たぶん個人的な詩情

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【読書感想】『「名著」の読み方』――1日5分、本の汚し方、身を委ねる読書法。100分de名著のプロデューサーによる具体的な読書術がこの一冊に。

はじめに

NHK Eテレで放送されている読書番組「100分de名著」。こちらは「名著」と呼ばれる類の難しい本を「25分×4回=100分」で読み解いていく読書番組となっています。

読書番組なんてジャンルが成立していることがすごい今の世の中で、長年番組が続いているのはすごいなあと横目で見つつ、実は未だ番組を見たことがありませんでした。

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そんな読書番組に長年プロデューサーとして携わっている秋満吉彦さんが、今回感想を書いていく『「名著」の読み方』の著者となります。

著者はプロデューサーとして、番組で取り上げる「名著」と解説役の専門家を選び、企画書を書く仕事をしているとのこと。

本を読むことを仕事にしている、言わば「専門家」による『「名著」の読み方』と言うことで、どんな内容だろうと読んでみたのですが、これが非常に良い本でしたので、今回はこちら本の感想を書いていこうと思います。

読書が好きな方はもちろん、読書に苦手意識があったり、本を読みたいと思っているけど何から読めば良いか分からない、と言う方にもお勧めの一冊となっています。

感想

冒頭で「とっつきにくかったり、分かりづらかったりするものもある名著を読み、味わうための方法を、余すことなく公開します」と書かれているように、本書では著者の秋満氏が自身の経験に則して、「名著」との向き合い方をこれでもかと語っています。

しかも、これが非常に分かりやすくて現実的。ややもすると読書論は観念的な理想論に傾きがちな印象がありますが、この本に書かれている内容は非常に実践的です。

具体的な読書法の数々

例えば、読書習慣を身につける方法として著者が挙げているのは「1日5分」読むという方法。これは著者の経験から得られた読書法で、思いついたきっかけとして、読書なんてしたことのなかった子ども時代の著者が、まずは「1日5分」と心に決めてカフカの『変身』を読み始めた、と言うエピソードが紹介されています。

その他にも「本に名前を付ける」「本を汚す」「本に身を委ねる」など、様々な読書のアイデアがこの本には詰まっています。

特に「本を汚す」方法は、実際に三木清の『人生論ノート』を例に「汚し方」の説明をしてくれているので、本を汚すこと、つまりは本へのマーキングに慣れていない人にとって、一つの指針になってくれるはずです。

ちなみに自分は、齋藤孝さんの『読書力』と『三色ボールペン情報活用術』を軸に学生時代から本などへのマーキングをしています。サンプルはいくつあっても良いと思うので、興味がある方はこちらも是非。

一人の社会人における、等身大の読書体験

とは言え、これだけであれば正直言って世にある読書術系の本と違いはあまりありません。きっとこの手の本を何冊か読んだことのある人であれば、どこかで似通った方法を目にしたこともあるでしょう。

では、この本の一番の魅力は何かと言えば、それは秋満氏自身の体験に則した「名著」とのエピソードがふんだんに盛り込まれていること。そうしたエピソードが、読者に読書術以上のものを与えてくれるわけです。

仕事や人間関係で行き詰った時に「名著」から気付きを得て救われ、道を拓くきっかけとなった話が、実際に読んだ本の引用と共に本書では数多く紹介されています。

中でも個人的に印象に残っているのは、希望していた番組セクションへ配属されずにいた時に、神谷美恵子さんの『生きがいについて』を再読して「待つ」ことの創造性に気付いたと言うエピソード。

著者はこの本を読んだことで、異動の結果片道1時間40分かかっていた通勤時間も前向きに捉えられるようになり、興味関心のある本を読む時間に使い始めたそうです。

実際、会社に所属していると、思うようにいかず腐ってしまいそうになることは往々にしてあります。そんな時に読書に救われた、と言う話が紹介されていると、いつか自分もそう言った機会があるだろうから頑張ろう、と言う気持ちになれます。

ちなみにこのエピソードは「再読」の重要性を説明する中で紹介されているのですが、ほとんど再読をしない身からすると、再読の機会を積極的に作り、新しい発見を得ていこうと言う気持ちが湧いてきました。

このように、一人の社会人の等身大の読書体験から気付きを得られたり、読書へのモチベーションが回復できると言った部分が、この本の一番の魅力だと思っています。

また等身大と言う観点で言えば、人によっては格好付けて語りたがらないような話がオープンに語られているのも好感が持てるポイントです。

例えば『カラマーゾフの兄弟』を三回挫折し、ようやく四十代になり最後まで読み通すことができたこと、最初『変身』を読んでもよく分からなかったこと、未だに『人生論ノート』には理解しきれていない個所があることなどなど。

この手の「読書術」系の本の場合、著者の方法論や経験が凄すぎて、参考にならないと感じてしまうことが結構あります。それに対して、本書はこうしたエピソードがたくさん書かれているので、読書へのハードルが下がってとても良いです。

扱われる「名著」も幅が広く、きっとこれから読む本の参考にもなるはずです。実際私もこの本きっかけで読みたい本リストに追加した本が何冊もあります。

今ならキンドルアンリミテッドに入っているので、興味がある方は是非お手に取ってみて欲しいと思います。

おわりに

これまで「100分de名著」との接点と言えば、書店でムック本が置かれているのを見かけたことがあるくらい。伊集院光さんが司会であることも、この本を読んで初めて知ったくらいでした。

とは言え、見ていなかったのも「名著は自分の力で読むものだろう」と言う安っぽいプライドからだったので、これを機にそんなものは捨てて、興味のある本が取り上げられた時は見ていきたいと思います。

また、過去分もお金を払えば見られるようなので、ハードル高くて未だ読めていない名著の回は見てみたいところ。特に、哲学書とかは背景知識の有無で読みやすさが変わるので、優先して見てみたいと思います。

では、今回はこの辺で。年内にあと3回は更新したいと考えていますが果たして…。


▶「名著」の読み方
▶著者:秋満吉彦
▶発行所:ディスカヴァー・トゥエンティワン
▶発行日:2021年7月30日初版発行