たぶん個人的な詩情

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【映画感想】『七夜の願い星 ジラーチ』――出会いと別れ。少年の成長とロードムービーに愛を添えて。

劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション 七夜の願い星 ジラーチ

はじめに

先日に引き続き25周年ポケモン映画祭に行ってきました。今回は『ルビー・サファイア』の幻のポケモンジラーチをフィーチャーした『七夜の願い星』の感想です。

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観に行ったのはゴジラがそびえることでお馴染みのTOHOシネマズ新宿。『地獄の黙示録』のファイナルカットを見に行ったきりだったので、思えば二年以上ぶりとなりました。特典の配布も既に終わった平日の夕方からの部ではありましたが、結構な人数が入っていたりと、人気のほどが伺えます。流石は人気投票上位作品。

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ちなみに最後に見たポケモン映画がこの『七夜の願い星』だったこともあり、自分にとっては思い出補正の効く最後の作品、のはずなんですが、感動作だという認識はあったものの内容はほとんど覚えておらず、新鮮な気持ちで映画に臨むこととなりました。

19年ぶりに見ることとなった『七夜の願い星』は果たして面白かったのか。以下、ネタバレありで感想を書いて行くのでまだ見ていない方はご注意を。

感想

見終わった瞬間の素直な感想は「え、こんなに面白かったっけ?」と言うもの。『水の都の護神』の感想でも書きましたが、本作もまた滅茶苦茶面白かったです。

先述の通り内容はほとんど覚えておらず、覚えていたのはバトラーがグラードンを目覚めさせようとしていたことと、フライゴンボーマンダが空中戦を繰り広げていたことぐらい。ジラーチをファウンスに連れて行く展開や、メタ・グラードンの容赦ない活躍なんかは観ていてようやく思い出すレベルのうろ覚えでした。

ただ内容を覚えていなかったからこそ純粋に楽しめたのも確かなので、逆にこれはこれで良かったのかも知れません。

細かい部分に触れる前に先に結論だけ述べると、本作はテレビシリーズを補完する意味での「ポケモン映画」、その完成形だと言っても過言ではないと思います。前作『水の都の護神』が「ポケモン映画」ではない異色作であることは先の記事でも触れましたが、それに対して本作はまっとうな「ポケモン映画」だと言えます。

アニポケシリーズのお約束を踏まえつつ、普段は掘り下げられないキャラクターの内面に焦点を当て、映画的なスペクタクルもふんだんに盛り込まれている。しかもストーリーも面白いのだから言うことなしです。(『七夜の願い星』は)レベルの高い合格点を超えるポケモン映画だと思います。

少年の成長を描いたロードムービー

本作は「アドバンスジェネレーション」としては初の映画となるわけですが、無印からAG編への変化を一つ挙げるとすれば、それはサトシよりも年少の少年、マサトの加入だと言えるでしょう。

サジェストに「うざい」や「いらない」と出てしまうこのマサト、個人的にアニメを見ていた当時はそんな印象を持っておらず、後々それを知って世間とのギャップに驚いたこともあったぐらいなんですが、それはさておき、この『七夜の願い星』では彼が物語の中心として描かれることとなります。

マサトはファウンスへの旅を通してパートナーとしての自覚に目覚め、ジラーチとの別れを経験し、確かな成長を遂げます。旅にともなう出会いと別れ、そして成長。本作はいわゆるロードムービーであり、この今までのポケモン映画にはない形式が本作を面白くしているように思います。

何と言っても、ゲストポケモンとの交流をここまで綿密に描いたのは恐らくこの映画が初で、時間的な積み重ねによる説得力はやはり強い。特に「出会い」と「別れ」に焦点を当てている以上、ここはマストな要素と言えるでしょう。このスタイルは言わば劇場版ドラえもんであり、そう考えるとつまらない訳がないんですよね。

実際、劇場では涙ぐむ声も聞こえてくるなど、感動作と言う看板に嘘偽りなし。目的地に向かって旅をするというストーリーは入り込みやすくやすく、上映時間が80分もあるからか、ストーリーが過不足なく描き切られていたのも良かったと思います。

迫力のアクションシーンとスペクタクル

しかしそんな映画の展開を飽きさせないのは、やはりポケモンたちが繰り広げるアクションシーンの存在あってこそ。この映画を観て「フライゴンって強いんだ!」と目を輝かせた子どもも多いはず。私自身そんな子どもの一人でしたし、実際ボーマンダとの空中戦やメタ・グラードンに立ち向かう姿は今見ても迫力満点でした。

そして何と言っても本作のアクションシーンを語る以上、ラスボスであるメタ・グラードンに触れないわけにはいきません。存在自体は覚えていましたが、こんなにヤベーやつだったとは覚えておらず、終始画面に釘付けでした。あんなに触手をうねうねさせてエネルギーを吸収するような輩だったとは……まるでデイダラボッチ

既視感はあろうと、緑豊かなファウンスが枯れていく絶望感は半端なく、ポケモンらしからぬスケールの大きなスペクタクルで大変満足。フライゴンボーマンダの躍動感も素晴らしく、トレーナーを背中に乗せて空を駆けるアクションはとても良かったです。

ちなみにメタ・グラードンはそのフォルムからゴジラ的なサムシングを感じずにはいられない存在なわけですが、強いて挙げるなら『ゴジラ2000 ミレニアム』にて登場した怪獣・オルガがそれに当たります。このオルガという怪獣はゴジラの細胞を基に生まれた言わばゴジラの失敗作であり、グラードンの失敗作であるメタ・グラードンにその面影を感じてしまうのは偶然ではないのかも。口角が裂ける口の開き方とか、ちょっとそれっぽいんですよね。

