はじめに
クトゥルフ神話TRPGのサプリメントに、『マレウス・モンストロルム』というデータブックが存在する。この本は古今東西のクトゥルフ神話作品のクリーチャーデータが掲載されたサプリメントで、少々値は張るものの、基本ルールブックの神話生物を使い果たしたキーパー達には御用達の一冊となっている。
ラヴクラフトやダーレス、ラムレイなどの有名作家陣はもちろん、日本で邦訳されていない小説からも多数掲載されており、少数ではあるものの、ゲームオリジナルの生物・神格なども載っていたりする。帯を信じるなら、その数なんと380種。
面白いのは、親和性のある作品であれば直接クトゥルフ神話と関係がなくともデータ化してクトゥルフ神話の土俵に上げてしまっていること。『宇宙戦争』の火星人などと同じく、ジョン・ウィンダムの創り出した殺人植物・トリフィドも、そんな番外的な神話生物の一つだ。
トリフィドを原作にした映像作品
元々『トリフィドの日』(自分が読んでいたのは、創元から出ていた旧訳の『トリフィド時代』)は読んでいたので、『マレウス』にこの植物が載っているのを知った時は、いつかこれをネタにしたシナリオを作りたいと思っていた。
結局、シナリオは形にならず絶賛放置中なのだが、可能な限りデータを揃えて創作に臨みたい自分としては、取り合えず関連作品にも触っておこうと思い、映像作品のDVDを買っていたりした(小説を元ネタとした筋肉少女帯の曲も何度も聞いた)。
買っていたのは、あのロメロにも影響を与えたとされる『人類SOS!』と、BBCが80年代にドラマ化した『デイ・オブ・ザ・トリフィド』の二作品(同じくBBCにてドラマ化された『ラストデイズ・オブ・ザ・ワールド』は値が張るので未購入)。
実はこちらのディスク、シナリオ同様長らく放置していたのだけど、この前片付けをしていたら偶然見つけたため、いい機会なので見てみることにした(まず観てみたのは『人類SOS!』の方)。ちなみに、自分が積んでいる間に日本語吹き替えが収録されたDVDも発売されていたらしい。
何だか損した気もするが、こればかりは仕方がないと思いつつ以下、感想。
特にネタバレらしいネタバレは書いていないが、気になる方はご注意を。
感想
古き良きSF、というのが見終わった率直な感想。時代を感じる部分はもちろんあるものの、今見ても普通に面白かった。1時間半という尺に抑えるため、原作の要素はオミットされたり改変されたりしているが、その分シンプルにまとまっている。
また、映画だからこその演出が見られるのも本作の魅力の一つだろう。60年代にウィンダムの原作を映画化するとしたら、これが最適解なのではないかと思ってしまうほどの出来栄えだ(女性が叫ぶだけの装置に甘んじていたりするのはちょっと気になるが)。
原作との相違点
事細かに原作との相違をあげつらうつもりはないが、まずトリフィドの設定が大きく作り直されている点は見逃せない。小説では人類により栽培されていたトリフィドが、この映画では宇宙から飛来した地球外植物となっている。
また原作ではラストに匂わされる流星の原因についても、人類という枠組みと救いの要素が強い映画からすれば無粋なのだろうし、地球に元々ある「アレ」が弱点となり、宇宙からの侵略者が退治されると言うのも、ウェルズの『宇宙戦争』をより踏襲した面白い改変だ。
映画ならではの演出
他方、映画ならではの演出で言えば、ラジオによってリアルタイムの世界の様子が描かれるのはとても上手いし面白いと思う。映画では、本来知る由もない人々の死に行く様、つまりは世界の終わり行く様が自然に、かつ淡々と描かれる。
また、日常の延長線上にあるこれらの絶望描写からは、私たちが同じ目に会った時のことを嫌でも想像してしまう。私自身のことはもちろん、家族がこのような目に会った時にどうすればいいのか、と。我が子を思う親の気持ち、老いた親を思う子の気持ちを想像すると心が痛む。
そして、この映画の「主役」であるトリフィドの造形や生々しい動きも、映像作品ならではの見所の一つ。今の目で見ると古さはもちろんあるが、デザインは今見ても十分不気味だし、魅力は十二分にあると言える。映像関連で言えば、灯台の階段で溶け出すトリフィドのシーンも視覚的にとても面白い。
後続作品への影響
ちなみに、ジョージ・A・ロメロはこの映画から影響を受けて『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を撮ったとのことだが、本作から受けた影響は素人目に見ても大きいことがよく分かる。特にトリフィドが建物に侵入する際の様子は、籠城した家を襲う『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のラストの攻防そのまんまだろう。
だがしかし、よりゾンビを思い起こしたのは、視力を失い盲となった人々がロンドンをさまよい歩く様。彼らは両の手を水平に前へと伸ばし、街の中をさまよい歩く。彼らにとっては障害物を察知するための歩き方なわけだが、現代の我々からすれば、これはゾンビ歩きに他ならない。
その他、映画の冒頭で主人公が一人院内をさまようシーンからは、『マウスオブ・マッドネス』や『バイオハザード』で見られる、荒れ果てた病院内を主人公が一人歩くカットが思い浮かんだのだが、有識者的にはどうなのだろうか。
おわりに
というわけで、今回は『トリフィドの日』の映像化作品、『人類SOS!』の感想を書いてみた。実はここのところ映画を見れていなかったため、久しぶりの映画鑑賞となったのだが、溜まっていた映画欲を十分に満たしてくれる作品だったと言って良い。
これを機に、実家に取り残されていた『デイ・オブ・ザ・トリフィド』のDVDも持って帰ってきたため、面白ければ比較も兼ねてそちらの感想も書いてみたい。ここまで来れば『ラストデイズ・オブ・ザ・ワールド』も見てみたいが、こちらについては未だに高いのでちょっと悩ましいところ。
それにしても、BBCが『トリフィドの日』を二回もドラマ化しているのはちょっと面白い。映画の方もイギリス制作だし、やはり自国の作家、しかも古典的名作の生みの親とあって、ウィンダムの人気や知名度もイギリスでは高いのだろうか、とちょっと気になってしまう。
もしその辺に詳しい方がいれば、コメントなどで教えてくれると嬉しいです。
ではでは。
▶人類SOS! / The Day of the Triffids (1962 / イギリス)
▶監督:スティーヴ・セクリー 、フレディ・フランシス
▶脚本:フィリップ・ヨーダン
▶原作:ジョン・ウィンダム
▶製作:ジョージ・ピッチャー
▶製作総指揮:フィリップ・ヨーダン
▶音楽:ロン・グッドウィン
▶撮影:テッド・ムーア
▶編集:スペンサー・リーヴ
▶出演者
ビル・メイスン:ハワード・キール
トム・グッドウィン:キーロン・ムーア
カレン・グッドウィン:ジャネット・スコット
クリスティーン・デュラント:ニコール・モーレイ
スーザン:ジャニナ・フェイ