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【映画感想】『あまくない砂糖の話』――砂糖は人間をどう変えるのか。監督自ら体当たりで挑む食育ドキュメンタリー。

あまくない砂糖の話(字幕版)

はじめに

はてなブログの「今週のお題」は「あまい」ということで、始めに自分語りをさせていただきますと、私は甘いものが大好きです。ファミレスに行くと頼む頼まざるとに関わらず後ろのページに目を通してしまいますし、マックスコーヒードクターペッパーこそが至高の飲み物だと幼少の頃より信じてきました。

好きなアイスクリームは何と言ってもハーゲンダッツ。特に好きな味はクッキー&クリームですが、当然他の味も大好きです。クッキーならムーンライト、チョコレートならクランキー。ケーキならレアチーズかチーズケーキを好んで食べます。毎日ビアードパパのシュークリームを食べられたらと願ってやみません。

洋菓子だけでなく和菓子も好きで、大人になってからは粒あんも行けるようになったため、何が来ようと美味しく食べられるようになってしまいました。ですが羊羹は中でも特別。芋羊羹や栗羊羹を口いっぱいに頬張る幸せは何物にも代えられません。

と、ここまで好きな甘味をとりとめもなく挙げてきましたが、そんなに甘いものが好きなら毎日こんなものを食べているのか、と思われるやもしれません。しかしそれは誤解も誤解。これらの中には、最後に食べたのがいつだろうかと首をひねりたくなる物も数多く含まれているのです。

では、私はどうして好きな物を食べないのでしょうか。

それはもちろん、健康に気を使ってのこと以外の何物でもありません。私だって毎日甘いものを好きなだけ食べれるのならどんなに幸せかと思いもしますが、残念ながら食べ続ければ体重は増えるし、健康は損なわれる。糖尿病になるかも知れませんし、いずれは肝臓を壊すかもしれない。

このように、私たちは甘いもの(=砂糖)を多量に摂取することが良くないことを知っています。しかし実際に砂糖を摂取し続けるとどのようなな結果を招くのか、私たちは漠然としたイメージしか持っていません。

果たして、砂糖は本当に毒なのか。父親になることを機に健康に意識が向いた男が、自ら体当たりでその疑問を解き明かそうというのが今回感想を書いて行くドキュメンタリー映画、『あまくない砂糖の話』の趣旨となります。

前置きが長くなりました。お題は「あまい」なのに、どうも甘くない話になりそうですが、以下お付き合いいただければ幸いです。

感想

本作は、オーストラリアにおける一日の砂糖平均摂取量、ティースプーン四十杯分を二か月間毎日摂り続けた時、人は一体どうなってしまうのか、という実験に監督のデイモン・ガモー自らが挑むというもの。

医師や栄養士協力のもとで行われる今回の実験では、砂糖の影響*1だけを調べるために運動は毎日欠かさず行い、お菓子やジャンクフードと言った不健康な食べ物は口にしません。口にするものはあくまでシリアルやヨーグルト、フルーツジュースと言った「健康」食品に限られ、カロリーの総量についても実験の前後で変化がないように維持されています。

実験開始前の彼は健康この上なく、その健康具合は医師のお墨付きをいただくほどでした。食生活もお嫁さんの影響で実にヘルシー。生成された砂糖は摂らず、脂質もアボカドなどから取っているというのだから大したものです。

そんな彼が毎日砂糖を摂り続けた時、果たしてどうなってしまうのか。

結論から言うと、二週間ほどで内臓脂肪が付き始め体重は3キロ増。腹回りは目に見えて大きくなり、健康から一転、不健康に足を突っ込み始めます。しかも甘いものを食べ続けた結果、頭は働き辛くなり、精神的にも参ってしまう有様。

その後も彼は砂糖を摂り続け、二か月後、最終的に彼の体に起きた変化はと言えば、体重は8キロ増え、体脂肪率は7%増加し、内臓脂肪によってウエストは10cm増。脂肪肝や糖尿病の初期症状も出始めたりと、悪影響は火を見るより明らかです。この一連の変化は見ているだけでちょっと恐ろしく、グロテスクですらあります。

そして本作の面白い所は、こうした監督個人の変化だけでなく、多角的に砂糖の影響を扱っている点だと言えるでしょう。彼がまず撮影のために赴いたのは、南オーストラリア州にあるアボリジニのコミュニティ、アマタ。

現在の彼らの生活は、砂糖と切っても切り離せないものとなっていますが、アボリジニの人々は元々砂糖などほとんど摂らない生活をしていました。アマタでは、砂糖を急激に摂るようになった彼らの現状について密着します。

その後、監督はさらに砂糖の影響を調べるため、砂糖最大の消費地であるアメリカへと飛び立ちます。訪れたのはケンタッキー州の貧困地域。移動歯医者として地域を回る歯科医の協力のもと、私たちは砂糖による子どもへの健康被害を目の当たりにします。

ここでは幼少期から果糖ましましのジュース、特にマウンテンデューの飲み過ぎによって多くの子どもが虫歯に侵されているそうです。中でも印象的だったのは、取材を受けてくれた十代の若者の惨状。ピアスでお洒落に決めてはいるものの、口の中は虫歯で埋め尽くされており、診断の結果、彼は残った歯(の残骸)を抜いて総入れ歯にすることになってしまいました。子どもの貧困と虫歯については日本でも話題になりますが、実際に目の当たりにするとちょっと驚いてしまいますね。

