たぶん個人的な詩情

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【映画感想】『合衆国最後の日』――核サイロを占拠した脱獄犯。要求は、ベトナム戦争の真実を国民に公表すること。派手ではないが見応えのある政治サスペンス。

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はじめに

流感にやられたことは先の記事で書いた通り。かかる前はちょっと高い熱が出るくらいだろうとたかをくくっていたら、熱は出るは、熱が落ち着いてきても頭のふらふらは一向に収まらないはで、本当にきつい。

ふらふら自体は横になっていると比較的何ともなかったんですが、体を垂直にすると途端にまあまあきつくなるわけです。そんな中やれることと言ったら、お決まりの読書かと思いきや、本の文字を追うと目が回ること回ること。

一番楽に時間を潰せるのはスマホで動画を垂れ流すことなんですが、その生産性のなさに焦りを感じるお年頃なのも事実。で、スマホで映画を観てみようとアマプラで見つけたのがこちらの作品。

タイトルは『合衆国最後の日』。監督はロバート・アルドリッチ。主演はバート・ランカスター。共に名前を聞いたことはあれど、見たことはない二人だったのと、視聴期限がそろそろ切れるということで観てみることに。

結論から言うと、中々面白い作品でした。歴史に残る傑作とは言えずとも、折に触れて様々な角度から語り継がれるべき佳作だと思います。ネタバレに触れつつ感想を書いていくので以降の感想を読む方はご注意を。

あらすじ

時は1981年。元アメリカ空軍将軍・ローレンス・デル率いる脱獄囚一行は、核ミサイルサイロを占領し合衆国との交渉を目論んでいた。

私欲のために動く他の3人に対し、デルの目的は一つ。それはベトナム戦争について政府が隠している真実を国民に公表すること。

大統領によって招集された国家の中枢は、国民への公開を反対しデルたち犯人の排除を画策する。デルたちは要求を通し、自由を手に入れることができるのか。

感想

敵なき中、疎外される国民

アクション味溢れる映画ポスターに反して、本作の見所はベテラン役者たちが繰り広げる会話にある。会話を交えるのは、要求を突きつける犯人サイドと、突きつけられる国家の要人たち。もちろん、彼らも一枚岩ではないため、同じ陣営の中でも話し合いが行われる。

しかし、そこに国民の姿はない。

世界が最も核戦争の危機に瀕する中、当事者であるはずの国民の姿は最後まで描かれないのだ。ただ、犯人と政府の間で粛々と交渉が行われる。

彼らはミサイルサイロが乗っ取られたことも、犯人が政府に何を要求したかも知らないまま、事後的に事件の発生と収束を知ることとなる。

政治のテーブルから疎外されながら、戦争では真っ先に犠牲となる国民たち。当時、自分たちが疎外されているという感覚は、ベトナム戦争が終わり当事者性も薄れるにつれて、より増していったに違いない。

事実、本作の登場人物たちも国民のことは見ていない。国民に判断を委ねず、隠ぺいを貫く政府の要人。国民を教育しようと目論むデルにしても、真に国民を見ていたのかは謎だ。デルの姿からは、目的が理念や観念と化してしまった者に特有の、凝り固まった頑迷さと挫折が見て取れる。

ただ、この映画で疎外されているのは国民だけではない。ここではそもそも個人すらが疎外されている。それは大統領ですら例外ではない。

渋い役者の光る演技

この映画はアクション的な盛り上がりがない一方で、それを補って余りあるほど役者たちの演技が良い。彼らの存在もあり、軍周りのセットのチャチさから、ともすれば非現実的になりそうな作品の雰囲気を、地に足の付いたものにしている。

中でも、個人的に印象深いのはチャールズ・ダーニング扮する大統領だ。

当初は優柔不断な男に過ぎないが、事件を通して彼は「大統領」になる。人質として死ぬことに恐怖し引きこもり、部下に対し弱音を吐くが、そこからの変貌が素晴らしい。

銀幕が米国大統領をいかに描いてきたかを詳細に論じた『大統領とハリウッド』によれば、この大統領はカーターの時代に描かれがちだった「弱い大統領」の一例として扱われている*1

