たぶん個人的な詩情

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【映画感想】『バンパイアハンターD』――濃密で圧巻の102分をあなたに。ホラー、SF、ファンタジー、全てが混然一体となった傑作伝記アニメーション。

バンパイアハンターD Blu-ray special collection 【初回生産限定】 [Blu-ray]

はじめに

昨日、リバイバル上映で『バンパイアハンターD』を観てきました。仕事帰りに池袋で用事があり、ちょうど時間が余っていたので上映作品を物色していたところ、この作品を発見。

ブルーレイが発売されることも、それをきっかけに期間限定でリバイバル上映されていたことも知らず、勢いのまま翌日の席を予約しました。

この決断をした一昨日の私を褒めたい。

もしこの決断を下していなければ、きっとこの映画を観ることは、少なくともしばらくはなかっただろうと思うと、恐ろしさすら感じます。

観たのは池袋HUMAXシネマズ。行ったのは3年前の25周年ポケモン映画祭以来の二回目。下のブックオフには時折行っていたのですが、映画館自体は久しぶりでした。

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金曜日とは言え、平日の夜ながら中々の盛況ぶりの館内。『バンパイアハンターD』のシアターも結構な人数が入っており、客層も老若男女を問わず、バラエティに富んでいました。

往年のファンもいれば、私のように初めて観る観客もいたかと思います。恥ずかしながら実は菊地秀行さんの作品を通って来なかったタイプのオタクで、原作も未読。

ただ、そんな自分でもドはまりしてしまうほどこの映画は面白く、帰りの電車で欲望を抑えきれずにブルーレイの予約をしてしまうほどでした。

原作は今後絶対読むとして、まずは知識のまったくない、まっさらな状態で感想を書き殴って行きたいと思います。ネタバレ全開で書くので、未見の方はご注意ください。

あらすじ

吸血鬼マイエル=リンクに娘を誘拐された父親から、娘の救出を依頼されたダンピールのハンター・D。

同じく依頼を受けたマーカス兄弟や、逃亡を助けるべく雇われたバルバロイの民と争いながら、Dは一途マイエル=リンクの後を追う。

果たして、追想劇の結末は…。


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感想

とにかく面白かったです。この作品を劇場で観れたことへの感謝しかなく、王道のストーリーと美麗な作画、声優陣の演技や緊張感のある音楽など、すべてが素晴らしい映画でした。

まだ観ていない人は、何も言わずとにかくこの映画を観て欲しいと思います。特に、型月作品などに触れかつ毒されて来た人は必見です。言うまでもないかもですが。

すべてが詰め込まれ凝縮された世界観

原作も読まず、『吸血鬼ハンターD』の世界観や設定を知らなかった身からすると、これを知らずに伝奇に連なる作品群を観て来て、なおかつラノベ作家を目指したワナビだったかと思うと、恥ずかしさすら感じてしまいます。

それぐらい、すべての要素が詰まっている。

それでいて、奇を衒うではなく、まっとうに世界観とストーリーが組み立てられているので、観ていてストレスがなく気持ちが良いです。

型月作品を始めとする後代への影響が見て取れるのはもちろん、菊地秀行さんの作品自体からも、古き良きファンタジーやSFの芳香が香ってくるため、安心感や懐かしさ、あるいは納得感があるんですよね。「これだよ、これ」みたいな。

また私がこれまで『D』に近しい時代の作品に触れてきていたのも、良い意味での既視感と懐かしさを生んでいると思います。例えばジーン・ウルフの「新しい太陽の書」シリーズ。影響の有無はさておき、同じ源泉から生み出されたのはまず間違いないかと。

このように、菊地作品に触れて来ずとも、その周辺をなぞり、影響を受けた作品たちを浴びて育った身からすれば、懐かしいのは当たり前ですよね。

また、創作を志したことのある人間であれば誰しも、これほどの世界観が既に作り上げられてしまっている事への悔しさをこの作品から感じることでしょう。

ゴシックホラー、SF、ファンタジーマカロニウェスタン・・・、詰め込みたい要素がこれでもかと入っているのに、調和をなしているこの凄まじさ。何も生み出していない身が言うのも烏滸がましいですが、ただただ悔しいです。

