知的生産とは「頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら――情報――を、ひとにわかる形で提出すること」*1を指します。
それは学問に限らず、報道や出版、教育、設計、経営、事務、などなど。この手の「情報産業」が日に日に増える中、知的生産の技術の需要は出版当時に比べてより増えていることだろうと思います。
京大式カード
そしてそんな知的生産を支える技術として著者が真っ先に紹介するのが、あの有名な京大式カードです。京大式カードとは、同一規格のカードに情報をまとめる、いわゆる情報カードの一種。これは著者曰く「発見のカード」であり、生活の中で見つけた発見を蓄積しておくための方法となります。このカードに情報をまとめておき、後の知的生産に繋げていくというわけです。
ちなみに、京大式カードの規格はB6版。大きめのサイズにすることで、覚え書きではなくしっかりとした文章を書くことができるようになっています。また、カードをくる必要があることから、ペラペラの紙ではなく少し厚手であることが推奨されています。
その他、罫線を広めにしておくこともこだわりの一つで、著者によれば、これは見やすさを求めてとのこと。これは確かにその通りで、勉強ノートなどを見返す時に気力がなくなる原因の一つは、罫線の狭さのために小さくびっちりと書き込まれた文字にあるように思います。
ノートとしてのカード。既存のノートでは駄目な理由
では、著者はなぜこのようなカードに情報を記録するのでしょうか。まず著者によればこのカードはノートの一種に他ならないと言います。逆に言えば、ルーズリーフはページの取り外しや追加、組み換えが自由に出来るという点で、一種のカードでもあるということです。
この順序の入れ替え、ページの追加が出来ないと言う点で、綴じられたノートは書いた内容を後から利用するのに適してはいません。確かに、学生時代ノートを使っていてその手の悩みに悩まされた経験は少なからずあることでしょう。
創造の装置としてのカード。組み換え、並べ替え
この書いた情報を好きに組み替えて操作できると言う点を評価し、梅棹氏は情報カードを使用していると言います。記録した知識と知識を組み換え、並べ替えてみる。そうすることで、一見関係のないカードから思いがけない発見が生まれてくるわけです。
まさしくこれこそが京大式カードが知的生産の技術たる所以だと言えるでしょう。情報を記録しておくことは知識の蓄積作業ではなく、あくまで情報を活用して知的生産を行うための手段である。著者が、カードは蓄積の装置と言うより創造の装置だと言うのももっともです。
では、著者がなぜ既存のルーズリーフ式のノートを使わないのかと言えば、バインダーのリングが嵩張る点や、ノートが千切れやすい点などを理由として挙げています。個人的には、ページが捲り難いというのもルーズリーフの使い勝手が悪い点だと思っています。ページを捲る際に引っかかるのは地味にストレスです。
京大式カードを使うコツ
なお、このカードを書く・使う際のコツとして、梅棹氏は下記のような項目を挙げています。詳しい内容は、ぜひ本を手に取って確認してみて下さい。
- できる限りその場で文章にする
- 見出しを付ける
- 一枚一項目
- カードはメモではない。完全な文章で書く
- 分類法にこだわらない
- 繰り返しくることが大切
ちなみに、カードに発見を書いて行く目的は、思いついた内容を忘れてしまっても良いようにするためとのこと。何かを覚えておかなければならない、ということに煩わされることをなくし、活用しやすい形にすることがカードで情報をまとめておくことの利点の一つというわけです。
実際に買ってしまった私
この本を読みテンションが上がってしまった私は、思い立ったが吉日と、電車の車内で即座に下記の商品を買ってしまいました。
梅棹氏は上記のカード法は習慣化することが大事だとして、思い切ってカードを一万枚発注して後に引けない状況を作ることを提案していますが、流石にそれは財政的にもと思い、買ったのは3セット。計300枚分です。
まだ活用しているとは言えないものの、思いついたことを書いて行く作業はちょっと楽しいですし、ワクワク感もあります。興味のある方はこの機会に思い切って手に取ってみてはいかがでしょうか。
新聞の切り抜き
著者はこの他、新聞記事の整理にも一家言持っており、本書でもその整理法を披露してくれています。その方法はA4版のハトロン紙を台紙として記事を一枚ずつ貼るというもの。そして作成した用紙は下記のようなファイルに挟み整理するのだと言います。
