たぶん個人的な詩情

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【映画感想】『コルト45/孤高の天才スナイパー』――孤独な青年に付け入る魔の手。嵌められた先に待つものと彼の選択とは。

コルト45 孤高の天才スナイパー

はじめに

どこかの感想でも書いたのだけど、このところ通勤時にタブレットで映画を見たりしている。そういう時に見るのは決まって流し見ても良さそうな映画。というのも、大作映画をこのような形で消費してしまうのはもったいないと思ってのことだが、その結果観る機会を選り好みし、観るべき映画を逃してしまっている感はある。

閑話休題

作り手がいる映画に対して「流し見ても良さそう」と評価をすることに多少の申し訳なさは確かにある。が、『コルト45/孤高の天才スナイパー』のようなタイトルで大作を期待しろというのも無理な話だ。時期的に『アメリカン・スナイパー』に合わせたかったにしても、この映画にスナイパーっぽさなんてものはなかったりするので、こればかりは配給会社が悪い。ちなみに原題は”Colt 45”

で、まあそんな余談はこれくらいにして、配給会社の付けたタイトルはまあ酷いが、内容はそこまで悪くない。むしろいい意味で期待を裏切られた感すらある。当初の想像とは一味違っていたのだ。


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感想

フランスらしさが垣間見えるアクション映画

何でもかんでもフランス映画だと一括りにして、アンニュイだとか何とか言うつもりはないし、そもそもフランス映画なんて語れるほど見たこともないのだけど、本作はちょっとフランス味がある、ように感じる。

まずアクション映画ではあるがスカッとしない。米国産でもちょっと意識が高ければその手の作品はあるけれど、意識するともなしに暗くなっている感もある本作の雰囲気は、流石にちょっとフランスっぽい。

また、主人公の性格が暗いのも、フランスらしい雰囲気を感じる要因かもしれない。主人公のヴァンサン・ミレスは銃器のスペシャリストで各方面からスカウトを持ち掛けられながら、警察学校の射撃教官の身に甘んじている。

自分を実践向きじゃないと言って前線には出ず、上司の横柄な態度にも強くは出られない彼の姿は何とも情けない。ミレスが秘密裏に違法な弾薬開発を行っているのも、何か明確な目的があって、というわけでは恐らくない。興味があるからやる。それだけ。

つまり、本作の主人公であるヴァンサン・ミレスは、ハイスペックなだけの銃器オタクなのだ。

銃器オタクに迫る影

ただシコシコ銃器と戯れていれば満足な彼だが、世のオタクに違わず、同族にはすぐに心を開いてしまう。「キミもオタクかい?」。私も覚えがあるが、オタクってこういうところがある。

射撃場で銃を撃っていた男・ミロの腕に興味を持ち自分から声をかけ、自分の銃のカスタムを説明したかと思えば、すぐに試し撃ちさせてしまう。その後は一緒に練習をしたり、果ては自身が開発している違法な弾薬の話もしてしまうミレス。

実はそのミロが悪い奴で、思いがけず彼は犯罪の片棒を担いでしまい、葛藤し、最終的には吹っ切れる、というのが本作のストーリーなわけだが、この距離の詰め方は本当にオタク以外の何物でもない。逆に、ミレスの人物像を理解したうえで上手い具合に近づくミロの手腕もお見事。自然で上手い導入だと思う。

なお、育ての親のような人物に抑圧されている姿から、ヴァンサンについて色々と語れそうな部分はあるが、特にそれらしいことを思いつかないので省略。ちなみに、愛銃を交換して試射しあう場面から、なんともセンシティブなものを感じてしまったのは病院行け案件だろうか。

見応えのあるアクション。ただし少ないのは残念

と、ここまでヴァンサンの性格にばかり触れてきたが、本作はアクション映画らしくアクションシーン、そしてそれを支える銃器の描写が良いのも特徴の一つだ。

冒頭の射撃競技会、射撃場でのヴァンサンとミロの訓練、犯罪組織との銃撃戦など、どれも派手さはないが格好良さが詰まっている。銃や体の捌き方はもちろん、弾の排出やリロードなど、細部に渡ってかなりのこだわりが見えるのはとても良い。

惜しむらくは映画全体を通してアクションシーンが少ないこと。ヴァンサンの葛藤や悩んでいる様子が多いことに不満はないが、アクションが格好良いだけに、もう少し動きのあるシーンを増やしても良かったのではと思ってしまう。また、本作のパッケージで描かれているように、複数人対複数人みたいな組織同士の撃ち合いがなかったのもちょっと残念。

おわりに

ネタバレはしたくないので本作の結末について詳細は触れないが、ロケットペンシルみたいな結末で個人的には良いんじゃないかと思う。映画としての完成度はそこまでではないにしても、普通に観れるし雰囲気も悪くない。個人的には好きなタイプの映画だった。

ちなみに、作中で日本のものらしき掛け軸や鎧兜が登場するのは、ある意味フランスらしさを感じる演出。あと、フランス語をほんの少し齧った身からすると、フランス語の響きはとても懐かしくて、改めて勉強したくなる。が、結局したくなるだけで終わるんだろうなと諦観を抱いたところで今回はお開き。


▶ コルト45/孤高の天才スナイパー/ Colt 45 (2014 / フランス)
▶監督:ファブリス・ドゥ・ヴェルツ
▶脚本:ファティ・ベディア
▶製作:トマ・ラングマン、エマニュエル・モンタマ
▶製作総指揮:ダニエル・ドゥリューム
▶撮影:ブノワ・デビエ
▶出演者
ヴァンサン・ミレス:イマノル・ペレセ

クリスチャン:ジェラール・ランヴァン
ミロ:ジョーイ・スタール
リュック:シモン・アブカリアン
イザベル:アリス・タグリオーニ