たぶん個人的な詩情

本や映画の感想、TRPGとか。

読書:三谷宏治『戦略読書〔増補版〕』――読書には戦略が必要だ。なにを、いつ、どう読むかと言う問題。

なぜ本を読むのかと言う問いへの応えは十人十色。好きだから、学びたいから、何となく、惰性で、明日の課題のために……etc。

人それぞれに読む理由はあれど、その理由は大きく分けて二つ。それは目的意識の有無によって大別される。

楽しさを求めて本を読む場合にしても、娯楽としての目的を持っていると言えなくもないが、ここで言っているのは当然ながら具体的な目的のことである。つまりは必要な知識の習得、キャリア形成の糧、先々の将来に向けた自己陶冶。

正直言って、自分はこれまでの人生でこう言った目的意識を持って本を読むことをしてこなかった。もちろん、課題のために本を読む必要に迫られたことはあるけれど、それは短いスパンで設定された消極的な目的に過ぎない。

それに対して本書『戦略読書』で語られるのは、まさしく読書における「戦略」と言っていい。これは人生と言う長いスパンにおいて「どう本を読んでいくべきか」についての指針である。

本書では目的ごとに読み方を変える必要性*1や、読者が注目すべき五つの視点*2、著者がお勧めする本の紹介、また自宅に書斎を設けることの重要性などが説かれてはいるが、一番の読みどころは何と言っても、著者流の読書戦略の肝をなす「読書ポートフォリオ」についてだろう。

読書ポートフォリオとは、ジャンル*3ごとにかける読書時間を分配することを指す。しかもその上で、著者は社会人としての自らの状況に合わせ、その分配の構成を変えていく必要を説いている。読む本をジャンル分けし、読む分量を設定するまでは理解できるが、読む本の割合をその都度変えていくという発想は自分の中にはないものだった。

年間に本を100冊読む場合、社会人一年目はビジネス系に全力投球し基礎を10冊、応用を90冊読む。二、三年目はビジネス系と非ビジネス系の割合を1:1に……と言う風に、自らの立場に合わせ、その必要性を考えて読書に取り組んでいく。 

詳しい解説や分類は実際に本書を手に取って貰うとして、面白いのは、サラリーマン小説をビジネス系として分類していること。ビジネス系に集中して取り組んだ翌年から非ビジネス系の割合を増やす理由もまた面白い。これは著者の実体験から来ているそうだが、何でもビジネス系の本だけに集中して社会人一年目が過ぎたある日、同僚と意見が丸被りしたのだと言う。独創的な発想ならまだいいが、それは凡庸で、著者曰くつまらない意見だったそうだ。

その理由を考えてみればことは単純。自分が周りと同じようなものしか読んでなかったからだと言う。オリジナリティを育むには、人と同じ本を読んでいてもダメなのだ。だからこそ、著者は非ビジネス系の重要性を説く。ちなみに、著者が推薦する非ビジネス系はSFに歴史小説など。この辺りは好みだと思うが、推薦図書もたくさん掲載されているし、指針がないのであれば参考になるだろう。

下記の記事は、そんな著者の体験にも触れつつ、本書の概略が丁寧に語られている。正直、このブログを読むよりも参考になるのではないだろうか。 

すべてを本書の述べるがままに適用していくかはさておいて、その考え方や発想は面白かった。先にも書いた通り、私はそうした目的意識を持って本に接してこなかっただけにとても新鮮であったし、考えさせられる面も多々あった。

特にここ最近、時間がないことに対しての焦燥感を抱いていた身としては、読書に効率を求め、目的意識を持って接すると言うのは理に適っていると感じる。この手の本の特徴として、著者の過度な自分語りはあるし、それが鼻につかないとは言わないが、自らを卑下するくらいなら、成功者らしく堂々と自慢をしてもらった方が断然良い。

本の読み方に悩んでいる人はもちろんのこと、ある程度自分の読書へのスタンスが確立されている人についても、他人の読書スタイルを知るのは良い刺激になるだろう。思いのほか、人がどのように本と向き合っているかを知る機会は少ない。一人の読書家の習慣を覗いてみるという興味本位でもいい。少しでも気になったのならば、本書を手に取ってみてはいかがだろうか。

戦略読書 〔増補版〕 (日経ビジネス人文庫)

戦略読書 〔増補版〕 (日経ビジネス人文庫)

  • 作者:三谷 宏治
  • 発売日: 2020/06/02
  • メディア: 文庫
 
戦略読書 無料お試し版

戦略読書 無料お試し版

 

▶戦略読書[増補版](2015)

▶著者:三谷宏治

▶発行:日経BP / 日本経済新聞出版本部

▶ブックデザイン:小口翔平・賀來詩織(tobufune)

▶発行日:2020年6月1日

*1:「粗読み」「斜め読み」「熟読」「重読」。

*2:「対比」「反常識」「数字」「一段深く」「抽象化」。

*3:著者の言葉を借りればセグメント。ビジネス系・非ビジネス系と言うジャンルに対し、それぞれ応用・基礎を設けた四つのセグメントから成る。