しかし、たとえ弱かろうが、スティーブンスが国民を思う大統領であったことは間違いない。優等生ではないが、誠実な男だったのだ。彼は、時代に殺された。

強い大統領を求める動きも分かるが、彼のような「弱い大統領」が活躍できる社会や政府こそ求められるべきなのではないかとも思う。

大統領の話ばかりしてしまったが、彼を取り巻く一筋縄ではいかない国家の中枢の老人たちも迫力があるし、バート・ランカスター演じる主人公、ローレンス・デルも魅力的なキャラクターだ。

賢い男ではあるが、時に見せる自信のなさは人間味に溢れており、そうした彼の姿があってこそ、当初反目していたパウエルとの絆を深める契機にもなったのであろう。

ちなみに、国務省のトップ、レンフルーを演じているのはジョゼフ・コットン。キャストを見るまで気付かなかったが、往年の名優らしい存在感を発揮している。

緊迫感を高めるスプリットスクリーン

そして、終始緊張感漂うこの映画を支えているのは、役者の演技だけではない。分割画面の手法も効果的に用いられている。

水と油が混ざりあわないように、意見や立場の異なる者が言葉を交わす際に、これでもかと使われるこの分割画面。

例えば、デルが元上司・マッケンジーとやり取りをするカット。テンポを落とさずに互いの状況を見せることで、言外のメッセージを観る者に伝えてくれる。

電話が多用される作品だからこそ、この手法はとても効果的。もし電話の度にカットで両者の画を繋げていたのでは、テンポなどあったものではなくなってしまうだろう。

もちろん、この方法で緊迫感を高めているのは会話パートだけではない。

サイロ3の指令室に爆弾を仕掛ける潜入作戦では、状況を一望できるよう画面を四分割しており、観る者の緊張感を高めてくれる。ジェリー・ゴールドスミスの音楽も相まって、この辺りは手に汗握る展開だ。

最近の映画ではあまり見ない技法だが、そういった点でも面白い作品となっている。

おわりに

個人的に満足のいく作品だった。こういう掘り出し物があるからこそ、映画を観るのはやめられない。良い作品と出会うと、まだまだ知らない作品、見逃していてる映画はたくさんある、ということを良い意味で思い出させてくれる。

実は年間で五十本という目標が未達に終わりそうではあるのだけど、くよくよせずに来年も自分のペースで映画を観たいと思ったところで今回はこの辺で。

書きたいブログもある一方で、読みたい本や観たい映画もたくさんある。まだ調子が上がり切らない中、あるようでない休みをいかに使っていくかが試される。


合衆国最後の日 / Twilight's Last Gleaming (1977 / アメリカ、西ドイツ)
▶監督:ロバート・アルドリッチ
▶脚本:ロナルド・M・コーエン、エドワード・ヒューブッシュ
▶製作:マーヴ・アデルソン
▶製作総指揮:ヘルムート・イエデレ
▶音楽:ジェリー・ゴールドスミス
▶撮影:ロバート・ハウザー
▶編集:マイケル・ルチアーノ、ウィリアム・マーティン、モーリー・ワイントローブ
▶出演者
ローレンス・デル(元空軍将軍):バート・ランカスター
マッケンジー将軍:リチャード・ウィドマーク
ティーヴンス(大統領):チャールズ・ダーニング
ウィリス・パウエル:ポール・ウィンフィールド
ラルフ・ウィテカー:リーフ・エリクソン
オージー・ガルバス:バート・ヤング

ザカリア・ガスリー:メルヴィン・ダグラス
アーサー・レンフルー:ジョゼフ・コットン

*1:村田晃嗣『大統領とハリウッド』、中公新書、107頁