秘境冒険小説が好きです。外連味たっぷりの言い回しや設定、言動にストーリー、そして未知の世界へと分け入っていくワクワク感……。アフリカは未だ暗黒大陸で、地球は空洞、衛星写真なんてものはなく、世界は未だ未知のヴェールに包まれています。
そんなジャンルの先駆けとして名高い『ソロモン王の洞窟』をようやっと読むことができたので以下感想です。
ソロモン王の時代から、暗黒大陸アフリカの奥地に眠り続けるという莫大な財宝を求めてカーティス卿とアラン・クォーターメンの一行は、一枚の地図をたよりにして出発した。砂漠の焦熱地獄を乗り越えてようやくソロモン街道にたどり着いた一行を待っていたのは……。雄渾な筆致と奔放な想像力で描く不滅の秘境大冒険小説!(東京創元社公式HPより引用)
本作の内容は至ってシンプル。舞台はアフリカの奥地、ストーリーは勧善懲悪、物語は適度なピンチと活劇で彩られ、最後の最後、主人公たちは嫌味にならない程度の成功を収める。勇者の役割が語り手のアラン・クォーターメンではなく、行動を共にするヘンリー・カーティス卿に任せられている点は珍しい気もしますが、この時点で秘境冒険というジャンルは一つの完成を見ていたと言えるでしょう。
まさに原点にして頂点。後続の作品への影響は計り知れず、全体を通して無駄がありません。シンプルイズベストとはまさにこのこと、展開に次ぐ展開で読者を飽きさせず、畳み掛けるように話が進んでいく。
こうした作品の特徴は、かのヘンリー・ミラーが「途中で休んで考えることをしない」作家だと評し、初版の序文に書かれた「つねに空想がペンに先行する」「立ちどまって一つの場面を深く掘り下げることをせず、さっさとつぎの場面へ移ってしまう」*1というハガード評の正しさを表しています。これらの要素、人によっては深みに欠け単調とも取れるのでしょうが、このスピード感こそがハガードの魅力なのではないかと。
またメインキャラクターの三人が面白いのも本作の魅力の一つです。古代の英雄以上に英雄らしいヘンリー卿、何だかんだ言いつつロマンチストなクォーターメンはもちろんのこと、終始笑いを提供してくれる元海軍士官のジョン・グッド大佐がいいキャラしています。
片眼鏡と入れ歯、そして白い脚に髭の剃り残し……。大佐の有するこれらを武器に、クォーターメンが口から出まかせで原住民に取り入るシーンは本作一番の笑いどころ。その後もこの美しい白い脚が原住民に重宝がられる度に思わず笑ってしまいました。
そのほか、冒険小説の醍醐味である食事シーンもしっかりと完備。干し肉といった保存食はもちろん、本作にはアフリカならではの食材、キリンの骨髄を食すシーンがあったりします。主人公曰く象の心臓に次いで美味しいのだとか。そんな食事シーンの中でも特に印象に残っているのは、命からがら砂漠を越え、食料のない中やっとこさ撃ち殺した羚羊を食べるシーン。火をおこす手段が尽きているため、仕方なく雪で冷やした生肉を食べる。これがとても美味しそうなんですよね。生肉が美味しそうに見える病、あると思います。
さて、結構くどくど書いてきましたが、面白い小説だった、というのが端的な感想です。スティーヴンソンの『宝島』に触発され1885年に刊行された『ソロモン王の洞窟』。まさかそれほど歴史のある作品だとは思っていませんでしたが、あちらに勝るとも劣らない古典的名作だと言えるでしょう。
思えばハガードの片鱗に初めて触れたのは十年以上前、『ドラキュラ』や『ジキル博士とハイド氏』、『トム・ソーヤーの冒険』といった作品の登場人物のクロスオーバーを描いた映画『リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い』を観た時のことでした。ショーン・コネリー演じる主人公こそ、何を隠そう本作の主人公でもあるアラン・クォーターメンなのですが、子どもの時分にはよくわからなかった覚えがあります。
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十年以上が経過し、あれから何か成長できたのかはよく分かりませんが、この元ネタが分かるようになり、本作を読めたというだけでも一つの成長……だと思いたい。
そんなこんなで今回はこの辺で。では。
*1:訳者解説