タニア・ハフ『ブラッド・プライス』を読了。手軽に読める本をと思い手に取った本作ですが、その予想に違わず読みやすく、気付けば一気に読んでしまいました。
カナダの州都トロントで酸鼻な連続殺人事件が発生。犠牲者はみな喉を切り裂かれ、血を吸い取られた凄惨な死にざまだった。新聞はこぞって書きたてた――「吸血鬼、街を徘徊!」偶然、最初の殺人事件を目撃した元トロント警察殺人課刑事、今は私立探偵のヴィッキー・ネルソンは、被害者の恋人から依頼を受け、調査を開始する。犯人は本当に吸血鬼か? 調査を進める彼女の前に、やがて事件の背後に隠された驚くべき真相が!?
基本は女刑事*1ものながら、そこはハヤカワFT。ただの殺人で終わるわけもなく、結構早い段階で衝撃の真実が明かされたりします。また事件の真相もすぐ判明してしまうため、純粋なミステリーを求めると肩透かしを食らうかも知れません。とは言え、むしろそうした要素は添え物に過ぎず、この作品の何よりの魅力は、ロマンス小説もかくやと言った、主人公ヴィッキー・ネルソンを取り巻く人間関係にあるように思います。
警察時代の相棒にして元彼のマイク・セルッチ。そして事件の調査を通して協力し合うことになった訳ありの青年、ヘンリー・フィッツロイ。主人公を中心とした三角関係の行く末は、事件の進展と同様に読者の興味を引くこと請け合いです。
また登場人物の一人が500年近く生きる吸血鬼(!?)であり、その人物の過去が度々挿入されますが、そうした歴史ネタも本作の魅力の一つではないかと思います。彼の過去を通して歴史の裏を垣間見た気にさせてくれるのは、歴史を題材とした作品の醍醐味でしょう。
著者のタニア・ハフはカナダでは売れっ子の作家らしく、ホラーやファンタジー、ロマンスなど、幅広いジャンルの作品を書いているようです。そしてこの作品を第一作としたシリーズは人気を博し、ドラマ化もしたのだとか。残念ながら邦訳はこの一作目で止まっていますが、これだけでも十分楽しめるのは不幸中の幸いかも知れません。
ちなみに、本作の舞台はカナダのトロントなんですが、作中でのオタクの扱いがアメリカを舞台とした作品と変わらず、欧米のオタクの生き辛さはこんな感じなのかと色々と納得してしまったり。
同情の余地がないほどに彼は悪いことをするわけですが、環境が彼をそう変えてしまったのかも知れず、日本の一オタクとしては何とも世知辛いものを感じてしまいました。まあ卵が先かと言う話ではありますが。
何にせよ、娯楽として十分楽しめる作品だったので、個人的には満足です。
▶BLOOD PRICE (1991)
▶著者:タニア・ハフ
▶訳者:和爾桃子
▶カバーイラスト:エナミカツミ
▶カバーデザイン:岩郷重力+WONDER WORKZ。
▶発行所:早川書房
▶発行日:2005年10月31日
*1:厳密には“元”女刑事の現探偵。