たぶん個人的な詩情

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【映画感想】『水の都の護神 ラティアスとラティオス』―― 美しい街、ひと夏の思い出。ボーイ・ミーツ・ガールを描き切った傑作。

劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスとラティオス

はじめに

暑さとせつなさと忙しさとにやられ、先月はなんと一つも記事を更新していないという体たらく。ここ最近も体調不良が続いていたりと状況はあまり良くないんですが、夏はポケモンということで「25周年ポケモン映画祭」に行ってきました。

www.pokemon-movie.jp

こちらはポケモンアニメ25周年を記念した企画でして、歴代映画の中からもう一度見たい作品を投票で選び、再び劇場で公開するというものになります。なんだかんだ『ミュウツーの逆襲』辺りが選ばれるのかと思いきや、公開されることとなったのは『水の都の護神』に『七夜の願い星』、そして『ディアルガVSパルキアVSダークライ*1

前二つは映画館で見たはずなのに内容をほとんど覚えておらず、『VSダークライ』に至っては未見。とは言え一人だったら見に行かなかったと思いますが、結局ノリと勢いで知人と見に行くことになりました。

見に行ったのはTOHOシネマズ池袋。数ある上映館の中では珍しく夜の部があるのがポイントで、21時からながらほぼ満席でした。剣盾の特典目当てじゃない人もいたようですし、流石は人気投票上位作品。

と言う訳で、今回は『劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスラティオス』の感想を書いて行こうと思います。踏み込んだネタバレをするつもりもありませんが、普通に書いてしまうと思うので気になる方はご注意を。

感想

結論から言うと滅茶苦茶面白かったです。満足感が半端なかったと言うか、普通に映画として楽しんでしまいました。ヴェネツィアをモチーフにしたアルトマーレの街並みは美しく、主題歌を始めとする音楽も最高。ラティ兄妹との出会いと別れ、最後の甘酸っぱい展開も素晴らしかったと思います。

ぶっちゃけ面白かったことを伝えられれば満足なんでこれだけでも良いんですが、流石にこれだけだとTwitterでやれのレベルの内容になってしまうので、以下蛇足気味の感想です。

ポケモン映画ではないポケモン映画

今回映画を観ていて思ったことは、『水の都の護神』は「ポケモン映画」ではないということ。言ってしまえば、この作品はサトシとヒロイン(=ラティアス)を中心に描かれた一つの青春映画なんだと今さらながらに気付かされました。故にポケモン映画として見ると異色作ではあるものの、それでいて面白いんだから言うことありません。流石に投票で選ばれただけはあるな、とその完成度の高さに思わず感動してしまいました。

この「ポケモン映画」ではないとはどういうことかと言えば、ポケモン作品特有のお約束がないということを意味します。お約束と言うのは、例えばタケシが耳を引っ張られる一連の流れやロケット団のコミカルな活躍、ご当地トレーナーとのポケモンバトルといったお馴染みの要素のこと。所謂お約束はシリーズとしては重要な要素ですが、一つの作品として見た時には無駄な雑味にしかなりません。

これにはカスミやタケシの活躍なんかも含まれるわけですが、厳密にはこれらのお約束が本作で描かれていないわけではなく、ほとんどがオープニングを兼ねた水上レースの中に集約されています。こうした工夫を含め、「めざせポケモンマスター」を伴奏に描かれる水上レースは躍動感満載の名シーンだと言えるでしょう。

お約束要素を巧みに排したことで純粋なボーイ・ミーツ・ガールとして完成されたこの映画、小学生当時はよく分かっていなかったんですが、今見ると滅茶苦茶ジュブナイルしてますよね。迷路めいた街の中を誘うように無言で先導するラティアスの姿は、まさしく謎の少女系ヒロイン。BGMの良さも相まって、ラティアスへの好感度と期待感はうなぎのぼり間違いなし。見事に多感でピュアな男の子が好きそうな感じに仕上がっています(誉め言葉)。

ポケモン世界を舞台としたアクション映画

そして本作を一つの映画として面白くしているもう一つの要素は、ポケモン映画としてアクションパートを撮るのではなく、ポケモン世界を舞台にアクションパートを撮っていること。

見て貰えば分かる通り、本作ではポケモンバトル的なやり取りがほとんど描かれていません。トレーナーの指示にポケモンが応え、相手もまたそれに対応する、というポケモンバトル的なやり取りは、ポケモンアニメの醍醐味であると同時に、描き方によっては単調でつまらなくなりかねない要素でもあります。

本作では一般的な映画における道具や障害物としてポケモンが使われているため、アクションの幅も広く、見ていて飽きが来ません。銃撃戦やカーチェイスポケモン世界でやるならこうでしょ、みたいな。

