たぶん個人的な詩情

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【読書感想】『吸血鬼ハンター"D"』――憎いほどに王道。弱きを助け強気を挫く"D"の物語開幕。

吸血鬼ハンター(1) 吸血鬼ハンター“D”

はじめに

映画館で『バンパイアハンターD』を観たことは先日ブログでも触れました。今回は原作を読んでみたので感想です。

bine-tsu.com

映画版は3作目である『吸血鬼ハンター D-妖殺行』を原作としているため、ストーリーはまったくの初見。多くは語らず、早速感想を書いて行こうと思います。

ネタバレらしいネタバレはしていませんが、読んでいない方は念のためご注意を。

あらすじ

辺境の小村ランシルバに通じる街道で“貴族の口づけ”を受けたドリスは、吸血鬼ハンターを探していた。西暦12090年、長らく人類の上に君臨してきた吸血鬼は、種として滅びの時を迎えても、なお人類の畏怖の対象であり、吸血鬼ハンターは最高の技を持つ者に限られていた。そしてドリスが、ついに出会ったハンターの名は“D”、旅人帽を目深に被った美貌の青年だった。

感想

結論から言うと、滅茶苦茶面白かったです。映画の感想でも書いた通り、実は今回がファースト菊地秀行*1。長年期待していた分、裏切られる可能性もあると心構えをしつつの読書でしたが、そんなものは杞憂でした。簡単に超えてきましたね。

しかも、そのハードルの越え方が直球ストレート。奇を衒ったところのない、清々しいまでの王道展開でそれをやってくるのだからすごい。

牛丼屋で牛丼を頼んだら、まさしく牛丼が出て来た時の感動。「これだよこれ」と思わず唸りたくなるほどのザ・牛丼。イメージしたものが出てきた上に、更に肉・米・たまねぎのすべてが高クオリティ、と言った感じでした。

吸血鬼に狙われた少女と、流離いの凄腕ハンター。貴族然とした吸血鬼、下世話な思惑で動く悪漢。少女の弟と、彼ら姉弟に親同然に接する老医師。

あらすじと登場人物からイメージした通りの展開ながら、それでも面白いのは流石。

しかも、内容が面白いだけでなく、世界観の作り込みも秀逸で魅力的です。ホラーにSF、ファンタジーマカロニウェスタン。あらゆるジャンルが混然一体となり、独自の世界観を創り上げています。

中でも、個人的に大好きなのは、この世界における吸血鬼の描かれ方。

まず、伝説から飛び出してきた出自不明の存在でありながら、圧倒的な科学技術を持っているオカルトと科学のハイブリッドなのが良いです。

しかも、彼ら吸血鬼が元来苦手とする弱点を持ちながら、それでいて強者としての立ち位置を維持する描き方がされているのは見事。

にんにくや十字架に弱いというのは、ややもするとギャグになってしまいますし、だったら常にこれらを装備していたら良い、となるところを、人間への記憶操作で対策としているのは脱帽してしまいます。

そして、この1回きりの対策だからこそ、作中にて登場人物が、限られた知識で推理した弱点・にんにくが吸血鬼に効いたシーンは、とても良かったです。

通常、日光や十字架、にんにくと言った弱点は安易に強すぎて影響が弱められるか、最悪省かれてしまう中、それをなくしたら「吸血鬼」ではない、とばかりに活用するのは菊地氏の吸血鬼愛を感じます。

まあ、それは巻頭の謝辞と登場人物たちの名前を見れば一目瞭然ではありますが。

また、吸血鬼以外のファンタジー的な世界観が広がっているのも、ファンタジー好きとしてはたまらないものがありますね。遺伝子操作や、核戦争の結果として生み出されたというバックボーンがあるのも、世界観設定大好き芸人としてはポイント高いです。

かと思えば、城の地下で登場するミドウィッチの蛇女のように、本物の妖魔が跋扈しているのも、すべてが科学で解決されるわけではなく、未だ人類が知らない不可思議が地球にも残っているようで素敵です。人狼に本物と紛い物がいるのも、同様に素敵。

その他、世界観としては、遺伝子操作のたまものか、人類側も明らかに人間辞めた性能しているのも楽しく、麗銀星率いる怪魔団みたいなのがまだまだいるのかと思うと、すごくワクワクします。

ちなみに、本作で一番好きなキャラクターはリイ伯爵の娘であるラミーカ・リイ。こういう性格や立ち位置のキャラクター、昔からすごい好きなんですよね。

貴族としての傲慢な立ち居振る舞いもさることながら、Dの正体に気付いた後の言動も素晴らしく、「好き…」って噛み締めながら読み終わりました。このキャラクターに出会えたのも、自分の中では大きな収穫だったりします。

おわりに

昔から読んでみたかったものの、絶版でプレ値も付き、手を出し辛かったこのシリーズをまさか読むことになるとは思ってもみませんでした。読みたいと思っていても、結局は読まずに人生終わる枠だと思っていただけに、電子書籍には感謝しかありません。

しかも、電子書籍を積極的に活用し始め、抵抗感が薄れているタイミングで、たまたま映画を観れたという、偶然に偶然が重なった結果だというのも奇跡的。

実は既に2巻は買っていたりするので、今後のライフワークとしてちまちま読み進めていきたいと思います。未だに新刊が出ているので、まだまだこの世界を楽しめると思うと、人生頑張って行けそうです。

では、今回はこの辺で。


▶吸血鬼ハンター“D”(1983)
▶著者:菊地秀行
▶イラスト:天野喜孝
▶発行所:朝日新聞出版

*1:厳密には、菊地秀行さんの書いた小説が初。翻訳などは読んだことあり。