たぶん個人的な詩情

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映画:『トライアングル』

無料だからかなんなのか、アマプラの会員特典は見るのが後回しになりがちで、視聴期限ギリギリになってからようやく見始めることもしばしば。

そのうえ「見放題が終了する映画」と言われた途端に見たくなってしまうがために、期限が先の作品を後回しにし、そうした期限切れ間近の作品を漁ってしまう。

そんなループから抜け出せなくなりがちな日々ですが、今回感想を書いていくのはそんな生半可なループではないループもの、たまたま期限が切れそうな作品から見つけてきた掘り出し物の一作です。

友人に誘われ、ヨットセーリングに行くジェス。しかし、沖に出た途端、嵐に襲われヨットもろとも大海原へ投げ出されてしまう…命からがら助かった5人の前に、突然豪華客船が現れる。船内を調べてみると、たった今まで人がいた形跡はあるものの、なぜかその姿は全く見えなかった。手分けして探索していると、突然覆面をした人物が現れ、抵抗する間もなく一人、また一人と命を奪われていく…。
ただ一人生き残り、甲板に逃げ出したジェスが見たものは、転覆したヨットから再びこの客船に向かって助けを求める自分たちの姿だった。(配給会社公式サイトより引用)

俗にいうループものの本作、一般的なループものとの差異を語れるほどこの手のジャンルに精通してはいませんが、予告の雰囲気からもわかる通り、ホラーやスリラー色の強い作品に仕上がっています。

それを示すかのように、序盤からそうした雰囲気作りが随所に見られ、音楽やキャストの演技、登場人物の意味深な発言など、あらゆる要素を用いて観客の不安を煽りに煽ります。中でもカメラワークが巧みで、これはサスペンス的な手法がよく分かっている人のそれでしょう。画面における空隙、顔のアップによる視界の限定、鏡の効果的な利用などなど、挙げていけば切りがありませんが、特徴的なものはなくとも、こうした基本を抑えた映像は安定感があります。特に船の中を散策する一連のシークエンスはストーリー上の不安も相まって良い具合の宙吊り加減です。

伝統的な幽霊船というモチーフと、流行り(?)のループものを組み合わせ、見事に現代的な作品へと仕上げた本作、CGのはめ込みなどは低予算映画のそれですが、そうした部分が気にならないほどによく出来た映画だと思います。傑作、名作とは言わないまでも、興味があるなら見て損はないはず。

書き忘れていましたが、主演を務めるメリッサ・ジョージが可愛らしく、見ていて飽きないというのも本作のポイントの一つかも知れません。子どもを助けるためにループから抜け出そうとするシングルマザーを見事に熱演しています。

以下、作品の結末に触れつつ軽く感想を。当然ながらネタバレあるのでご注意を。

トライアングル(字幕版)

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トライアングル [DVD]

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▶2009年/イギリス+オーストラリア

▶監督・脚本:クリストファー・スミス

▶撮影:ロバート・ハンフリーズ

▶編集:スチュアート・ガザード

▶キャスト

メリッサ・ジョージ:ジェス
マイケル・ドーマン:グレッグ
レイチェル・カーパニ:サリー
ヘンリー・ニクソン:ダウニー
エマ・ラング:ヘザー
リアム・ヘムズワース:ヴィクター
ジョシュア・マコルヴァー:トミー
ジャック・テイラー:ジャック

まさか始めからループが始まっていたとは「読めなかった、このリハクの目をもってしても!!」というのが率直な感想。ループものを見慣れた人や勘のいい人なら読めるのかもしれませんが、私なんぞはまんまと騙されてしまいました。

船から抜け出し自宅へと戻ったジェスが目にする在りし日の自分。冒頭、子供へと辛く当たっていたシーンがカットされていたことで、効果的にジェス自身のショックと観客の驚きがシンクロし、我が子を抱きしめる冒頭へと綺麗に繋がります。

ここで本作の題名が自宅・ヨット・客船を結ぶ三角形、言わばバミューダ・トライアングルのような閉塞的な三角形を指していることがわかるわけです。

その後、未だジェスがループの中にいることを裏付ける海鳥の死骸の山は、予想出来ても気味の悪いシーンで、それに追い詰められた彼女は、案の定事故を起こす。次に何が起こるのかと固唾を飲んで見守っていると、自らと息子を前に立ち尽くす傍観者としてのジェスが映され、ループの起点が朧げに示されます。

そして彼女は息子の死をなかったことにするため、再びヨットへと、豪華客船へと自ら足を運ぶ。それが客船で暗示されたシーシュポスの運命と同様、苦行を永遠に繰り返すことになるとしても。「戻ってくるだろ?」との意味深長なタクシードライバーの言葉に返される「約束する」という返答は、彼女からすればループからの脱出を意図した力強いものなのかも知れませんが、見ている側からするとそれは抜け出せないループを予感させる空しいものに過ぎません。 

個人的に満足のいく映画でしたが、中でも印象的だったのは、予告でもちらっと映っている幾体ものサリーが積み重なっているところ。不気味でシュールながら、どこか美しさすら感じてしまうこのシーンは、固有性への冒涜とも取れる残酷な場面です。これは本作、引いてはループものの根幹を直視させ、見るものを揺さぶる象徴的なシーンでしょう。

本作への批判として、ループものにありがちな「分かってるなら○○しておけよ!」という批判をすることは簡単ですが、そうした批判に対しては、本作がそうした問題の解決を理知的に図るSFといったジャンルではなく、あくまでホラーというジャンルであることを考える必要があるのではないかと頼りないフォローをしたところで、今回はこの辺で。