そしてアマタとケンタッキー州での撮影を通して浮き彫りになって来るのは、消費社会と砂糖産業の密接な結びつきです。専門家同士の長い論争の結果、健康に悪影響を及ぼすのは砂糖ではなく脂肪だという判が押され、現在カロリーは気にされど、糖分についてはお咎めなしとなってしまいました。

多くの企業は人間がどれだけの量の糖分を快いと感じるかについて日夜研究を行っており、その成果である菓子や果糖飲料が生み出す砂糖の誘惑は、ある意味で中毒性と呼べるほどの力を持つようになっています。

これは映画公開時点(2014年)の話ではありますが、一部の学者たちによる砂糖の健康被害を無視する発表の意図を探ってみると、学者の背後にはコカコーラといった砂糖産業の研究支援があったりするわけです。これについて作中では、現在の砂糖と健康の関係は、かつて煙草が辿ってきた道と酷似していると断言しています。

この辺りは少しメッセージ性が強く、主観が働いていることは否めないでしょう。当然甘いものの有害性は否定できませんが、それは摂り過ぎてしまう消費者側の問題だという企業側の主張も一理あると思います。ただし、砂糖被害への警鐘を鳴らす意味において、本作の持つメッセージ性が重要であることは否定できません。

監督のインタビューによれば、オーストラリアでは教育現場でこの映画が使われたりもしているようですし、日本でも十分食育の材料として使える作品だと思います。

www.moviecollection.jp

実際、私自身この映画を観てからは大好きな糖分をだいぶ控えるようになりました。例えば、菓子類を控えるようになったのはもちろんのこと、食品に含まれる果糖に今まで以上に目を配るようになったんですよね。

もちろん、砂糖が完全なる悪者というわけではありません。しかし、摂り過ぎが悪いのは当たり前のこと。砂糖の人体への影響を目の当たりにするとともに、私たちがどうして砂糖に惹かれてしまうのか、その理由について詳しくなることで、砂糖を控えるきっかけにはなると思います。

ちなみに、扱われる内容がドキュメンタリーとして面白いのはもちろんですが、映像作品としても十分に面白くて接しやすいことも本作の大きな魅力の一つです。

基本的に本作で扱われる映像は監督の自撮りと他撮りですが、砂糖の種類や人体の仕組みを説明する幕間にはコミカルなCGや軽快な音楽を用いた寸劇を流し、観客が飽きずに楽しく見られるようになっているんですよね。この寸劇は『ジュラシック・パーク』に登場するDNA君のアニメーションを彷彿とさせるものがあります。

今ならプライムビデオで無料で見ることが出来ますし、百聞は一見に如かず、興味のある方はぜひ見てみては如何でしょうか。砂糖の人体への影響や社会における扱いだけでなく、どうして人は砂糖に惹かれてしまうのか、といった理由についての説明もコミカルに行われ、一時間半ほどの時間で砂糖について楽しく学ぶことができます。

おわりに

私たちの身近には有史始まって以来の量の砂糖が存在しています。かつて貴重だったカロリー源であった糖分を美味しく感じるのは人間の性であり、食べ過ぎると害になることを分かっていながら、私たちは砂糖の誘惑から逃れられません。

この辺りについては先日感想をあげた新潮新書の『スマホ脳』にも似たようなことが書かれていましたが、文明が与える快楽に人類が適応できていない、というのが最近のトレンドの一つなのかも知れません。

bine-tsu.com

ちなみに、最初に触れた今回の「今週のお題」の説明文を引用しますと、

暖かくなってきました! すでに桜が咲いているところもあるようです🌸 桜といえば、花見! だんごに草餅、どらやきにカステラ……。なんだか甘いものが食べたくなってきました。それでは、今週は「あまい」をテーマに皆さんからのエントリーを募集します! 「花見にもってこいの春のスイーツ」「ブログを書くときに食べてる甘いおやつ」「見通しが甘かった経験」「あのころの甘い記憶」など、あなたの「あまい」について、はてなブログに書いて投稿してください! 皆さんのご応募をお待ちしております!

とのこと。結局「あまくはない」まったく正反対の内容となってしまいましたが、まあ今回はご容赦を。たまたま書いていた記事の下書きに合致した(してない)お題が来ていたため、それをだしに感想を仕上げてしまいました。

最後に甘いもの関連の悩みを一つ。それというのは、コンビニやスーパーで売っているミルク入りコーヒー飲料の多くに砂糖が入っていること。さらに質が悪いのは、この手の商品、パッケージを見ただけでは砂糖の有無が分かり辛いんですよね。

数年前、白地に水色の模様のジョージアの無糖ラテが店頭に並んでいた際はよく飲んでいたんですが、最近は残念ながらあまり見かけません。調べてみると無糖の新しい商品も出ているようですし、この手の商品が広く取り扱われることを切に願います。

と、いつになく長くなってしまいましたが、今回はこの辺で。継続は力なり。甘いもの断ちを続けられるよう頑張ります。

▶あまくない砂糖の話 / That Sugar Film(2014 / オーストラリア)
▶監督:デイモン・ガモー
▶製作:デイモン・ガモー、ニック・バッツィアス、ローリー・ウィリアムスン
▶脚本:デイモン・ガモー
▶音楽:ジョジョ・ペトリーナ
▶撮影:ジャド・オーヴァートゥン
▶編集:ジェーン・アッシャー
▶出演:
デイモン・ガモー
ヒュー・ジャックマン
スティーヴン・フライ
イザベル・ルーカス
レントン・スウェイツ

*1:本作で問題される「砂糖」とは主に果糖のこと。