耳の部分に項目を書いて収納し、本棚に立ててしまう。この方法の便利な点として、著者は新聞以外の資料も同様に収納できることだとしています。またこの方法の場合、資料を自由に追加し分類し直せるわけです。
ちなみに著者は、常に売られ続けているスクラップブックというものは、「永遠に初心者むきの材料として売れているのかもしれない」としています。
確かに、紙の資料の整理はちょっと上手くいっていないので、これを機に初めてみようかなと思い始めています。近年であればデータ化と言った方法も取れるかとは思いますが、きっと死蔵してしまうのがオチなので。
カード化=情報の規格化
カード化や上記の新聞整理に共通するのは、これらが情報の規格化・単位化だということです。種々雑多な紙が氾濫することを防ぎ、整理を付ける。規格化を著者が行う目的は、身辺から雑多な要素を追放して知的作業をやりやすくすることにあります。
ちなみに、こうした資料の規格化の方法を著者は、学生時代に可児藤吉さんという先輩に教えられたと言います。私は存じ上げませんでしたが、彼は日本の昆虫生態学の建設者の一人とのこと。その可児さんが戦地から帰ってこなかったことが本書ではさらりと触れられており、書かれ方も含めてとても印象に残っています。
その他の内容
これら以外にも、著者は本書に多くの知的生産の技術について書いています。例えば置き場所について。例えば仕事場と資料庫などを分ける理由について。知的生産のための読書法についても書かれているため、この辺に興味がある方は是非本書を手に取ってみて下さい。
手紙の書き方や整理法、ワープロの活用方法などについては、現代では直接役に立たなくなってきているかもしれませんが、その根底にある「知的生産の技術」の要諦からは未だ得るものがあると私は思います。
こざね法
ちなみにその他の内容の中でも特に気になったものについては書いておきたいと思います。その名も「こざね法」。これは著者が紹介する、まとまりを持った考えや文章を構築するための方法です。やり方は、余った紙をB8版の大きさに裁断しておく。そして作業を始める際に、そこに主題に関わる単語や短い文章を書いて行くそうです。
素材を集め終えたら、論理的に繋がりそうなものを並べてホチキスで留める。こうすることで、頭の中の動きを外に出して形にすることが出来ます。なお、この紙切れが列なる様が鎧を構成する小さな板(=こざね)に似ていることから、こざね法の名前を付けたとのことです。
では、どんな知的生産をしていくか
ここまで知的生産の技術について書いてきたわけですが、別に私は著者のような学者ではないですし、直接的に活かせるような仕事に就いているわけでもありません。では、ここで学んだ知的生産の技術を何に使っていくのか。
これは先日書いた新年の抱負記事に繋がるんですが、実は私、今年中に小説の新人賞に応募するという目標を立てているんですよね。まだ大きく動けてはいないものの、小説のアイデアを集めたり、構成をまとめたりするのにもこれらの技術は役立ちそうだなと感じています。
また、これらの技術はTRPGのシナリオを作ったりする際のアイデア出しにも役立つのかなとも思っています。TRPGというのは、いわゆるアナログゲームの一つで、現在はコンピュータで処理しているRPGをアナログで遊ぶ、というゲームのこと。
詳しいことは調べていただくとして、この遊びをするには自分でゲームのストーリーに当たるシナリオというのを考える必要があるんですよね。ゴブリンの脅威にさらされている村を救う、とか。
もちろんこれはシンプル過ぎる例でして、実際はこうしたシナリオを作るのは意外と大変な作業だったりします。なので、その辺りを補助する手段としてこの本に書かれた技術は色々と役に立ちそうです。
おわりに
というわけで、今回は梅棹忠夫氏の『知的生産の技術』について書いてみました。これを読んで「やろう」と思い立った気持ちを忘れず、色々と取り組んで行きたいと思っています。何としても、一年後、カードの収納箱に埃が被っているみたいなことは避けたいですね。
著者も大事なのはカードを書く習慣を身に付けることだと書いているので、兎に角やり始めるところからかなと思っています。この手の方法論を読むのが好きな分、その手の技術だけが溜まっていくのは避けていきたいところ。多分ですが、これらの技術に大きな差はなく、やり続けることが大事なんですよね。
では、何だか当たり前のことを書き連ねたところで今回はこの辺で。