もちろんポケモン世界を舞台にしている以上、アクション以外のシーンでもポケットモンスターの世界が十分に描かれています。街の至る所で姿を見せるポケモンたちや、ポケモンのためと思われる水飲み場などの背景は、ポケモン世界の奥行や生活感、言わば映画の本筋とは別のところで彼らの生活が成り立ち、ポケモンたちが息づいていることを見る者に感じさせます。印象的な導入である昔話も、ポケモンの世界観が感じられる演出でとても良かったです。

惜しむらくは映画全体が駆け足気味になってしまっていること。ラティ兄妹との交流から怪盗姉妹の襲撃が始まるまでに街でのイベントを挟んでも良さそうでしたし、これは純粋な好みかも知れませんが、古代の機械の活躍も出オチ感が否めません。

ただ続編である『七夜の願い星』よりも本作が十分近く短いことを思えば、これは完全に尺の都合でしょうし、そもそもラティアスの可愛さだけでも十分元が取れているのでこの辺りを気にするだけ野暮なのかも。

兎にも角にも、本作がポケモン映画における挑戦的な異色作でありながら、ボーイ・ミーツ・ガールを描き切った傑作であることは揺るぎません。

随所にみられる(気がする)『カリオストロの城』オマージュ

ちなみに、悪役が怪盗というところから、本作からは『ルパン三世』らしさは当然感じてしまう訳ですが、少なからず影響を受けている気がするんですよね。冒頭の車での逃走シーンはもちろん、ロケット団がパスタを啜るカットは『カリオストロの城』まんまですし、アルトマーレの水路を体験するシーンなんかは、ルパンが城に潜入する際の水路を彷彿とさせます。

夜のアルトマーレでのアクションも、どことなくカゲとの追走劇っぽさがある、と感じてしまうのはこじつけかも知れませんが……。

ピカピカ星空キャンプ

てっきり同時上映はないのかと思っていましたが、ピチュー兄弟とソーナノがゲストで登場する「ピカピカ星空キャンプ」もしっかり再上映の対象でした。

毎度お馴染みのポケモンだけが登場するこの短編シリーズ、この歳で見ても楽しめるのかとちょっと不安でしたが、そんな不安とは裏腹に普通に楽しんでしまいました。

ナレーションがなくとも状況を把握できるような演出や演技は流石ですし、カット割りは普通に映画のそれなので観ていて面白いんですよね。特に風車小屋でのごたごたの際のカットは中々に凝っていて見応えがあります。

列車を目指し、丘を滑り降りてから始まるクライマックスも普通に楽しく、ワニノコの伏線が活きるのも良い。あと、これから見る方にはあわや戦犯になりかけたゴマゾウ君の表情にも注目して欲しいと思います。

それとこれは完全に私事ですが、サニーゴの可愛さに気付くことが出来たのはこの映画のお陰でした。特別の見せ場はないものの、このサニーゴからは縁の下の力持ち力を感じますね。本作に限らず、短編シリーズはポケモンたちの素の姿や性格、関係性などが伺えるのが魅力だと思います。ちなみにこのサニーゴは『水の都の護神』の水上レースでカスミと共に活躍するわけですが、あんなに速く泳げるのかと驚いたのは私だけではないはず。

おわりに

と言う訳で今回は劇場版ポケットモンスターより『水の都の護神』の感想でした。正式な公開日は今日までですが、9月2日から8日の間、日替わりでの再上映も行われるようなので、もし見逃した方はこの機会に劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

純粋にスクリーンでこの映画を観られるまたとない機会ですし、映画としても面白いので興味があれば是非とも観に行って欲しいと思います。アマプラやU-NEXTでも観られるようなので、劇場に行けない方はそちらで見るのもありかと。

エーフィのスピードスターやアリアドスナイトヘッドの渋さ、古代の機械のデザインや『ルギア爆誕』の敵役の映り込みなど、こまごまとしたネタについてまだ触れたい点はありますが今回はこの辺で。では。

劇場版ポケットモンスター 水の都の護神 ラティアスラティオス
▶監督:湯山邦彦
▶脚本:園田英樹
▶原案:田尻智
▶制作総指揮:久保雅一、川口孝司
▶製作:吉川兆二、松追由香子、盛武源
▶撮影:白井久男
▶音楽:coba宮崎慎二
▶アニメーション監修:小田部羊一
▶主題歌:「ひとりぼっちじゃない」coba宮沢和史
▶出演
サトシ:松本梨香
ピカチュウ大谷育江
カスミ:飯塚雅弓
タケシ:上田祐司
ムサシ:林原めぐみ
コジロウ:三木眞一郎
ニャース犬山犬子
カノン:折笠富美子
ボンゴレ:グッチ雄三
ザンナー:神田うの
リオン:釈由美子
ロッシ:山寺宏一
アナウンサー:広川太一郎
ラティアス林原めぐみ
ラティオス江原正士

*1:流石に『ミュウツー』はリメイクもあったし食傷気味だったのかも。内容も暗いし。