たぶん個人的な詩情

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読書:秋吉理香子『暗黒女子』――ある少女の死にまつわる六つの物語。

暗黒女子 (双葉文庫)

暗黒女子 (双葉文庫)

 

名門女子高で、最も美しくカリスマ性のある女生徒・いつみが死んだ。一週間後に集められたのは、いつみと親しかったはずの文学サークルのメンバー。ところが、彼女たちによる事件の証言は、思いがけない方向へ――。果たしていつみの死の真相とは? 全ての予想を裏切る黒い結末まで、一気読み必至の衝撃作!

真相は藪の中。関係者の言い分が食い違い、真相が分からないことを意味するこの言葉、元々は芥川龍之介の短編「藪の中」が由来だそうで、今回感想を書いて行く小説もまた、当事者間の証言に齟齬が出るタイプの作品だったりします。

本書『暗黒女子』で語られるのは、一人の少女の死の真相について。死んだのは、絵に描いたようなお嬢様学校のお嬢様、白石いつみ。自殺か、はたまた他殺か。彼女の死後、学内に広がった一つの噂――文学サークルのメンバーの誰かが、彼女の死に関与している――の真相を明らかにすべく、白石いつみの死について、メンバーそれぞれが自作の小説を披露しあうことに。果たしていつみの死の真相は……と言った内容の本作。

「信頼できない語り手」なんて言葉もある通り、一人称の語りの場合、どうしても話者の視点から読者は抜け出せないわけで、叙述トリックの例を挙げるまでもなく、それは一人称小説にどこまでも付きまとってくる問題となっています。

この作品の場合、語り手全員が容疑者と言う前提が最初からあるため、当然読者は騙されないよう最初から目を凝らして小説を読み進めるはず。ですが、よくよく読んでみると、それぞれの小説からは、数々の矛盾が綻びのように見つかると言う有様。

いつみの死の真相、そして誰が嘘を付いているのか。謎が謎を呼び、最後まで飽きずに読むことが出来るであろう本作、少なくとも私は最後まで楽しんで読むことが出来ました。少女たちの視点を借りた語り口は読みやすいですし、そうした語りの軽さとは裏腹に、女子特有のドロドロが感じられるのも良いんですよね。

例えば作中にて、自身も語り手の一人となる交換留学生が、舞台となる女子校の雰囲気についてこんなことを口にしています。

教室には、何本もの糸が張り巡らされているようでした。そしてその中を、誰も無関心でくぐり抜けることはできず、からめとられてしまうのです。――中略――そしてその力関係は、日々、いえ、数時間ごとに変化する、めまぐるしいものなのです。――中略――彼女たちの駆け引きには――このような日本語の表現がふさわしいかわかりませんが――砂だらけの地面に心臓をこすりつけられているような、ひりひりした痛みを感じました*1

本書にはこうした記述が数多く見られますが、女子高生の言葉を借りたそうした表現もまた、本作の魅力の一つではないでしょうか。期待させるのもあれですが、個人的にはお勧めなので、惹かれるものが一つでもあれば、是非手に取ってみて欲しいと思います。

ちなみに、この記事を書いている最中に知ったんですが、どうやら本作は映画化もされているようで、現在アマプラでも配信されていたりします。

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まだ冒頭を見たに過ぎないんですが、意外と面白そう(失礼)なので、時間を見つけて続きも観てみる予定です。そちらの感想も書くことになる……かも。

その他、具体的に良かった点についても触れていきたいのですが、作品の性質上ネタバレはご法度でしょうし、以下ネタバレありで感想を書いて行きたいと思います。気になる方はご注意ください。

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顔が見えて来ない小説、と言うのがこの小説を読み終えた第一印象だったりします。と言うのも、本作は徹頭徹尾、自作小説の語りによって展開されていくため、どうしても彼女たちの素顔が見えて来ないわけです。自分の嫌な面は当然取り繕われていますし、他者は明確な意図をもって手が加えられている。

そうした不透明なキャラクター描写と、作品間の矛盾による不思議な浮遊感を味わいながら、辿り着くのは衝撃の展開。いやあ、良かったです。いつみが腹に一物抱えた人物であることは薄々勘付いていましたが、そこからすべてを持って行った澄川小百合にはやられましたね。

顔が見えて来ないと書きましたが、この澄川小百合と言う少女こそ、顔の見えないキャラクターの最たる例でしょう。彼女は容疑の円環から抜け出ているだけに、ほとんど小説内では触れられておらず、幕間にて進行役を務める程度の登場に過ぎません。しかもその進行は彼女自身の語りによるため、客観視される場面がほとんどない。

だからこそ、彼女が話の中心に突如として現れた際のインパクトは強く、やられたと言う思いが強く残るんですよね。恐らくイヤミスに分類される作品ではあるんでしょうが、個人的には清々しい読後感すら感じてしまいます。好きなんですよね、自分を抑えているキャラが自分を解放する展開。

ちなみにこの作品、終始澄川小百合の語りによって展開されているため、最後の自白(?)を含め、すべてが彼女の妄言とも取れ得る作りとなっているのが上手いですよね。その点の不気味さは小説特有だと思いますし、ばっちり登場人物が表に出てしまう媒体では出来ない表現だと思います。

と、感想までもが澄川小百合に持って行かれてしまったわけですが、この手のキャラが好きなんだから仕方がない、と思いつつ、今回はこの辺で。

▶暗黒女子 (2013)

▶著者:秋吉理香子

▶カバーデザイン:鈴木久美

▶カバーイラスト:大槻香奈

▶発行所:双葉社

▶発行日:2016年6月19日 

*1:秋吉理香子『暗黒女子』、双葉社、2016年、131-132頁