たぶん個人的な詩情

本や映画の感想、TRPGとか。

たぶん個人的な詩情

MENU

【映画感想】『アビゲイル』――誘拐した少女はバレリーナヴァンパイア?恐怖よりかは笑いを楽しむべき珍品。

アビゲイル (字幕/吹替)

はじめに

このブログを読んでいるような人であれば、アビゲイルと聞いて頭をよぎるのは、セイラムの魔女裁判で名高いアビゲイル・ウィリアムズだと勝手に思っている*1

かく言う私もそんな人間なので、アマプラでこのタイトルを見かけた時は、名前に惹かれてウォッチリストに突っ込んでしまった。

人さまにはあえて勧めないが、観たいと思っているなら止めはしないレベルで、ホラーというよりかはシュールな笑いを提供してくれる作品、といった印象。

とは言え、語りたい部分は多分にあるので感想を書いて行く。途中から普通にネタバレありで感想を書いて行くので、まだ観ていない方はご注意を。

あらすじ

身代金目的の誘拐のため集められた6人の男女。互いの本名も知らず、ただ腕のみを買われて組まされた彼らが狙うのは、大富豪の娘・アビゲイル

無事誘拐が成功し身代金の支払いを待つため洋館で一夜を過ごすことになった男女。成功を祝して酒を酌み交わす彼らだったが、少女が実は吸血鬼だということが判明し…。


www.youtube.com

感想

まず、本作はホラーとしてはあまり面白くない。趣のある洋館探索は良い具合にホラー感があるのだが、脅威の正体が分かってからは一転、ただのシュールなコメディになってしまっている。

ホラー演出としては、隙を生じぬ二段構えで仕込まれたジャンプスケアがメイン。何回か使うくらいなら良いが、こうも使われていては正直言って芸がないと思ってしまう。生理現象として驚きはするけれど、感心はしない。

ただ、人体や部位が爆発する映像は派手で観ていて楽しい。血しぶきの飛び方も良い具合でスカッとする。少女の腕が吹っ飛んだ後、骨が肉から伸びるグロさも悪くない。死体のプールの演出も悪趣味この上なく最高だ。

その他、首の落ちた死体と踊る少女や、バレエを軸とした謎戦闘スタイルなど、シュールな面白さと魅力が両立している。吸血を介して操られたサミーが、音楽に合わせて踊るシーンも面白い。

つまりこの映画、ホラーとしではなく、シュールなコメディ、あるいは制作陣渾身の謎演出に目を向ける作品として観れば、結構楽しめる作品なのだ。

少女の演技

まず目を惹くのは、アビゲイルを演じるアリーシャ・ウィアーの演技。誘拐され不安を隠せない少女から、数世紀生きる吸血鬼の傲岸不遜な姿までを見事に演じ分けている。

先にも触れた死体と踊る姿は一見シュールで笑えるが、同時に真に迫った妙な迫力がある。この映画きっての名シーンと言って良いだろう。

また、冒頭から踊っているバレエも違和感がなく、アビゲイルのキャラクターイメージ醸成に上手く貢献している。見る人が見れば気になる点はあるのかも知れないが、素人から見れば普通に説得力がある。ちなみに、演じたアリーシャ・ウィアーはバレエ未経験で、この映画のために練習を重ねたのだとか。

言い過ぎかもしれないが、数年後、アリーシャ・ウィアーが子役で出ていたホラー映画という観点でこの映画が注目される時が来るくらいのではないかとすら思っている。

youtu.be

味方の吸血鬼化、敵との共闘。謎の漫画的展開

その他、個人的に楽しくなってしまったのは終盤の展開。吸血鬼に日光が有効であることが判明した後は怒涛の展開で、サミーの吸血鬼化、謎ダンス、フランクが勧誘されての裏切りと、一気に物語が進んでいく。

特に、ランバートから脅し紛いの勧誘を受けた後、フランクが「どうにでもなれ」と吸血鬼になることを受け入れてからの展開が最高に好み。

少年漫画などでよくある、敵側の組織内で裏切りが計画される展開がまず好みで、本来弱かった存在がボスに一矢報いるレベルになってしまうというのも好き。

ちょっと状況は異なるが、吸血鬼(蝙蝠)繋がりで『仮面ライダークウガ』のズ・ゴオマ・グのような敵側での下剋上展開は大好きだ。

元警官のフランクがラスボス化を果たし、さらにはアビゲイルとジョーイ二人で共闘する様子はさながら漫画のようで、思わず唸ってしまった。

長く生きているはずのアビゲイル(彼女の口ぶりから特殊能力持ち)が、フランクに太刀打ちできない理由はよく分からないが、それでも吸血鬼同士の戦いはロマンに溢れていて面白かった。

おわりに

このように、ホラーとしては不満が残るが、観ていて楽しい作品だった。クオリティの高い馬鹿映画(誉め言葉)と言った感じで、人には勧めないが、観た人とは語り合ってみたい作品となっている。

ちなみに、数世紀単位で生きているアビゲイルにとって、白鳥の湖はどのような認識の曲なのかが気になっていて、もしかすると最近の曲という認識なのかもしれないし、場合によっては懐メロ扱いなのかもしれない。

と、ふとした思い付きを垂れ流したところで今回はこの辺で。

ではでは。


アビゲイル / Abigail (2024 / アメリカ、日本)
▶監督:マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット
▶脚本:スティーヴン・シールズ、ガイ・ビューシック
▶製作:ウィリアム・シェラック、チャド・ヴィレラ、ジェームズ・ヴァンダービルト
    ポール・ナインスタイン、トリップ・ヴィンソン

▶製作総指揮:ロン・リンチ、マクダラ・ケレハー
▶音楽:ブライアン・タイラー
▶撮影:アーロン・モートン
▶編集:マイケル・P・ショーヴァー
▶出演者
アビゲイル:アリーシャ・ウィアー
ジョーイ:メリッサ・バレラ
フランク:ダン・スティーヴンス
サミー:キャスリン・ニュートン
リックルズ:ウィリアム・キャレット
ピーター:ケヴィン・デュラント
ディーン:アンガス・クラウド
ランバートジャンカルロ・エスポジート
ラザール:マシュー・グード

*1:ちなみに、この記事を書いている時に調べていたら、FGOでアビーと呼ばれている金髪少女がアビゲイル・ウィリアムズだと知った。