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【読書】『ハラサキ』――生まれ故郷へ失われた記憶を求めて。ゲーム的であることの功罪。

多種多様。角川ホラー文庫に対するイメージはまさにこの言葉に尽きます。ラノベ調の軽めのものから日本を代表する硬派なホラーまでより取り見取り。ホラー系の作品が読みたい時、取り合えず選択肢に挙がるレーベル。それが角川ホラー文庫だと思います。

で、今回読んだのはそんなレーベルの内の一冊『ハラサキ』。こちらは第24回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞した「竹之山の斜陽」を改題したものです。

竹之山出身ながら、当地での記憶を喪失したヒロイン・百崎日向が結婚を前にして故郷を訪れるところから物語は始まります。彼女は故郷・竹之山へと向かう途中にかつてのクラスメートと出会い、その直後に車内にて気を失ってしまう。

目が覚めると、そこは裏の竹之山とも言うべき異世界で、日向とその知人の他に人の気配はなく、人の痕跡と言えば、何者かに殺された死体のみ。そして二人の前に現れ、敵意を露にして迫り来る黒い影。

日向が異世界で危険に見舞われる中、婚約者の神原正樹は、連絡の途絶えた婚約者の行方と、彼女の失われた過去を明らかにすべく奔走する。

表と裏の竹之裏を舞台にノンストップで進むストーリー。果たして日向は無事正樹のもとへ帰れるのか。日向の過去には一体何があったのか。竹之裏に根付く都市伝説「ハラサキ」とは一体……。

この作品を読んで思ったことは、何よりもまず「ゲームっぽい」と言うこと。ツクール製のフリーゲームの雰囲気と言えば伝わるでしょうか。

突如として迷い込んでしまった閉鎖空間、犠牲者の死体から見つかる謎めいたメッセージに、所縁の地を訪れる度にヒロインが目にする過去の風景。脱出不可能な空間に突如として閉じ込められる導入や、ちょっとしたメモから指針が見えてくる演出はゲーム的ですし、各所で挿入される過去の風景はイベントシーンを彷彿とさせます。言わばゲーム特有の「わかりやすさ」が本作にはあるわけです。

そうした「わかりやすさ」と息も付かせぬ展開こそ、本作が「読者賞」を受賞した大きな要因でしょう。実際、分かりやすさとテンポの良さを兼ね備えた進行に、謎が謎を呼ぶ展開は一気読み必至。実際、私自身も本作を手に取ってから続きが気になり一気に読んでしまいました。

そんなユーザーフレンドリーな本作ですが、どうも人物描写には難ありの感が否めません。本作はゲーム的な要素を上手く取り入れている一方で、小説らしい面白さ、深みが欠けているように思います。

登場人物は受け身に回りがちで主体性に欠け、キャラクターの描写も弱いため、一人称で話が進むにも関わらず、どうにも彼らへの感情移入がし辛い。

言ってみれば、読み手として主体的にストーリーを追っていくことがちょっと難しいんですよね。登場人物たちによる情報収集が積極性に欠けるのも、読者が主体性を保ち辛くなる要因のように思います。

結果、読み手はどうも謎や展開を追っていくことに終始してしまい、登場人物たちの安否に興味が持てない。ストーリーの行く末には興味が持てる一方で、主人公たちが危機に見舞われようとどこ吹く風の心境になってしまう。

ゲームであれば、プレイヤーは自らのキャラクターを操作することによって自然と主体性が生まれます。そのため登場人物たちの背景が薄く、キャラクターの性格的に共感し辛くとも最低限の主体性が確保されるわけです。実際、ツクール系のフリゲなどはキャラクターにアイコン以上の情報を付与していないなんてこともざらだったりします。

とは言え、ゲームであればオミットされて問題のないこうした要素も、小説で省略されてしまうと作品の単調さに繋がってしまう。それが本作を読んで感じる物足りなさの原因のように思います。

もちろんこの辺りは好みの問題かもしれませんが、個人的にはもう少しキャラクターを深堀りしてくれた方が良かったのかなと。あと欲を言えば、世界観や都市伝説周りの描写をもう少し細かく描いてくれるとより嬉しかったです。

ただしこの「軽さ」が「読みやすさ」や「分かりやすさ」、読者を最後まで引っ張る力に繋がっていることは否めず、本作の魅力であることも確かです。

最後はちょっと文句気味になってしまいましたが、賞を受賞しただけあって綺麗にまとまっていますし、軽めのホラーが読みたければお勧めできる作品です。

では今回はこの辺で。ここ二カ月ほどは色々とあってブログが思うように書けませんでしたが、今後は定期的に更新できればと思います。ではでは。 

ハラサキ (角川ホラー文庫)

ハラサキ (角川ホラー文庫)

 

▶ハラサキ

▶著者:野城亮

▶カバーイラスト:しおん

▶カバーデザイン:原田郁麻

▶発行所:KADOKAWA

▶発行日:2017年10月25初版発行/ 2017年12月15日再販発行