たぶん個人的な詩情

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【読書感想】アシモフ『地球は空き地でいっぱい』――地球を舞台に描かれる短編17作。巨匠によるユーモアあふれた珠玉の短編集。

はじめに

お恥ずかしい話、好きな本のジャンルをSFと言っておきながら、実はSFにおけるビッグ3こと、ハインラインアシモフ、クラークの作品をほとんど読んだことがありません。

一番読んだことのあるハインラインでもせいぜい5作品ほど。アシモフに至っては『われはロボット』のみと、ちょっと言うのは憚られる読書暦ではあるんですが、なら今から読み始めればいいじゃん!とお気楽能天気に今後は行こうと思います。

ちなみに、父はアシモフの『銀河帝国の興亡』が大好きで、『鋼鉄都市』や『はだかの太陽』の話を子どもの頃から何度も聞かされていたんですが、結局読みはしませんでした。思い返せば、映画なんかは父から影響を大きく受けて育ちはしたものの、読書についてはほとんど影響を受けた覚えがありません。

それは、読書については子どもの頃から自分なりに好きな作品や傾向があり、それが父の趣味と真逆だったことが大きかったのかも知れません。子どもの頃の読書傾向は、ハリポタの影響でファンタジー小説青い鳥文庫のパスワードシリーズや、はやみねかおる作品の影響で本格推理に偏っていました。

そもそもの話、子供の頃って親に勧められたものを逆に触れなかったりしますよね。そんなこともあってか、父の好きな松本清張も大人になってから初めて読みました。

と、そんな自分語りはこのぐらいにして、以下は本の感想です。

感想

今回手に取ったのはアシモフの短編集から『地球は空地でいっぱい』。タイトルが面白いなあと思い、軽い気持ちで読んでみたんですが、これがまた面白かったです。アシモフの「ア」の字も知らない私が言うのもなんですが、ユーモアにあふれたアシモフらしい短編集なのでは、と思っています。

収録されているのは全17作。中には創作を題材とした詩があったり、短編も舞台が未来だったり現代だったりと様々ですが、共通しているのは、どの作品も地球を舞台にしたユーモアあふれる作品であるということ。

個人的に面白かったのは「死せる過去」「高価なエラー」「住宅難」「お気に召すことうけあい」「笑えぬ話」の5作。この作品集、同じユーモアを扱っていても、オチが明るかったり暗かったりとあるわけですが、私としてはブラックな笑いを扱った作品の方が好きでしたね。

流石に全部の感想を書いて行くと長くなるので、今回はこの5作品に絞って感想を書いて行こうと思います。

死せる過去

舞台は近未来。カルタゴを専門とする古代史の歴史家が、政府の管理する過去視を可能とする装置、クロノスコピイの使用を申請するも、一向に許可が下りない。どうしても過去を見たい彼は、偶然知り合った物理学者にクロノスコピイの政策を依頼し……。

ユーモアに至る謎解き?部分が面白く、推理作家でもあるアシモフらしい伏線も張られていて、一粒で二度美味しい作品。歴史学者カルタゴへの偏執が徐々に浮き彫りになっていく他、始めは気乗りしていなかった物理学者がクロノスコピイの謎に憑りつかれていく様子も面白く、何より真相を暴くはずの側が、実は仕出かしてしまっていた、というオチも秀逸。

高価なエラー

アイダホ州で働く保安官と副保安官。ある夜、彼らのもとに奇妙な二人組が訪れる。所得税の申告が迫る保安官は、いつにも増して気が短い。要領を得ない来客の要望に、彼のイライラは募り、保安官は彼らを追い返してしまう。それが地球の未来を変えてしまうとも知らずに……。

短い短編だけあって、多くを語るとネタバレになってしまうんですが、この手のネタはかなり好きですね。シンプルで面白い。状況は違えど、星新一のあるショート・ショートを思い浮かべました。核実験か何かで地球の命運が変わってしまうやつ。

住宅難

人類の富裕層が現在の地球に居住することやめ、一家に一つの可能世界(≒パラレルワールド)の地球に住むようになった時代。会計士として働くリンブロウとその家族が住む地球では、ある日、重機を動かすようなな音がするようになった。彼らの家族しか生物は存在しないはずの地球であるにも関わらず。報告を受けた住宅供給局の職員は、調査に赴くが……。

まず、一家に一台ならぬ、一家に一個の地球が持てる時代というのはちょっと夢がありますよね。可能性的に危険が存在しない世界に家を持つ。実際に自分が欲しいかはさておき。後半の盛り上がりやオチとかが「死せる過去」に似ている気がするんですが、この手の作品が好きなのかも知れません。あと、短編集のタイトルはこの短編から来ているんですかね。あるいは、本短編集が地球を舞台とした作品のみを扱っていることから、地球の空き地はまだまだある、といった意味なのかも知れません。

お気に召すことうけあい

USロボット&機械人間株式会社に勤めるラリイを夫に持つクレア・ベルモントは、ある実験への協力を夫から頼まれる。それは、新開発の家事用執事ロボット・トニイと生活を共にすること。当初はロボットへの嫌悪感を抱いていたクレアだったが、見た目もハンサム、行動もスマートなトニイとの生活は、彼女の気持ちを徐々に変えていき……。

劣等感を抱く人妻と、ハンサム執事ロボット、三週間。何も起きないはずがなく。クレアのトニイに対する感情の変化と、キャルヴィン博士によるオチの台詞が最高。単純に面白いだけでなく、スーザン・キャルヴィン博士が登場する短編なので、その点でも読む価値はあるかもしれませんね。

笑えぬ話

あらゆる問題に対する解答を導き出すスーパーコンピュータ、マルティヴァック。このスパコンから解答を導き出すには、正しい問いが必要不可欠だった。この機械に意味のある質問を与えられる存在、グランド・マスターの一人であるマイヤホーフは、現在ある問いに憑りつかれていた。それは「ジョークはいったいどこからきたのか?」というもので……。

ユーモアを扱った短編集でユーモアの由来を尋ねるというのも面白いですし、アシモフが用意した答えも最高。結末もSFらしい広がりがあり、思えばこの短編集の中で一番好きな作品かも知れません。

おわりに

というわけで、アシモフの『地球は空地でいっぱい』の感想でした。流石にアシモフだけあって面白く、これは手に取って正解でしたね。現状、短編集しか読んだことがないため、今度は是非とも長編に挑戦してみたいところ。ちなみに、作家の草上仁さんは解説でこのように書かれています。

アシモフの愛読者は幸運だ。読もうと思いさえすれば(そして、英語を知っていれば、さらにいいが)何百という著作が、あなたを待っている(p.398)。

今となっては英語だけでなく古書を漁る根気も必要になってはいますが、読もうと思えばそれこそたくさんの作品があるのは紛れもない事実。それに最近は『銀河帝国の興亡』の新訳も出ているようですし、今後は復刊とかも期待したいところです。

では、今回はこの辺で。今月からは、何とかブログの更新ペースを速めていきたいと思っています(思うだけなら無料)。


▶地球は空き地でいっぱい (Earth Is Room Enough /1957)
▶作者:アイザック・アシモフ
▶訳者:小尾夫佐
▶カバー:木島俊
▶発行所:早川書房
▶発行日:1988年9月30日発行