それとアクションで言えば、マジックショーを盛り上げるグラエナキルリアたちの活躍、ジラーチを取り戻しに来たアブソルの襲撃など、旅が始まるまでのアクションシーンも映画のテンンションを維持するのに一役買っていたと思います。

映画ならではの一面を見せるキャラクターたち

こうした本筋の面白さもさることながら、個人的に本作で注目したいのはキャラクターの深掘り描写。本作がマサトを中心とした物語である以上、彼を支える存在もまた必要です。

サトシより年少のマサトが仲間に加わったことがAG編の大きな変化だという話は先にしました。実際、マサトの加入によるサトシの立場の変化は『七夜の願い星』における一つのポイントだと思っています。本作におけるサトシは、主人公である以上にマサトを支え導く年長者としての側面が強い。このようなサトシの成長に思わず感動してしまうのは、私自身、かつて彼と同じ目線にいた視聴者だからなのかも知れません。

そしてキャラクターの深掘りについて語るならば、何をおいてもハルカに触れないわけにはいきません。姉として、また少女としての立場はメンバーでは唯一無二。ジラーチとの別れが迫り落ち込むマサトにいち早く気付けるのはもちろん、ダイアンのバトラーへの想いに寄り添えるのもハルカならではでしょう。これは他の誰にも出来ない役回りですし、本編を通して彼女らしい強さが随所に見られてとても良かったです。また子守歌のシーンなど、歴代ヒロインの中でも上位のヒロイン力を感じました。

またキャラクターという点では、本作のゲストであるバトラーとダイアンも今までにない深みを持ったキャラクターで良かったと思います。

従来のポケモン映画の敵役の多くは、良くも悪くも短絡的で表層的な存在でした。それに対しマグマ団を見返すために行動を起こしたバトラーと、かつての彼を取り戻そうとするダイアンの姿は異質で、二人の愛ゆえの行動は物語の深みを増すのに貢献しています(余談ですが、ファウンスでジラーチを罠にかけるバトラーさんの顔の歪み方から遊戯王味を感じたのは私だけではないはず)。

普段は描き切れないキャラクター性を描き、テレビシリーズを補完しているという点で本作は「ポケモン映画」であり、その水準の高さから『七夜の願い星』は「ポケモン映画」の一つ完成形だと思います。

おどるポケモンひみつ基地

前回に引き続き同時上映も再上映。最初にこちらを見てから『七夜の願い星』に続くわけですが、久しぶりにポケモンに接する身からすると、この短編はアニポケの雰囲気を思い出させてくれるため大変助かりました。

本作は冗談抜きに、ポケモンたちがリズムに乗って楽し気に、時に困惑気味に踊るのを見て楽しむだけの映画だと言っても過言ではありません。冗談抜きにそれ以上でもそれ以下でもない内容で、まさしく「おどるポケモンひみつ基地」。ただだからと言って本作がつまらないなんてことはなく、ポケモンたちが尊いがためにこれだけでも十分楽しめてしまうんだからポケモンってすごいと思います。

このようにポケモンの魅力に極振りのこの映画、個人的に一番可愛いと思ったのはハスボーと僅差でミズゴロウ。ささやかながら顔に浮かぶ感情の変化が多彩で、見ていてとても癒されました。あと頑なに踊ろうとしないキモリもある意味で可愛らしく、実は小学生男子の等身大の姿を写し取っているのは彼なのかも知れません。

おわりに

と言う訳で、今回は前回に引き続きポケモン映画の感想となりました。毎度公開最終日に更新するのは自分でもどうかと思いますが、9月2日より再上映もあるようなので映画館で観たいという方は是非公式サイトや上映館の情報をチェックしてみてください。

www.pokemon-movie.jp

実は『七夜の願い星』と前後して他のポケモン映画も見たので、次回はそちらの感想になるかも知れません。が予定は未定。取り合えずあと二回ぐらいは今月中に記事を更新できればと思っています。

では、少し長くなりましたが今回はこの辺で。

劇場版ポケットモンスター アドバンスジェネレーション 七夜の願い星 ジラーチ (2003)
▶監督:湯山邦彦
▶脚本:園田英樹
▶原案:田尻智増田順一、杉森健
▶制作総指揮:久保雅一、鶴宏明
▶製作:吉川兆二、松追由香子、盛武源
▶撮影:水谷貴哉、白井久男
▶音楽:宮崎慎二
▶アニメーション監修:小田部羊一
▶主題歌:「小さきもの」林明日香
▶キャスト:
サトシ:松本梨香
ピカチュウ大谷育江
タケシ:上田祐司
ハルカ:KAORI
マサト:山田ふしぎ
ムサシ:林原めぐみ
コジロウ:三木眞一郎
ニャース犬山犬子
バトラー:山寺宏一
ダイアン:牧瀬里穂
ボギー:パパイヤ鈴木
ジラーチ鈴木富子

▶おどるポケモンひみつ基地
▶監督:湯山邦彦
▶原案:田尻智増田順一、杉森健
▶音楽:多田彰文
▶アニメーション監修:小田部羊一
▶オープニングテーマ:「ポルカ・オドルカ」
▶エンディングテーマ:「冒険のはじまりだ!!」
▶キャスト:
ピカチュウ大谷育江
アチャモ西村ちなみ
キモリ上田祐司
ミズゴロウ林原めぐみ
ハスボー伊東みやこ
ニャース犬山犬子
ソーナンス上田祐司
ハブネーク佐藤智恵
サボネア小西克幸
ゴニョニョ白石涼子津村まこと、吉原ナツキ
ドゴーム小西克幸
ルンパッパ:立木文彦
ムサシ:林原めぐみ
コジロウ:三木眞一郎