はじめに
先日『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』を観ました。YouTubeの広告か何かで見かけ、気になっていたんですよね。
観たのは日本橋のTOHOシネマズ。三越前駅に隣接しているので立地は最高。日本橋周辺に降りたことのなかった私でも、迷わず行くことができました。
とは言え、映画までは時間があったので、映画館には直行せず2時間ほど日本橋周辺を散策。知り合いに勧められたカフェや日本橋、丸善などを堪能してきました。
もともと東京駅周辺の街並みは好きだったんですが、日本橋方面には行ったことがなくせいぜい丸善まで行ったことがあるくらい。で、今回散策してみると、めちゃくちゃテンションの上がる街並みで、歩いているだけでも楽しかったです。
個人的に、あの辺りの街並みはウォールストリートっぽくて好きなんですよね。あくまで勝手なイメージなんですが。
と、余談はこのぐらいにして、映画の感想を語っていきたいと思います。
感想
裏切りはシスの道
アプレンティス(apprentice)という単語を人が知ることになるタイミングがいつなのか知らないのですが、私にとってのファースト・アプレンティスは「スター・ウォーズ」シリーズでした。
シス・アプレンティス。フォースのライトサイドを司るジェダイの師弟が、マスターとパダワンと呼ばれるのに対して、ダークサイドを司るシスの師弟は、マスターとアプレンティスと呼ばれます。
もちろん、この「アプレンティス」はトランプが出演していた同タイトルのリアリティ番組とかけているのでしょうが、言葉の連想ゲームだけでなく、この映画は「裏切りはシスの道」的な意味でスター・ウォーズでした。
シスの価値観において、マスターはアプレンティスを育てながら、同時に寝首をかかれることを恐れます。しかし、シス繁栄のためには、自分を殺せるぐらいの力を持って貰わなければならないわけです。
青年時代のトランプに大きな影響を与え、彼を弟子さながらに教え導き、そしてついには零落した男。本作におけるシス・マスターは、ローザンバーグ事件で検事を務め反共産主義の急先鋒に立ち、後に弁護士としても悪名を轟かせたロイ・コーン。
ロイ・コーンの教えが一人の純朴な青年を怪物へと変えていく過程が面白く、どこまでが真実なのかはさておき、政財界を舞台とした師弟もの、そして一人の男の成り上がりものとして、この映画は楽しめます。
政治色を抜きにした、ドナルド・トランプの映画
サクセスストーリーとして完成された脚本。当時の映像を彷彿とさせる映像の粗さ。時代を感じさせる音楽。そして、これらの良さが余すところなく楽しめるのは、役者の演技があってこそ。
ドナルド・トランプを演じるセバスチャン・スタン。そしてロイ・コーンを演じるジェレミー・ストロング。彼らのことはまったく知らなかったのですが、本当にこの二人はすごかったです。
野心はあれど、悪に対して耐性のない若かりしトランプ。そしてロイの哲学を実践して変貌を遂げたトランプ。この変化を見事に演じ分けるスタンの演技は素晴らしく、『市民ケーン』のオーソン・ウェルズを思い出しました。
青年から壮年への変化だけでなく、立ち居振る舞いなどからトランプらしさを醸し出しているのもすごい。まるで本物のトランプと見紛うほどでした。
そして、ロイ・コーンを演じたジェレミー・ストロングの演技も素晴らしいの一言。存在感は保ちながら、勝ち組から敗者へ落ちぶれるまでを見事に演じています。冷徹な男のようでいて、愛情や苛立ちなどの感情が見え隠れする様は感動すら覚えます。
この映画は彼ら二人が中心となるわけですが、ロイ・コーンとドナルド・トランプの関係性も見ていて面白いです。トランプを息子のように、損得なしに教え導くロイ。同性愛者である彼にとって、トランプは得難い息子の代替物に他なりません。
この父と子の関係のために、本作はトランプによる父殺しの物語でもあります。この点でもスター・ウォーズ的だと感じたわけですが、師であるロイは言わずもがな、実の父であるフレッドも彼にとっては「殺し」の対象です。
厳しくドナルドを育てた彼は、遂には仕事の成果で息子に追い抜かれ、最後はぼけ始め蔑ろにされてしまう。父だけでなく、家族に対する関わり方の変化も、トランプの変貌を象徴する一幕です。
トランプに対して、良くも悪くも冷静でいられる人が少ない中、この映画はあくまでフラットな視点でこの男を描きます。そのため、政治などを抜きに、純粋な気持ちでトランプの変貌を楽しむことができるのもこの映画の良いところでしょう。
また70年代から80年代のアメリカの雰囲気を感じると共に、時代を追体験できるのもこの映画の見所の一つ。アメリカンドリームの体現者、時代の寵児であるドナルド・トランプを知っている人々の気持ちを体感したことで、彼が大統領に選ばれる背景なども垣間見えます。閉塞感のある中、彼を選ぶ人の気持ちも分かる、みたいな。
久しぶりに「観たぞ!」という感覚を覚えた映画で、名作を観終わった後特有の充足感を覚えながら映画館を後にしました。上映館はそう多くない感じなので、きっと長くは公開されないのでしょうが、ぜひとも観て欲しい一作です。
おわりに
という訳で、『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』の感想でした。期待はしていたもののそれを上回る満足感で、自分の中では早くも今年の観た映画ベスト5には入ってきそうだと感じています。
ただ、本作の予告で観た『セプテンバー5』『教皇選挙』『ベイビーガール』なども面白そうだったので、そちらも観たうえでベストは決めていきたいところ。
昨日も映画館でアニメ映画を観たりと、自分にしては映画館で映画を観ている頻度が高いので、引き続き映画館に通っていきたいですね。
ちなみに、本作を見ていて連想した「スター・ウォーズ」というのは、本編の映画ではなく、『シスの復讐』にて語られるダース・プレイガスを描いた小説『ダース・プレイガス』。この小説では、プレイガスがパルパティーンを弟子とし、裏切られるまでが丹念に描かれています。
シスの思想が色濃く描かれたこの小説は、個人的にこの映画と近しいものを感じる内容なので、気になる方はぜひ。普通に小説としても面白いのでお勧めです。
では、話が逸れ過ぎてもあれなので今回はこの辺で。
次回更新は未定ですが、本の感想か昨日観た件のアニメ映画の感想になるかなと思っています。ただし予定は未定。ではでは。
▶アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方 / The Apprentice
(2024 / カナダ、アメリカ、デンマーク、アイルランド)
▶監督:アリ・アッバシ
▶脚本:ガブリエル・シャーマン
▶音楽:デヴィッド・ホームズ
▶撮影監督:キャスパー・タクセン
▶編集:オリヴィア・ニーアガート=ホルム
▶特殊メイク:ショーン・サンソン
▶出演者
ドナルド・トランプ:セバスチャン・スタン
ロイ・コーン:ジェレミー・ストロング
イヴァナ・トランプ:マリア・バカローヴァ
フレッド・トランプ:マーティン・ドノヴァン
メアリー・アン・トランプ:キャサリン・マクナリー
フレディ・トランプ:チャーリー・キャリック