映像美

ただ、映画としてまず圧倒されたのは、世界観や設定ではなく、美麗としか表現できないセル画アニメーションの美しさです。

貴族が娘を誘拐するまでの一連のシークエンスからまず美しいのは言わずもがな、Dとマーカス兄弟が出会うシーンにて、満月をバックにマントを翻し、ナポレオンもかくやと言ったポーズで静止するDを見て、この映画は「正解だ」という気持ちが確信に変わりました。

セル画のアニメに造詣が深くなくとも、この凄まじさは素人でも感じ取れるほど。映画館のスクリーンの大迫力で観れたのは本当に幸せでした。

特に迫力のバトルシーンの数々は圧巻で、Dとマイエル=リンクの邂逅時の鍔迫り合いは映画への期待感を高めますし、グローヴによるバルバロイの里での蹂躙は度肝を抜かれました。

また砂漠を大移動する巨大なエイの群れを馬で飛び越すシーンも、世界観の広大さとDの力量を見て取れて素晴らしいの一言。本筋とは無関係ですが、海外SFやファンタジーの香りを強く感じてとても良いですよね。

また、カーミラの城がゴシックと近未来の複合的なデザインだったことも感動です。城の一部が宇宙船になる演出は、具体的な作品はパッと出ないものの、古き良きSF味があって嬉しくなってしまいました。

102分。二時間に満たない圧倒的な濃密さ

そして、この映画を観ていて強く感じたのは、圧倒的な濃密さと、過不足のない展開への感動です。途中から、まだこの世界を観ていて良いのか、と驚くと同時に、いつかは訪れるこの世界との別離に、終わる前から悲しみを感じていたりもしました。

それくらい、あの世界観にどっぷり浸かっていたかったんですよね。

原作が長大なシリーズであることを知っている手前、もうこの作画とキャストとクオリティで、残りの『D』の物語が観れないことへの悲しさというか。『ファイブスター物語』の映画を観た時にも、似たような気持になったことを覚えています。

それにしても、先ほど触れたエイのシーンはもちろん、Dが村で馬を買う際のやり取りなど、本筋からは逸れた、それでいて大事なシーンを描きながら、それでも時間が足りてしまっているのもすごいですよね。

キャラクターも登場時間自体は長くなくとも、しっかりとキャラ立ちするだけの台詞や役回りを与えられているのもただただすごい。これこそ脚本の巧さなんだろうなと、感動してしまいます。

また、全体の緩急もメリハリがあって飽きが来ず、特に宇宙船が宙へと旅立ってからの流れは、それまでの展開も含めて感動してしまいました。この満足感と言ったらありません。大満足の映画体験でした。

おわりに

今となっては二度と聞けない豪華な声優陣や、ベテランとして第一線で今も活躍する声優さんたちの演技も素晴らしく、音楽も世界観にマッチしていてとても良かったです。

ちなみに、今作で一番惹かれたキャラクターは、貴族との愛を貫いたシャーロット=エルバーン。苦手な人は苦手そうな造形ですが、個人的にはかなり刺さるキャラクターでした。

単純に令嬢然とした容貌も好きですし、何よりカーミラの城で彼女が見せた芯の強さに惹かれてしまったんですよね。

最初に書いた通り、ブルーレイは予約したので、またこの世界観に浸れるのが待ち遠しいです。それまでは原作を読んで予習しておきたいところ。

菊地秀行作品は、興味を持った頃には既に絶版だったりと手に入り辛い状態で読めずじまいだったんですが、今では電子書籍で手に取りやすくなっているので、良い時代になったものだと思ってしまいます。

映画自体、あと数日はリバイバル上映をしているところもあるようなので、もし万一ここまで読んでいて映画館に行けていない方は、上映館を調べてみて欲しいと思います。

では、今回はこの辺で。

次回は本か漫画かドラマの感想になる気がしていますが予定は未定。待て次回。


バンパイアハンターD / Vampire Hunter D: Bloodlust (2000 / 日本)
▶監督・脚本・絵コンテ: 川尻善昭
▶原作:菊地秀行
▶キャラクター原案:天野喜孝

▶製作:山本又一朗
▶キャラクターデザイン:箕輪豊
作画監督:箕輪豊、浜崎博嗣、阿部恒

▶音楽:マルコ・ダンブロシオ
▶出演者
D:田中秀幸
左手:永井一郎
マイエル=リンク:山寺宏一
シャーロット:篠原恵美
ボルゴフ=マーカス:屋良有作
レイラ:林原めぐみ
カイル=マーカス:大塚芳忠
グローヴ=マーカス:関俊彦
ノルト=マーカス:大友龍三郎